第9話
Tと僕は今度は下の方へいってみることにしました。ちょっと傾いた通路を操舵室から上甲板へとたどり、いよいよ船の本体へ入っていきました。
通路の両側には、がらんとした大きな部屋がいくつもありました。どうやら上の船室と違って、2等か3等の船室だったのでしょう。積もった塵の他には何も見あたりません。しばらくすると、下へおりる階段がありました。Tは、もうすっかり勝手がわかっているらしく、下へ行こうと合図しました。
沈没船と言うと、骸骨とか幽霊とか、なんとなく不気味なイメージがつきものです。だから、ただでさえ暗くてあまりいい気持ちがしないのに、更に真っ暗な穴の中へ入っていくのは、正直なところちょっと勇気がいりました。
階段をおりると、そこはどうやら船底のようで、大きな部屋になっていました。ライトをあちこちに向けてみると、大きな機械があって、メーターやスイッチの類がついた計器板がたくさん並んでいます。
「そうか、ここは機関室なんだ。」
そう思ってTの方を振り返ると、僕の考えがわかったらしく、巨大なエンジンを照らしだしたり、スイッチを入れる真似をしてみせたりしてくれました。かつては船に命を与えていた心臓も、止まってしまえばただの鉄の塊です。水中ライトの光にぼんやりと浮かび上がった機関室も、今までの部屋と同じでただ物悲しいばかりのように見えました。
ところが、戻る前にもう一度部屋を見回したときのことです。何か目の隅にぼんやり光るものがあります。不思議に思ってライトで照らしてみると、計器板の隅の方がかすかに光っているのです。なんだろうと思ってちかよってみると、どうやらメインスイッチのようです。しかも、手を触れてみると、まだ動くではありませんか。
「こんなスイッチ、いまさら入れたところでどうにもならないさ。」
そうは思いましたが、僕は何気なくスイッチを入れてしまったのです。
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