人には、必ず苦手とする相手がいるものだ

 

 マセコは顔を左右にふった。


「ハカセ……、それ、逆にまずい」

「そうですか」


 ハカセは回覧板を脇に抱えると、レヴァルに声をかけた。


「玄関の前に立ちなさい」

「俺がか」

「そうです」


 ハカセ、そこでスマホを取り出して、太陽をながめている。


「太陽の位置、東50度。とすれば、ここ、スマホの角度で逆光にならない位置ですか」

「あ、あの」


 マセコ、全く事情が読めなかった。超絶かんちがい少女だったマセコでさえ、調子が狂う唯一の相手だ。


 子どもの頃だって。


『おばさんは何歳なの』って、小首を傾げて聞いてみたことがある。


 最高難易度のテクニックで、9歳の愛らしい顔をつくり、母親からの使命を全うしようと頑張った。


『永遠の30歳です』と、ハカセが答えたものだ。



 19歳のマセコ、あの9歳だった自分と同じ無力感を感じた。


「あの、ハカセ。何をしてるのですか?」

「レヴァルの顔写真を撮影しています」

「ですから、なぜ」

「顔がわからなくては、まずいと、あなたの言葉で気づいたのです。写真を回覧板にはって、まわします」

「いや、いや、いや、まずいが二乗してるから。さらに、まずくしてるから」


「顔の向きはこっちでいいのか」


 おい、レヴァル、モデル顔してなに言ってんの。


 もとはと言えば、この男だ。

 サラを探しにいく旅の最初で母親に説明するとか言うから、こんなややこしいことになっているんだ。



(いや、たぶん、つづく)

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