ドアの向こう側って
マセコがハカセ家のドアをガンガン叩いていた。
最初はドンドンだったが、そのうち、興奮してガンガンになっていた。
「ハカセ、開けなさい! ネタは上がっている」
「ネタとはなんだ」と、レヴァルが驚いた。
「細かい男ね。ネタって言えば、普通、どんな二時間ドラマだって見てる人が想像するじゃない」
「いや、それは、想像する余地のあるネタがあるからだろう、普通」
「まったく、あんたが顔だけの男だったなんて、もっと早くに気づくべきだった。普通に」
「だから、ネタとは」
「そんなもん、これ書いてる女が勢いで、パソコンにペコペコ文字うちしてんだから、わかるはずないでしょうが」
「それでネタって。読んでる人に、どんだけ想像力を期待してるんだ」
ドンドン、ガンガン、ペシペシ……
ハカセがドアを開けない代わりに、お隣さんが庭先からのぞいた。
「あ、あんたたち、妙な格好して何をしてるの、け、警察を呼ぶわよ!」
「俺のことか」
うわ〜〜〜。超絶イケメン、エルフの血4分の1美形男。世界中の男を敵にまわす美貌のレヴァルが、まったく予想だにしてなかった隣のおばちゃんをにらんだ。ちなみに、鈴木トメという非常に平凡な仮名だ。
そう、その鈴木トメ、御年59歳のおばちゃん、レヴァルを直視した。そして、その場で腰砕けの技にかかった。
目がいってる。かなり奇妙な方向にいってる。
「あわあわあわ」
おばちゃん、言葉にならない。
「どうしたのだ」
自覚まったくなしの迷惑超絶イケメン、おばさんに近づいた。文字通り、おばさん、腰を抜かして涙をながしている。
「レヴァル、ちょっと微笑んで、あのおばさん、黙らせな」
「え」
「いいから、口元を上にあげて、流し目」
レヴァルは丁寧にマセコのアドバイスに従った。
つまり、超絶イケメンが、かるく唇を曲げて微笑みをうかべ、右から左へと瞳を移動して、気の毒なおばさんを見つめたのだ。
だから、おばさんが、泡をふいて失神したとしても、そこはそれで仕方のないことだった。
誠に美は最強の恐怖と同じ作用をおこすようだ。
「な、なんで気絶してる」
「いや、そこか。その自覚のない、あんたのほうが、よっぽど失神もんだ」
(限りなく、つづく)
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