[エピローグ]うるわしき燃ゆる乙女



 マセコがレヴァルを肩に背負うようにして聖なる山シオノンを降りると、レヴァル小隊が待っていた。

 彼らは別れた地点にビバークして下山せずにいた。


 最初に気づいたのはガルムで、顔をくしゃくしゃにして走ってくると、背後の仲間にむかって叫んだ。


「帰ってきた。ふたりが帰ってきた」

「帰ったよ」

「炎の巫女は」

「ドラゴンとともに去った」

「もどってくるよな」と、ガルムが聞いた。


 レヴァルは答えない。


「おい、上を見ろよ」と、誰かが大声をあげる。

「なんだ」

「雲が、雲が、おい雲が裂けていく」


 みな空をながめた。

 はじめて雲が薄くなる世界を見た全員が、その奇跡に言葉を失った。


「奇跡だ」と、エイクスがつぶやいた。


 雲間から美しい光の柱が何本もおりてくる。

 彼らにとって、それは生まれて初めてみる光景だった。


「神々しい……」


 マセコは天を見あげた。


 雲が徐々にきれていき、そして、まばゆいばかりの光が周囲を満たす。

 青く澄み渡った空が広がる。こんな世界があったことを忘れていた。

 山々に陽がさして、キラキラと輝く。


(サラレーン、サラ、沙薇、やったのね、このバカ女。どこにいるの、はやく帰ってきてよ)


「サラ……」


 仲間たちから歓声があがっている。

 彼らは疲れを忘れ、お互いに肩を叩きあい喜んだ。むせび泣くものもいた。


「おい、見ろよ!」と、ガルムがささやいた。

「なんだ」

「東の空だ」


 彼が指さす方向に、何かが見えた。


 ドラゴンだった……。


 細長く赤いドラゴンが太陽の光をあびて真っ赤に燃えていた。その背には赤く長い髪をなびかせ、太陽に輝く乙女が乗っている。太陽の光で衣服は赤く輝き……、いや、炎に赤く燃えていた。


 ドラゴンは太陽へ向かって飛んでいく。


 その姿を見た誰もが、そこにひざまずき、そして、敬虔けいけんな思いに満たされ祈りはじめた。


 誰ともなく、古い言い伝えの古歌を唱えていた。



 うるわしき炎の巫女

 ドラゴンの翼に立ちて


 赤き髪を天にたなびかせ

 赤き衣を身にまとい

 青き魔の珠をささげる


 天地はあがないの唄を奏で

 赤き乙女はその地に伏せる



(つづく)

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