第17話 ヒーローへ至る道をひた走る
呆気なかったな。
どうしてあんなにも悩み、人を頼り、途方に暮れていたのか・・・・今となっては全くもって理解できなくなった。
「護衛でありながらお力になれず大変申し訳ありませんでした。」
項垂れる様に頭を下げる遠野さんへと視線を向けると「無事」と言う事に心から安堵する。バカだった時の自分でも良くやったと誉めれる功績の1つ。遠野さんの治療。
それに関しては本当に良くやったぞ、俺。
「今回ばかりは仕方ないかな。これは俺の力があってこその結果だと思うし・・・。またこれからもよろしく頼むよ。」
「・・・・・はい。」
バカだった時も似たような言葉をかけ、そのときはやる気を見せていた遠野さん。だけれど、何故か今は浮かない顔。
賢くなった。それこそ『天才』に変化させた俺でもわからないことがあるのか?不思議に思う。
「良くやったわ!――――と、言いたいところだけど、逃げれるなら初めから行動しなさいよね!!このグズ!」
反対に視線を向ければ一緒に捕らえられていた名も知らぬ美少女。キャンキャンと吠えるその姿を何事もなく見ていられた俺だったけれど、今となっては無理な様だ。―――――無性に腹が立つ。
「誰のお陰で脱出できたのか、理解できていないようですね?」
思わず眉間に力が入った瞬間には遠野さんが物申していて、そして苛立ちを隠しもしていないその声音に少しだけ驚く。
「な、何よ!本当の事でしょう!?」
「―――――はぁ。善吉様。早く帰りましょう。皆さん心配しているはずです。」
「あぁ。そうだね。帰ろう。」
どうやら無視をすることにしたようで、言い返してきた少女に言葉を返すこと無くこちらへと向き直り、帰宅を提言してきた。
特に断る理由もないし、俺も早く帰りたい。皆が心配しているのだって想像できる。
「待ちなさいよ!なに無視してんのよ!?」
完全無視。
俺も、遠野さんも、彼女を相手にする義理も義務もない。『ヒーロー』として助ける事はした。だけど、『ヒーロー』であっても文句しか言わない人をその後の面倒まで見る気は起きない。
「ここはもう町中です。少し探せば警察が居るでしょうし、そこらの人に助けを求めれば助けてくれるでしょう。それらを頼ってください。私たちは帰ります。」
それだけを美少女へと話すと遠野さんは俺へと視線で『帰る』と意思を向けてくる。
それに頷き、彼女を抱えるため腰に手を回して体を寄せ合う。
「じゃあな。名も知らない人。」
急に体を抱え、抱き寄せた俺の行動に驚き、少し焦って見える遠野さんに弁明をする前に【変幻自在】を使用。自身の体に俺の意思によって自由に扱える『推進力』と『浮遊力』を与える。更に俺と遠野さんを『透明』にする。
これで誰かに見られて騒ぎになることもないだろう。
意思を込めればあら不思議、上へ上へと上昇。
未だにキャンキャン吠える声を聞きながら【察知】を『卯木乃羽仁の家』に設定してから効果範囲を徐々に広げていく。
「どうやらそれほど離れていないみたいだ。行くよ?」
「え、えっと、は、は、い?」
【察知】によればざっと100キロ程しか離れていないようで、それならそれほど時間もかからず到着できるだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「善吉様!!!ご無事ですか!?!?」
いや、無事だからこうしてここにいるんだが?なんて、野暮なことは言いっこ無しだな。
心配かけていたことは事実で、何事もなかった保証はこれっぽっちもないのだから。
「心配かけました。見ての通り無事ですよ。」
「本当に?本当に大丈夫ですか!?」
いつも無表情でからかってくる彼女からは想像できないその様子。目尻は下がり、ここまで走ってきたためか若干息も荒く、頬には普段はない紅さがあった。
「大丈夫ですよ。」
「善吉くん!!」
「あぁ。仁さん。お騒がせして申し訳ありません。」
卯木乃羽家の庭へと降り立ち、直ぐ様駆け付けた家の人によって情報が伝わっていった。
いの一番に飛んで来たのは意外にも花斗夏さんだった。
そんな花斗夏さんから頻りに心配と無事の確認をされていた所で普段では見かけない慌てた様子の仁さんがやってきた。
「旦那様。どうやら無事のようです。ご安心下さい。」
「そうか――――はぁ」
気が抜けるように――――、いや、実際気が抜けた結果、庭には仁さんの吐き出した息が響いた。
報告を済ませた花斗夏さんも表情が落ち着き、頬の紅さはまだそのままながらも無表情へと戻っている。
「――――今回の首謀者は所謂『秘密結社』と言われる組織の犯行のようです。日本支部として活動していたその結社が独断で動いたようなのですが・・・・・。」
秘密結社、か。
ふむ。
「仁さん。その秘密結社の目的、理念はわかりますか?」
「ん?あ、あぁ。彼らの目的は『地球を救う』という事らしい。『地球にとって人は疫病』と言うのが彼らの思想であり、最終目的である『地球を救う』を達成するために人を間引くそうです。」
間引く・・・・・ね。
控え目に言っても――――――クソだな。
「『選らばれし高潔な人のみが後の世を生きる』。等と
「・・・・・ヒーローを目指す者としては放置できませんね。どうしたものか・・・・・」
秘密結社だろうがなんだろうが【察知】のチートで探せば居所は一人残らず簡単に割り出せる。
問題は割り出した後だ。
殺すのが一番手っ取り早いし、何よりも今後の事を考えると後腐れがない。だけど、ヒーローとしてはその方法は取れない。
誰かを殺すことでしか無し得ない平和なんてクソだ。もっと他に・・・・・。
「隔離しかない」「隔離しかないですかね?」
「!?善吉、くん・・・?」
仁さんも同じ意見の様だな。
「決まりですね。仁さん。悪いですが、彼らを隔離できる広さがある土地を探してもらえますか?建物は必要ありません。」
「え?いや、それは構いませんが・・・・」
「よろしくお願いします。それまで俺は・・・・」
ふむ。今の俺ならヒーロー活動も一人で出来る、か。完全に一人では無理だけど、助けは必要最低限で良い。特に現地に行くのは俺一人の方が何かと心配事も少なく済む。
「ヒーロー活動してますね。」
もう一度自由に空を飛べるように変化。移動にはこれが一番だと思う。で、あとは人に見られないように透明に―――「お待ち下さい。」ん?
「どうしましたか花斗夏さん。」
「何よりも先ずは御休みください。お疲れもあるでしょうし、身綺麗になさった方が宜しいかと。」
そう言われれば――――。
花斗夏さんに言われてから視線を自分の体へと向ければ、俺の体は前半分だけしか見えないがかなり汚れているのに今更ながら気が付いた。
賢くなった。それは確かだけれど、いきなり完璧になれる訳ではないらしい。
「それも、そう、ですね。」
思わず出た苦笑を添えて花斗夏さんに返事を返せば、彼女はまたもや珍しく無表情を崩し、心底安心したように微笑み返してきた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
何故か何時もより何かと世話をしてくれる花斗夏さんを不思議に思っけれど、その行為に甘え、一夜をのんびり過ごさせてもらった。
そして一夜明けた翌日。
心配そうにあれこれと昨日よりも激しい世話を焼き、最終的に引き留めようとしてくる花斗夏さんを何とか抑え、出発。
目指すは『ヒーロー』。
きっと今日も、そして明日も明後日も、誰かが困ってる。助けを求めてる。
だから、父さん、母さん、姉さん。
俺は頑張っていこうと思う。
バカはチートで偽善を目指す ホウセイ @ru-van
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます