38度線で踊るアレ
駄伝 平
38度線で踊るアレ
38度線で踊るモノ
友人のタカギさんの大学時代に韓国人留学生のキムさんから聞いた話しです。
キムさん大学で写真を専攻し卒業、カメラマンを目指しながら働く事にした。当時韓国では就職難だったこともあり、母親のススメもあって、彼の叔父さんが日本で経営している貿易会社に就職することになった。
給料も日本の同年代のサラリーマンと同じくらい。日本の文化にも興味があったので一石二鳥だと考えた。しかし実際に働いてみると忙しい。写真を撮る時間なんてなかった。
3年したあるころ「こんなはずじゃなかった。そうだ日本でもう一度、写真の勉強をしようと」と考え、叔父である社長に相談すると「気が済むまで勉強して写真を撮りなさい。もしまたダメになったらこの会社に社員でもアルバイトでもしに来なさい」と言ったそうです。
それから1年間働きながら受験勉強して大学の写真科に入学したそうです。
タカギさんはアメリカ文学を専攻しキムさんは写真を。本来なら知り合わないはずの二人ですが。今では大学でもタバコを吸えないらしいのですが、当時は喫煙所であれば普通に吸うことが出来た。ある日、タカギさんライターを忘れた。そこで目の前にいたキムさんにライターをかりたのキッカケで、喫煙所で会えば話すようになっていた。
すると段々仲良くなって二人で飲むようになっていたそうです。
でも、学生なので経済的な余裕が無い。お互いの家でやすい酒を買って飲んだそうです。
キムさんはタカギさんより9年上だったが、二人とも映画好き、ロックとヒップホップが好き、本好きで話のネタには困らなかった。
その日は二人でキムさんの部屋で、キムさんの母親が送ってくる大量に送ってくるキムチを処理する日だった。ここでいう処理というのは、キムチは漬けすぎると酸っぱくなる。キムさん普通の味のキムチが好きなのだけど、酸っぱいのが大嫌いらしい。なので酸っぱくなると捨てしまった。
それでタカギさん思った。せっかくキムさんのお母さんが漬け込んで苦労して海を渡り送ってきてくれたキムチを捨てるのは見ていて気持ちの良いものではない。
そうだ、酸っぱいキムチは料理の食材として使えば気にせず食べられると聞いたことがあった。
なのでタカギさん、キムさんにその事を伝えると一緒に料理してお腹がいっぱいにになるまで食べることにした。それが処理の日だ。
処理の日には最初の頃は豚キムチが多かったが、そのうちバリエーションも増えてチャーハン、餃子の具に、などいろいろな料理を作ったそうだ。
そんなある日のこと。
タカギさん、ずっと気になっていた事があった。キムさんが軍隊時代の話を一切しないからだ。
当時、タカギさんの大学には韓国からの留学生が沢山いた。
その韓国人の方々と話すと兵役の話になることが多い。彼らの中でも兵役については意見は様々「兵役はいいが2年は長すぎる」「2年は短すぎる、自分はもっと居たかった」「早く兵役なんてやめればいい」「イジメでおかしくなって38度線を越えて北に逃げる奴がいる」「毎日、気が変になりそうだった」賛否意見がいろいろ聞いていたからだ。
キムさんに知り合い2年が経つのに、何も軍隊時代について話さない。
これは、きっと何か大きなトラウマを抱えているに違いなと思ったそうです。なので何も聞かなかった。
その日は、酒がを飲みすぎた。
何時もはだいたい終電の頃、タカギさんは家に帰るのだが、気づけば、終電でが過ぎていた。
タカギさんはどうしようかと考えていたが、キムさんはこのまま朝まで飲もうと提案したのでそれに乗って夜通し飲み明かす事にした。二人とも相当酒が強い。深夜にテレビをつけっぱなし、にしながら映画や音楽の話しをして盛り上がった。
するとテレビで幽霊を題材にした映画をやっていた。
するとタカギさん「幽霊なんて下れね〜もん映画にするんじゃねえよ」と言った。
するとポツリ、キムさんが呟いた「なあ、タカギ幽霊を信じないのか?」
「信じないよ。あんなの勘違いさ。なにキムさん信じるの?」
「うん、信じるよ。見たことがある。本当に幽霊かどうかはわからないけど」
「本当に?どこでみたの?」
するとキムさん話しはじめた。
キムさんが19歳の頃、徴兵制で軍隊へ。
運が悪いことに、38度線の非武装中立地帯の警備兵として配属されることになった。キムさん最初は不安だった。その頃、韓国と北朝鮮の関係がギクシャクし始めた頃だったからだ。
朝鮮戦争は終結したと思っている人が多いみたいだが、あくまで休戦中。いつまた朝鮮戦争が始まるか分からない。
「非武装中立地帯」とは韓国と北朝鮮の国境の真ん中にある非武装地帯の事だ。
場所によってその非武装地帯の幅は違うらしく中には韓国と北まで300メートルほどの近い所から、一番遠く離れている場所で4キロほどの場所もあるそうだ。
韓国も北もお互いの領土に国境線上に大きなフェンスを設営し、その非武装地帯では大量の地雷が、噂では200万個の地雷が埋まっているそうだ。
不幸中の幸いか、キムさんは北の国境まで4キロはある非武装地帯の警備兵になった。
「もし戦争になってもこんな4キロもある遠い所から攻め込んできたりはしない。地雷が大量に埋まっているし交戦することも無いだろう」と思ったそうだ。
キムさんの任務は夜の10時から朝の6時まで、見張り台は高さ15メートルの所に小屋が設営されていて非武装地帯を監視する事だった。
小屋の面積は6畳くらいで、非武装地帯側に大きなM60という機関銃が設置されていて、必ず2人で監視することになっていた。
常にK2というアサルトライフルに肩にかけて双眼鏡や暗視ゴーグルで見張るのが任務だ。
キムさんと相方を組むことになった人は自分より1年早く入隊し、この任務を就いているパクさん。
パクさん、とてもズボラ。ヤル気がない。同僚後輩には皮肉った感じの悪い態度で接する。上官が来たときだけはヤル気のあるフリをする。上官はパクさんのそのが演技であることに気付いているらしく彼の事をバカにし、同僚からは呆れられ、後輩たちからも少し小馬鹿にされていた。だけどキムさんにはとても優しく接してくれた。
初日にパクさんから提案があった。この見張り台にいる時、定期的に上官が来て進捗状況を確認しに来るのだが、だいたい3時間周期で見回りに来る。その間3時間の間お互い交互に昼寝して上官がこの矢倉に登ってきたら起こそうというのだ。
キムさん困った。もし上官にバレたら大変だ。だがパクさんの提案も魅力的だ。
いくら夜勤で昼間寝れるとしても、夜は眠いものでどうしても眠くなる。
それにいくらみんなから嫌われているパクさんであっても、裏で根回して、みんなをキムさんをイジメるよう仕向けるかも知れない。それで初日から二人の間で契約が結ばれた。
キムさん配置されて5日後の事、見張り台で見張っていると見張り台の屋根の上にあるサーチライトが設営されていて自動で右に左に動く仕組みになっていた。
相変わらずパク先輩は昼寝ている。いつも通りなら後1時間で上官が来る予定だ。
そしたらパクさんと交換してキムさんが昼寝する。早く上官が来ないかなと非武装地帯を見ていると何か変な事に気がついた。
サーチライトが左右を行き来していているのを眺めている時に何か遠くで何かいる。
双眼鏡で5キロメートル先にデカイものが動いている。なんだあれは?
キムさん暗視ゴーグル付きの双眼鏡に切り替える。身体中の毛という毛が逆立ち背中に冷たいものを感じた。
ソレは20メートルはある大きな生物で体中から太い触手がランダムに、いや疎らに生えていて、5キロ先の地点で丸でダンスするかのように転げ回っていた。しかも形状が円状になったりくねくねしていて、形状を変えることが出来るようだ。まるでアメーバーやスライムみたいに。
なんだあれは?キムさん、北の兵士や北の戦車ならまだしも、アレはいったいなんだ?新種の生き物か?モンスター?幽霊か?もしかして、自分が寝ぼけているだけだろうか?
キムさん部隊に入りたて、幽霊なんて見たなんて言ったらみんなからバカにされイジメに合うかも知れない。でも、やはりアレは異常だ。寝ていたパクさんを急いで叩き起こした。
「パクさん起きてください!」
「え、もう上官来たの?」
「いいからアレをみてくだい」キムさんは非武装地帯を指さした。
「どうせ、アレじゃないか?」
といい暗視ゴーグル付きの双眼鏡で見た。
「ああ、やっぱりアレだ。久しぶりに見たな。懐かしい」
パクさんの反応をみてキムさん何が何だかわからない。
パクさんにも見えるという事は、キムさんの幻覚ではないこ事は証明されたので少し気が楽になった。でもだとするとアレはなんだ?
「ごめん。説明するのを忘れていた。まさかお前が配置されて5日でアレを見るなんて、お前もナカナカの強運の持ち主なんじゃないか?」
と皮肉が混じった笑いでキムさんに言ったそうです。
するとパクさん話し始めた。
アレは噂によると朝鮮戦争が休戦し38度線引かれた頃から、この非武装地帯で
度々、アレを目撃するようになったそうだ。
最初はみんなストレスから来る幻覚だと思っていたのですが、目撃例が絶えない。
噂を聞きつけて軍のトップが訪問した際にもアレが現れて目撃した。
もしかすると北朝鮮の新兵器かも知れないと思い、韓国政府の軍部、アメリカ軍も協力してアレの正体を調べようとしたが、結局なんだかわからなかったそうだ。
今でも定期的に軍がアレの正体を調べているが、今の科学技術を持ってしても正体不明。
少なくとも危害を加えて来ることもないので見ても何も出来ないでいる。
「アレを狙撃して捕まえたらいいんじゃないですか?」
「おい、お前馬鹿か?仮にも非武装地帯だぞ。一発でも銃を発砲してみろ。それが原因で開戦になったらどうする?」
確かにそうだ。発砲するのはマズイ。
「それにだ、あそこは地雷地帯だぞ。なんであんなに暴れまわっているのに地雷が一個も爆発しないだ? 多分、銃をアイツに撃っても無駄だよ。仮にサイレンサーを使ってアイツを狙撃するとする、地雷地帯だ。誰がアイツの死体を拾いにいける?」
「何なんですか? 北の生物兵器ですか?」
「今の北朝鮮にあんな生物兵器を作れる化学技術が有るとおもうか?
それに、目撃され始めたのは休戦直後からの出来事だ。半世紀前にそんな化学兵器を作れるわけないだろう。アメリカでもソ連でもあんなもん作れないよ。今だって、あんな科学技術を使ってあんなのを作れると思うか?
それにだ、仮に化学兵器だとしよう。なんで襲ってこない?」
キムさん確かにそうだと思った。
「まあ、見た目はグロテスクだけど、なんもしてこないからアレを観ても無視していいから」
「アレは北朝鮮軍からも見えているんですかねえ?」
「さあな、向こうは向こうで韓国が作り出したグロデスクな生物兵器か、幽霊だと思っているんじゃないかな?じゃあ、俺は寝るぞ。上官が来たら起こして。おやすみ」
と言ってパクさん昼寝を始めた。
キムさん再び非武装地帯を見ると何も居ない。どこかに消えた。
1年後パクさんは兵役を終えて無事除隊し、今では中古車のブローカーをしているそうだ。後任に来た新兵もアレを目撃した。その時、キムさんにアレの事を説明したそうだ。パクさんがそうしたように。
キムさんは2年間の間、7回はアレを見た。
最後の7回目はのアレは、自分たちの見張り台の1キロ以内で暴れ回っていた。
流石にキムさんも怖かったが、サーチライトをアレに向けて双眼鏡でじっくり観察した。
キムさんあることに気づいた。あの触手に見えていたもは人の手や足だった。ソレも焦げて炭化しているのも、途中欠損して骨やピンク色の肉が飛び出ているもの。しかも、おそらく韓国朝鮮人の者とは思えない、白人や黒人のものと思われる手足があったそうだ
それから形状が、変わって腕だった部分が引っ込むように形状を変えると目玉になったりと、人の頭が生えた来たり、毛が生えたり、ソレは異常な物だった。
「なあ、タカギ、The Thingていう映画を知ってるか?」
「なにそれ?どんな映画?」
「南極基地で宇宙人に身体を乗っ取られてグチャグチャになるやつ」
「ああ、日本だと「遊星からの物体X」ていうんだよ」
「それにそっくりだった。あの映画に出てくる怪物に。それにこの前、タカギが見せてくれた「AKIRA」の最後に出てくる少年が膨らんでグチャグチャになるシーンあったろ? アレにも似てたよ。」
キムさん、その時も、いつも通りスグに消えたそうだ。こんなに近くでソレに遭遇したことがなかったので流石に怖くて銃を握りしめながら見ていたそうだ。
「アレはいったい何なんでしょうかね?何が目的なんでしょうか?」
「うーん、アレは朝鮮戦争で亡くなった兵隊や民間人の怨霊や怨念が集合体になっているのだと思う。朝鮮戦争の頃、北は中国とソビエト、韓国側にアメリカ、イギリス、オーストラリア、カメルーンや色んな国が参戦したんだよ。韓国朝鮮意外に色んな人種の兵士が犠牲になった。だから、いろんな人種の手や頭が出てきたのだと思う」
「凄い物を見ましたね。トラウマになったりしないですか?」
「とんでもない。あれは確かにグロテスクでキモかった。まあ、ここからは僕の完璧なこじつけだけど、あれ実は守り神だと思っている。ていうのも、ちゃんと調べていないからなんとも言えないが、ソレが出てきた7回の時期の内、4回は韓国と北朝鮮の間で小競り合いがあって、ギクシャクしていたんだ。だから、もしかしたら、あの怪物そこで踊ることによって再び朝鮮戦争が起きないようにしているんじゃないかと勝手に思っているだ」
とキムさんが言っていたそうです。
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