公園で一人

ベンチに一人腰掛けて、灰と黒が混じった埃色の空を見上げている。

まだ滑り台やブランコ、ジャングルジムのような危険な遊具が生き残っている、今日では珍しい公園。ボール遊びをしている子供たちすら居て、生命力に溢れていた。

普段は縁がない公園に足を運んだのは、しばらく帰ってきていない彼女がいる気がしたからだった。

────

一度、彼女に連れられたことがあった。彼女は子供たちに混ざって無邪気に遊んでいて、灰色に染めた髪を見て"変な髪のお姉ちゃん"などと呼ばれていた。ボクはというと、彼女が遊んでいる間、今と同じようにぼんやりとそれを見つめていた。

夕方になり、子供たちが帰ると砂場で一人遊びをして、飽きると首を傾げ「帰ろっか、シキちゃ」と満足げな顔を向けてボクを呼ぶのだった。

「この公園は危ないから好きなんだ」

砂場の縁を綱渡りのように歩いて笑う。

「落ちれば大怪我しちゃうような遊具が揃ってて、柵を越えれば周りの家や車を傷付けてちゃうかもしれないボール遊びも許されてる」

鉄棒に脚だけでぶら下がって、灰色の髪が逆さまに枝垂れる。ほんのすこし、力を緩めたら頭が地面に垂直落下してしまいそうな危うさがあって、思わず手を伸ばしそうになる。

「あたしみたいな見るからに危ない女の子が子供と遊んでいても誰も文句を言ったりしないし」

「シキちゃも気に入ってくれたら嬉しいな。賑やかな中で本を読むのだってきっと楽しいよ」

────

確かに、悪くはない。ファミレスやカフェで大人たちの醜い感情が詰まった会話を耳に入れながら読むよりは断然物語の内容が頭に入る。

章を跨ぐ合間の息抜きに顔を上げると子供たちが元気に遊んでいるのが目に入って、頬が自然と緩むのを感じる。どうやら、ボクはボクが思うほど子供が苦手なわけではないらしい。あくまで、眺める分には、だが。

柔い風が一つ吹いて、べたりと肌に張り付く。冷たい湿気を含んでいて、埃っぽい臭いがする。雨が降るな、と思うと同時にぽつ、と開いたページにシミが付いた。

慌ててトートバッグから折り畳み傘を取り出して本を守るように差す。

この程度の降り始めの小雨は気にならないようで、子供たちは変わらず遊んでいる。彼女もきっと遊び続けていただろう、と思う。


雨の降る夜。いつものように、野良犬のように濡れて彼女が帰ってくることを、黒く沈んだ空に願った。

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melt in dark 詩希 彩 @arms_daydream

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