懸案事項?

「次のデートに作ってくるお弁当ですが──」


 もうすぐ、お別れの時間。


 現在、最大の懸案事項を 私は確認しました。


「…おかずは、何が良いですか?」


「葉月ねーちゃんが作ってくれるなら、何でも」


「……シンちゃん」


 問題を一切解決に導かない答えに、少し 私はムッとします。


「上手いこと言ったつもりかもしれませんが…そう言うのが、一番困るんです。」


「じゃあ、サプライズ希望と言う事で」


「………判りました。何を作ってきても、文句なし ですからね?」


「了解。」


----------


「あ、もしもし」


 どうせ作るお弁当です。


 出来ればおかずには、シンちゃんの好物を入れたい所。


 私は、これ以上ない有効な情報源に問い合わせます。


 相手は、シンちゃんママ。


 多少の違和感を抑え 名前で呼びます。


 ─ そうしないと、怒られるのです。


「静香さん。今電話、宜しいですか?」


「なーにー、葉月ちゃん」


「シンちゃんの好物を教えて下さい」


「ついに、花嫁修業の開始するの?」


 シンちゃんママの冷やかしは、いつもの事。


 何もなかったかの様に、話を勧めます。


「今度…お弁当を作るんで……」


「ああ。この前、真一が作ってたやつの お返しだぁ」


「はい」


「真一の好物ねぇ…」


 意味ありげな沈黙の後、シンちゃんママは呟きました。


「─ ピーマンの肉詰めかなぁ」


「え?!」


----------


 私が苦手なピーマン。


 寄りにも寄って シンちゃんの好物は それを使用した料理なのです。


 しかし、現実は現実。


 ピーマンの肉詰めが、シンちゃんの好物だと言うなら仕方がありません。


 頑張って作る決意を、私は固めます。。。


----------


「はい。お弁当です。」


 いつものデートコースの公園。


 最近のお気に入りの、藤蔓の木陰の木。


 ベンチの中央に、私は手提げ袋を置きます。


 隣に腰掛けてたシンちゃんが、中を覗き込みました。


「大荷物持ってると思ったら…重箱?」


「気合い入れちゃいました♫」


 いそいそと私は、袋から重箱を取り出し、ベンチに並べます。


「どうぞ、召し上がれ♪」


「では、遠慮しなく」


 嬉々として、箸を持った手を伸ばすシンちゃん。


 その動きが、中空で止まります。


「これは…何?」


「ピーマンの肉詰めです」


「…」


「静香さんに、好物だって聞いたんですけど──」


「……僕は………何でも食べれる方なんだけど…………ピーマンはあんまり……………」


 どうも私は、シンちゃんママに騙された様です。


「で、でも。」


 諦めきれない私は、一縷の望みにすがりました。


「前に 一緒にお食事した時、私が食べられないで持て余していたピーマンを横から食べて、私の事を、おこちゃま扱いしてましたよね?」


「あれは、葉月ねーちゃんに見栄を張ったの!」


 シンちゃんのピーマン嫌いは、確定のようです。


「葉月ねーちゃんが苦手なの知ってたから、間違っても入る事はないだろうと思って何でも良いと言ったんだけど、まさかピーマンのおかずになるとは……」


 敗北感に打ちひしがれる私。


 顔を伏せて、目が潤みそうになるのを我慢します。


「お、おかずは他にありますから…そちらを食べて……」


「あ、美味しい」


「え?!」


 私が上げた視線の先のシンちゃんは、ピーマンの肉詰めを 口に運んでいました。


「─ うん、美味しいよ」


 先程とは別の理由で、目尻に涙が滲みそうになるのを、どうにか堪えます。


「何せ…私の愛が、籠もってますから。」


「──ねーちゃんも食べなよ」


「私がピーマン苦手だって、知ってますよね? だから遠慮せずに、全部シンちゃんが 食べて下さい♡」


「───葉月ねーちゃん?」


「冗談ですよ♡♡」

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