お・べ・ん・と・う

紀之介

手作りの。。。

「そう言えば──」


 いつものデートコースの公園。


 ふたりの最近のお気に入り、藤蔓の木陰の木のベンチに 先に真一君が腰を下ろします。


「食べさせてもらってないよね」


 隣に座った葉月さんは、真一君の顔を見ました。


「─ 何をですか?」


「葉月ねーちゃんの手作りの弁当」


「…」


「今度、作ってきてよ」


「え!? お弁当を、ですか??」


「うん。」


 視線をそらす、葉月さん。


「お弁当は…作るのが大変なんです」


「ねーちゃん。料理 出来る人じゃん」


「バランスとか考えて、細かいおかずを幾つも作ったりするのは、料理とは別なスキルですから」


 暫くの沈黙の後、葉月さんが呟きます。


「じゃあ先に、シンちゃんが作ってください♫」


「は?!」


「シンちゃんがお弁当を作ってくれたら、お返しに私が作ってあげます♪」


「・・・」


「どうします?」


「判った。次のデートの時に、作ってくる」


「─ え?!」


----------


「本当に…作ってきてくれたんですねぇ」


 いつもの公園の、藤蔓の木陰の木のベンチ。


 葉月さんは、隣りに座った真一君が 手提げ袋から出した弁当を受けります。


「まあ、容器がタッパと言うのが あれですが」


「探したけど、弁当箱なんて洒落たものは見つからなかったし」


「では、頂きますね♫」


 いそいそと おかずの容器の蓋を開く葉月さん。


「これって、もしかして──」


「マルシンのハンバーグ」


「その横の黄色い塊は 玉子焼き…で、その隣は……」


「イシイのミートボール」


「─ あとは、切込みを入れて焼いただけのウインナーですかぁ」


 顔を上げた葉月さんと、真一君の視線が合います。


「何か言いたそうだね」


「別に、如何にも小学男子が喜びそうな、遠足のお弁当みたいだなんて 思ってないですよ?」


「うん。口にしてるから」


 ニヤニヤ顔の葉月さんから、目をそらす真一君。


「僕のお弁当のイメージはこうなんだから、仕方ないだろ」


「─ では、いただきますね♡」


----------


「ごちそうさまでした♫」


 食べ終わったお弁当のタッパの蓋を締める葉月さん。


「シンちゃん弁当、それなりに 美味しかったですよ?」


「─ それは、お粗末様」 


「次は、負けられないですねぇ」


 葉月さんは、ふたり分の容器を 手提げ袋に仕舞いました。


「次のデートには、私の本気のお弁当を、シンちゃんにお見舞いしてあげます♪」


「期待してる。」


「任せて下さい♡」

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