企画用レビュー「文学にしてホラー」

恐らく物書きとしての技量で測るのならば、今回集まったメンバーでトップクラスかと。
生と死をテーマとした最も文学的な内容であり、それゆえに難解です。
狸に化かされたような、他では味わえない読後感を堪能できるでしょう。

都会の子どもたちが道端の犬の死骸から「死」というものが身近な存在であると悟るように、田舎では狸の死体から子どもたちはそれを学ぶのです。
生と死はそれぞれ独立したものではなく複雑な因果関係によって結ばれており、昔からある決まり事を破ったり、生き物の命を粗末に扱ったりすることで、人は気付かぬ内に死を招き寄せているのかもしれません。掟や伝承には必ずや意味があるものなのです。
作中ではある命が失われると、等価交換と言わんばかりに別の命が戻ってきます。
それは水神と交わした何かの儀式だったのか？　単に別の個体だったのか？
恩返しなのか？　仇で返されたのか？
解釈は読者に委ねられています。狐につままれたような心地という言葉があるように、狸も人をツネるのかもしれません。