第5話 経験



「……狩りの時間だ」


 コンの声に顔を上げると、ハクトの目の前には大きな星が浮いていた。


 たった今、六芒星を想像したばかりだが、二人の前に浮いていたのは五芒星だった。


 影が露わになったとき、星の正体がヒトデに近い化け物なのが分かった。


 およそ全長五メートルで、見ると肌には蕁麻疹のように鋭い棘が並んでいた。あまりにもの気味の悪さに、どちらも血の気の引いた表情になる。


 一歩足を踏み込んだコンが、下から突き上げるように手を振るった。


 まるで地面から生え出たかのように、彼らと魔物の間に炎の壁が立ちふさがる。その瞬間、大ヒトデの全身に針が一気に放たれる。


 二人が居る左右の地面に、針がびっしりと刺さった。


 炎の壁を作ってくれなければ、間違いなく二人とも全身串刺しになっていたに違いない。


 向こうが動く前に壁を作ったのを見るに、コンは相手の行動を予想していたと考えられる。


「……正面に立つな、お前は左へ」


 彼の指示通り、ハクトは左へと地面を蹴る。


 反対方向には、まったく逆の方向へと飛んだコンが居る。


 昨日の経験を生かして武器を作ったはいいが、少年は遠距離攻撃を全く予想していなかった。


 昨日、ハクトが気絶してしまった原因は魔力の消費によるものである。


 魔物の身体と化してしまった二人の原動力は魔力であり、それが尽きると行動不能に陥る。


 昨日は長時間動いていた上に、最後に大きな氷を作ったのが止めとなってしまったコンは説明した。


 彼も炎を顕現すると魔力の消費が高いように、氷も同じようなものだと推測される。


 少年は、未だ自分の魔力の限界を理解していない。


 不足する前に武器を作り出してしまった為、余力がどこまで残されているのか分からない。


 今の刀を消して新しい武器を作るのは、大きな賭けになってしまう。戦闘は始まったばかりだというのに、無駄遣いは許されはしない。


 どうにか、刀でやるしかない。地面を蹴り上げ、相手の懐に入り、ハクトは全力を込めて両手で刀を振りかざした。


 剣道はおろか、まともに武器を扱った経験が無いのだろう。まるで打者がバットを振ったような姿勢となっている。


 少年の振った切っ先が五本の腕の一つを捉え、五芒星の一つが見事に真っ二つになる。


 欠けた腕の一本がクルクルと宙を舞い、ハクトの着地と同時に地面へと落下した。


「馬鹿やろう!」


 コンの怒号と共に、背中へ大きな衝撃が走る。


 吹き飛ばされて、地面を転がり、それでも何とかハクトは立ち上がる。


 一体、何が起きたんだ。起き上がった瞬間、少年の眼前には切り落とした筈の腕が迫っていた。


 顔面を潰される寸での所で、目の前の腕は炎に包まれ塵と化した。自分の先で彼がこちらに手を向けているのを見て、コンが始末してくれたのをハクトは理解した。


「切ったからって油断するんじゃねえ!」


 結局、その日もハクトは殆ど何も出来ずに終わったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る