第6話 氷塊
コンが炎を作ったように、自分も何かを出せないだろうか。
しかし何故、彼が炎を生み出せるかを知らないハクトは、その術が全く思いつかなかった。
どうやって、炎を出している。相手の攻撃を避けながら、いくつかの仮定を少年は出していく。
ライターやガスを忍ばせているか、何か摩擦で作っているのだとする。
ただそれだけの火力で炎の輪を作り出すのは難しいし、何よりコン自身が火傷も無いのが説明つかない。
じゃあ魔法としか説明出来ない。
この身体は魔法が使えるんじゃないかと仮定したハクトは、次にどうすれば使えるのかを考える。
自分の知識を紐解いて、何か役に立てるようなものは無いかと思考する。
こういうものは確か、何か具体的なものをイメージして、それを出せるように気を練り上げるのだとか何とか。
あっちが炎なら、こっちは真逆なものがいい。
敵の攻撃を避けた後、そのまま仁王立ちになったハクトは相手の出方を眺め始めた。
左手に力を込め、頭の中ではイメージを固めていく。一か八かの賭けにはなるが、他に手段なんて無いから仕方無かった。
どうせ出すなら、巨大なものがいい。敵がこっちに向かってくると同時に、少年は左手に体中の気を集めるような感覚を持つ。
大貝の体当たりを真っ向から食らったハクトは、跳ね飛ばされて地面を転がる。思った以上の痛みに気を失いそうになりながらも、なんとか意識を保ち続ける。
仰向けの状態にハクトに向けて、魔物が大きく飛び上がった。
もう羽根は無いので跳躍になるのだが、それでも大きな身体は二メートルくらいの高さで少年に向かった。捕食対象と見做したのか、底の大口をハクトへと向けて開ける。
少年はこれを狙っていた。左手を大きく突き出し、体中の力を手のひらに集めてイメージを作る。ハクトの腕に大貝が噛みつこうとした瞬間だった。
大氷が貝の口を塞いだ。
ハクトの左手から大岩のような氷が生み出され、かじりついたように魔物の歯が引っかかってしまった。
しかし、これで終わるわけには行かなかった。
左手を突き出し力を入れると、更に氷塊は大きくなっていく。自分の歯が埋まった状態で、段々と大きくなっていく氷に対して魔物は成す術が無い。
やがて氷塊が大貝の口一杯程の大きさになった頃、力を使い果たしたハクトは意識を失ってしまった。
「……へぇ」
倒れたハクトを受け止めたのは、いつの間にか傍らに居たコンだった。彼は白桃色の髪の少年を担いで、先程まで自分の居た大岩の上まで一瞬で運んで横にする。
背中の先の大きな音に振り返ると、魔物がハクトの作った氷を岩にぶつけて砕いていた。
そこまで相手は馬鹿じゃなかったと感心しつつも、これ以上ここに居るのは無意味だとコンは見做した。
「……さて」
ハクトがやったような縮地を使って魔物の方へと一瞬で駆け寄ると、コンは左手に青白い炎を浮かべてほくそ笑んだ。
「ここから先は、マジ狩りの時間だ……」
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