第5話 初陣


 まずハクトが気になったのは、自分がどれだけの運動性能を持ち合わせているか。


 窓から降りた時と同様、着地の際に全くと言っていい程衝撃が来ない。


 普通の人ならば足が折れるか、そうでなくても勢いで捻挫や何かダメージを受ける筈の高さなのだ。


 こうなってくると少年は、自分が何処まで高く飛べるのか、気になって仕方ないと疼いた。


 何度か跳躍を試みたが、全力で先程のコンと同じくらいの高さ。


 彼が本気じゃなかったと仮定すれば、これに関してはハクトより秀でていると考えられる。


 全力で飛ぶと、当たり前だが息が切れる。それを鑑みると、やはりコンは余力を残して飛んでいたのだろう。


 次に気にしたのは、地上の速度。


 少し足を動かすだけで飛翔程の高度が出せるのならば、地面を蹴る力が普通の人より大きいと考える。


 ハクトが少し力を入れて足を伸ばす、軽く踵を入れただけで一歩が大体三メートルくらいまで延びる。


 古武道か何かの技で縮地というものを漫画か何かで見た覚えがあるが、それに近いと少年は感じる。


 自分の記憶は無いのに、何故だかそういう知識だけはあった。こうして避けれる手段を増やしたハクトは、跳躍をせずとも相手の攻撃を避ける術を手に入れた。


 こうして自分の身体の実験を続けながら、三十分強は相手の突進を避け続けていた。


 それくらいの時間を止めど無く動いているというのに、ハクトは息が切れなかった。


 自分の限界がどこまでかを試している中、少年は余力の境界線を導き出すのに既に成功していた。


 そろそろ攻撃手段を作るべきだ、とハクトは考えた。


 コンがダメージを与えてくれたとはいえ、満足に動けている様子を見るに致死量には値しない。


 あれなら、お前でも勝てる。という言葉の意図を紐解くと、大貝に止めを刺す役割を与えたに違いないのだ。


 もう何度目かも分からない体当たりを避け、相手の身体が地面に刺さった隙を見て、ハクトは貝殻に右足を叩きこむ。


 魔物はビクともせずに、ただ踏み台にしたような形で終わった。


 先程、コンがあれだけ蹴りを入れたにも関わらず、大貝の殻にはヒビ一つ入っていない。


 彼もそれを理解していたから、攻撃箇所を牙や羽根に向けていたのだ。


 それに気づいたハクトは考える。殻を壊すのが無理な上に、牙や羽根では致死に至らない。そうなると中身を攻撃しなければいけない。


 唯一、殻に覆われて無いのは底の口の部分。人間でいう八重歯の部分である牙は折れてはいるものの、完全に他の歯で塞がれてしまっている。


 となると、口を開けさせるしかない。そのタイミングは間違いなく捕食時なのは、ハクトも既に分かっていた。


 とはいえ空いた口の中に拳や足を突っ込むのは、食べて下さいと言っているようなものだ。武器を持っているのであれば、それを使って攻撃出来るのだが。


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