第3話 呼称


「なんて呼べばいい?」と白桃色の少年が言った。


「好きに呼べ」と紺色の男の子が言ったから、そのまま髪色で「コン」と呼ぶと宣言した。


「……じゃあ、お前はハクトーか?」


 ハクトーだと言いづらそうと考えたから、伸ばさない方がいい、と白桃色の少年は言う。


「……じゃあハクトな」とコンは呆れたような顔になった。名前や呼称なんて心からどうでもいい、といった様子だ。


 彼に着いていくように、少年は下り坂の路上を歩いていた。


 時間が分かるものをどちらも持っていなかったが、月夜が丑三つ時と知らせていた。


 改めて見るとハクトのシャツは血に塗れていて、魔物に襲われた形跡が丸々残っていた。


 どうやら二人が居た廃屋は山の中だったらしく、暫く歩くと住宅街へと躍り出る。


 時間も遅いが故に、人影は全く無い状態。こんな場所に連れてきて、一体コンは何を見せようとしているのだろうか。


「この辺りか……」


 そう呟いてコンが鼻を鳴らすと、まるで暗闇で何かを手探るように、中空へ掌を翳した。


 ハクトには何をしているのか全く分からなかったが、暫くすると彼の手首から先が何処かに消え失せた。消えたというよりも入ったように見えたが、その先には空気しか無かった。


「じゃ、いくぞ」


 コンがハクトの手首を掴んで、空気の中へと引き入れる。あっという間に二人の視界から街並みが消え、荒野のような場所へと風景が一変した。


 まるで見えない壁をすり抜けて、別の時空に飛ばされたかのようだった。


「ここが魔物の結界だ」


「……結界?」


 意味が分からないハクトがオウム返したが、コンは想定済みのようだった。要は魔物の巣みたいなところで、普通の人間は自ら入ることが出来ない場所だと説明が入る。


 イマイチ理解をしていないハクトをよそに、コンは黙って荒野を歩き始めた。


 先程までアスファルトだった地面が、今は砂利と化している。二人ともスニーカーを履いている筈なのに、歩きづらさを感じていないようだった。


 空は雲一つ無いのに灰色で、太陽は出てないのに周りを確実に視認できる場所だった。木も草も無ければ、生き物の気配も感じられない。岩と砂だけの世界で二人は、何処に向かうでも無く歩いていた。


 コンはどうして魔物の巣に案内をしたのか、ハクトは今一度考える。どう前向きに取っても、会わせる為としか思えなかった。そうなると何故、彼はどういう意図があって自分に。


「……来るぞ」


 その一言と共にコンが足を止めた。


 巣という説明から、来るのが魔物だというのは明白だった。一度目の当たりにしていると言われはしたが、ハクトにはその記憶が無い。


 どんな姿形をしているのかも想像が出来なくて、東西南北の周囲一帯に目を向ける。しかし少年の予想は、見事に外れる羽目になる。


「……狩りの時間だ」


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