第64話 さよなら昔の私

 


 母親との少し嫌な事を思い出して回想の海に沈んでいたコトコは、今いるカフェの明るさに不意に引き戻された。


ニシコとの会話は楽しい。愚痴も悩みも未来のこともごちゃ混ぜにしても話せる。


「——預かる子ども達は元気で、ついていくのがやっとなのよ」


「でしょうね」


 ニシコは子育てをしているからか、さもそうだろうと相槌を打つ。


「先生ってのは、こっちゃんには合っているかもね」


「先生? そ、そんな大そうな仕事じゃないわよぅ」


「でも半分フリースクールも兼ねてるんでしょ?」


 ニシコの問いかけに、コトコは頷いた。


 人間関係でつまづいた子ども達を受け入れる仕事は、コトコに合っているみたいであった。


「いろんな子がいるのよね」


「多様性の時代でしょう。それを受け入れる土壌がこっちゃんにはあるのよ」


 それは面接でも言われた事である。珍しく他人に褒められたので、コトコは舞い上がり、その後の質問にどう答えたのか記憶がない。


 それでも受かったのだし、ひと月も続いているのでやはりコトコに向いてはいるのだろう。


「私、わかったわ。やっぱり世界はいろんな人がいるのよ。受け入れてくれる人、そうでない人……私、受け入れてくれる人に会えて良かった。心からそう思う」


 コトコが恥ずかしそうに呟くのを聞いて、ニシコはニカっと笑った。


 店の外に出ると、名も知らぬ街路樹の花がほろほろと花びらを風に散らせている。


 白いその花びらを手のひらに受け止めると、コトコはそれを風に乗せて飛ばした。


——さよなら昔の私。


……でも大好きよ。




—終わり—


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琴子の日記 青樹春夜(あおきはるや:旧halhal- @halhal-02

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