第63話 新しい職場
さらにひと月後——。
コトコはニシコと待ち合わせをしていた。いつものコーヒーショップで、ニシコはいつものアイスコーヒーを頼み、コトコは季節に合わせたカフェラテにした。
ニシコはストローでガラガラとアイスコーヒーの氷を回して音を楽しむと、いつものようにズズッと冷たいコーヒーを口にした。
「ケッ、ケッ……やだ、紙ストローじゃん。あたしこのストローまだ慣れなくてさー。紙の味がするんだよね」
「ニシコは意外と繊細なのね」
コトコは自分のコーヒーカップを口に運ぶ。甘くて柔らかな香りのコーヒーが彼女の気持ちを更に楽しげなものにしていく。
「——んもう! それよりどうなの? そっちの『仕事』は?」
ニシコはコトコの『新しい仕事』に話を振った。
「うん、楽しくやってるよ」
楽しいのが一番ね、とニシコも笑う。
そう、コトコはこの春から学習支援施設で働き始めたのだ。
小学生の子ども達を相手に、学校の宿題や家庭学習を手伝い、親が迎えに来るまで預かる施設だ。パートだと給料は安いが、コトコはフルタイムを選び、なんとか暮らしていける程度の額をもらうことになっている。
夜七時までの勤務は長く感じるが、今までの所が給料が安くて勤務時間が短かったのだろう。
初めは帰宅したらクタクタだったが、慣れて来たら早上がりのシフトも入り始め、時間に余裕が出来てくる。
そうしたらコツコツとアクセサリーを作る。出来上がればニシコに渡す。こちらの売上も自分の小遣いくらいにはなりそうだ。
家族には——母親には、大きな会社を辞めることについては渋られたが、すでに辞めた事と、次の職場が決まっていると伝えた事で諦めたようである。
コトコは思い切って、母親に聞いてみた。
『なんで、あの会社がいいわけ? 正社員でもないのに』
『そりゃ、大きい所だからね。誰かがあんたをもらってくれりゃ万々歳でしょうが』
コトコはそれを聞いてゾッとした。
有名な所ならいいのか。そこでコトコがどんな仕打ちを受けたか、中にいる人がどんな人なのか、非正規雇用の自分がこれからも働けるのか、知りもしない母はまた勝手な事を言う。
『今度のとこでは、良い人はいるのかい?』
そして——やっぱり母は自分の事をわかってないのだと実感した。
つづく
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