小さな勇気

松岡志雨

小さな勇気

ボクには«ユウくん»という友だちがいる。

みんなには見えていないボクだけの友だち。

お父さんやお母さんにユウくんのことを話すと少し悩んで「そんな子はいないよ」って信じてもらえなかった。

学校の先生に話すと「イマジナリーフレンドなのかい?」と言っていた。

イマジナリーフレンドって言うのは本当はいないんだけど本当にいるように感じるカクウの友だちなんだって。

でもボクには見える。クラスに友だちがいなくてもユウくんがいるから さみしくないんだ。

ユウくんはボクが4才のとき、幼稚園でお母さんの帰りを待っていた時にとつぜん話しかけてきたんだ。

「さみしいのかい?私もさみしいんだ。」ってね。

ボクが「大人なのにさみしいの?」って聞くと「大人だけどさみしいんだ。」って寂しそうに笑った。

それから毎日ユウくんはボクが1人になると現れて色んなことを話したんだ。

ボクの知らないことを沢山教えてくれた。

小学校にあがってからはお母さんのパートが長くなり帰りが遅くなった。

お父さんは夜遅くまでお仕事が忙しいみたい。

家でお留守番するのもユウくんがいるから さみしくなかった。

学校でボクにイヤなことする子がいるんだと話したら次の日ユウくんが守ってくれた。

その子はふしぎそうな顔してにげてった。

ユウくんのおかげで毎日楽しい。

「いつまでも友だちでいてね!」って言うと少し悲しい顔して「そうだね…」って言った。

「どうして悲しそうな顔するの?」って聞くと「ずっと友だちさ。だけどずっと一緒にはいれないんだ。」って。

「引っ越すの?」そう聞くと「私は本当はここにいるべきではないんだよ。」そう言って口を閉ざしてしまった。

そして次の日ユウくんはどこを探してもいなかった。次の日もその次の日も。

あれから1週間が経った木曜日。

ユウくんがボクの前に現れた。「どこいってたんだよ!いっぱい探したんだよ?」そう言うと「ごめんな。考えごとしてたんだ。」そう言うとボクの肩をつかんで話し始めた。「私はもうすぐ行かなきゃ行けないところがある。そこに行くともうキミとは会えなくなる。その前に私がキミに出来ることをしてやりたい。」「嫌だよ!ユウくんいなくなったらボク…ひとりぼっちじゃないか。」そう言うと「だからさみしくないように友だちを作るんだ。」ユウくんは優しい顔で言った。

次の日学校に行くとユウくんがイタズラばかりしてくる。ボクのえんぴつを机から落としたり消しゴムをかくしたり…。

ボクは人と話すことが苦手でとなりの席の子が落としたえんぴつを拾ってくれても«ありがとう»がなかなか言えなかった。«消しゴムかしてくれる?»なんてとてもじゃないけど言えなかった。

おかげでノートはまちがいだらけさ。

お昼休みにユウくんに人気のない校舎裏に来るように言われた。

校舎裏に行ってユウくんに問う。「なんであんなことするのさ!」そう言うと「えんぴつ拾ってくれたね。消しゴムないのとなりの席の子気づいてたよ?自分の消しゴム半分にちぎって貸してくれようとしてたよ?でもキミがノートぐしゃぐしゃにするもんで渡していいのかわからなくなってたよ?」「そ、そんなの知らない!」目を背けるボクにユウくんは言った。「キミも本当は仲良くしたいんだろ?少しの勇気で友だちは沢山出来るんだよ。大丈夫。キミは優しい子だから。友だちだってキミが話しかけてくれるの待ってるかもしれないよ…それと、もう時間がないや」そうさみしく笑うとユウくんは消えてしまった。

なんだよ勝手なこと言って勝手にいなくなって…

ボクは悲しかった。本当はユウくんの言ってることわかってたんだ。だけど友だちが出来たらユウくんが本当にいなくなっちゃう気がして怖かった。大好きなユウくんといつまでも一緒にいたかった。

午後の授業が始まった。

ボクは考えていた。ユウくんがボクに望んでいたこと「まだ遅くないかな?」そうつぶやいて勇気を出した。「あの…消しゴムなくしちゃって…2個もってないかな?」となりの席の子に声をかけると「これあげる!」そう言って半分にちぎられた消しゴムをくれた。「ありがとう」そう言うと彼はニカッと笑った。ボクもつられて笑った。

授業が終わると彼が話しかけてきた。「今日、一緒に帰らない?」「うん!」嬉しくて思わず大きな声が出た。一瞬おどろいてそれから2人して笑った。

帰り道では2人してふざけ合って別れぎわに、これからは一緒に帰ろうって約束をした。

«ユウくんがくれた小さな勇気で、ボク友だちができたよ。»心の中でつぶやくと«よかったねこれで安心して行けるよ»というユウくんの声が聞こえた。

あわてて周りを見渡すけどユウくんはどこにもいない。気のせいか…

それからは毎日学校に行っても楽しかった。彼のおかげで沢山の友だちができたし、休みの日に友だちと遊ぶことも増えた。だんだんユウくんのことを考えなくなった。

冬休み初めて田舎のおばあちゃん家に行くことになった。

「いらっしゃい。遠くからありがとうね」おばあちゃんが優しく出迎えてくれた。

「こんにちは」そう言って荷物をおろしていく。

玄関先からお仏壇が見える。あれ…?

ボクは急いで靴を脱ぎお仏壇にかけよる。

この写真…。後ろからおばあちゃんが言った。「それはあなたのお父さんの弟だよ。あなたが産まれる少し前に亡くなっちゃってね、あなたに会うの楽しみにしてたからようやく会えてきっと喜んでるよ。」

ボクの叔父さんだったんだ。

写真に写るユウくんは優しい顔で笑っていた。

ユウくんの姿はもう見えないけど、もう一度会えたら言いたかった言葉を線香の煙とともに«ありがとう。ユウくん。»

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小さな勇気 松岡志雨 @syu_129

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