レース編みのアラネア

黒イ卵

✴︎✴︎✴︎

 雨上あめあにじがかかり、まだちいさなアラネアはレースみに大忙おおいそがしです。

 しめった空気が流れ、土のむわっとしたにおいとまざり、アラネアのレースも、しっとりしてきました。


「いそげ、いそげ」


 おさまのたかさが落ちてきたので、おそらいろが、小妖精ピクシー興奮こうふんしたはねの色のよう。そのあとは、巨大甲虫ギガントカブトムシからだの色のようになってしまうのです。


 「レース編みを終わらせないと、今晩こんばん寝床ねどこがないわ」


 朝から何も食べていないアラネアは、クラクラする体をふりしぼり、しめったレースを編んでいきます。


 いそいそ、あみあみ……。


 どうにも、ぬれてうまくいきません。

 あせってしまううちに、お空の虹が消え、紋章幻蝶クレストオブモルフォ色の空は、蜂蜜酒ミード色に変わっていきました。 


 お日さまが、七竈ナナカマドよりも赤く、おおきくゆがみ、いよいよ竜胆ドラゴンのしんぞう色の空が広がり、ぴかぴか光るてんてんが、空に見えはじめました。


 「ああ、ちいさなベッドができたわ」


 アラネアはホッとひといきつき、おなかいていたことをおもしました。


 「なにかものはないかしら?」


 今日きょうはおうちひろつくれなかったので、獲物ごはんがいません。と、がさりとおとがしました。


 「こんばんは、アラネアさん。どうか、レースを編んでくれませんか?」


 そこにいたのは、背中せなかにたくさんてんてんをもったむしでした。 

 いつのまにかおつきさまがふんわり上がり、やわらかいひかりが、ひろがっています。


 星明ほしあかりの虫だわ。

 アラネアはお腹が空いていたので、背中のてんてんごと、食べてしまおうか、と思いました。


 「けてくださるのなら、おれいに、ときめぐりの花のミツをげます」


 ぷうんと、よいかおりがするミツの入った花を見せられ、たまらず、アラネアは言いました。


 「引き受けるわ! そのかわり、ミツはいますぐちょうだい!」

 「いいですよ」


 アラネアはミツを受け取ると、あっというまにみほしてしまいました。


 「ああ、おなかいっぱい。ねむくなったわ」


 アラネアは、さっそく作ったベッドでねむろうとしました。


 「アラネアさん、約束やくそくです。レースを編んでください。さむいふゆまえに、ぼうやたちに、あたたかいふくさせたいのです」


 このところ、ずいぶんよるは冷えます。

 こまったわ。アラネアは思います。

 レースを編むわけにはいきません。アラネアのぶんりなくなって、ふゆせなくなってしまいます。

 アラネアはうーんうーんとうなると、そのまま、ぐうぐうねむってしまいました。



 あさになりました。



 「おはようございますアラネアさん。さあ、ミツをあつめてきましたよ。どうか、わたしのかわいいぼうやたちのために、レースを編んで、くれませんか?」


 昨夜ゆうべの星明かりの虫が、背中の星をテカテカさせて、お願いします。


 「ごめんなさい。あんまりお腹が空いて、ミツをもらったら、つかれてねむってしまったの。けれど、私も冬えの準備じゅんびがあるから、レースをあげられないのよ」


 「そんな! そうしたら、ぼうやたちが冬を越せません。冬のかぜがひと吹きしたら、ぼうやたちはこごえてしまいます」 


 星明かりの虫の背中の星が、日差ひざしの中でもはっきりと、ちかちかとふるえだしました。


 「そうだ、アラネアさん。あなたの冬越えのために、とっておきのっぱを用意よういしましょう。やわらかくて、つややかな、世界樹せかいじゅの葉です。世界樹蓑虫ユグドラシルミノムシがたくさんで、はらったお礼に、いただいたんですよ。あなたなら、それで冬を越せませんか?」


 世界樹の葉だなんて! なんてステキなの、アラネアは思いました。わたしなら、冬のドレスにも、コートにもできるわ。

 ミノムシは、体のまわりに葉っぱをまとってるだけですもの。


 「わかったわ! ぼうやたちのために、レースを編みましょう。そうと決まれば、いそがなくっちゃ」


 アラネアはミツをひと息に飲みほすと、さっそく、小さな手袋てぶくろを作りました。


 「ふう。まずはここまでね。今日は、私の部屋へやも、作らなくちゃ」


 「アラネアさん、ありがとう! とてもこまかい網目あみめで、あたたかい手袋です」



 こうして、冬にそなえて、星明かりの虫はミツと葉っぱを集め、アラネアはレースで手袋やマフラーを、一生懸命いっしょうけんめい編みました。


 秋の終わりがやってきました。


 「アラネアさん、おかげで、ぼうやたちはこごえずに過ごせるよ。ありがとう」

 「こちらこそ、おいしいミツと、あたたかい葉っぱをありがとう。おかげで、冬を越せるわ」


 アラネアと星明かりの虫と、およそ数千匹すうせんびきのぼうやたちは、ぽかぽかした気持きもちで、冬をむかえるのでした。



(おわり)

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レース編みのアラネア 黒イ卵 @kuroitamago

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