第19話 ちょっと待ってくれ、話を聞いてほしい!

 完全に門前払いされてしまったライはどうしようかと悩む。

 対価もなしに鎧を作ってもらう事は出来ない。

 しかし、ドワーフの里に入る事は許されるのではないだろう。

 ライはもう一度だけ声をかけてみる。


「すいませーん! 鎧はいいんで中に入れてもらえませんかー!」


 すると、先程の小窓からドワーフが顔を出し、怪訝そうな顔で睨んでくる。


「えーっと、俺達怪しい者じゃないです!」

「アホ。変な事言うなよ。もうお前は黙ってろ」


 ライでは埒が明かないとスカイが前に出る。

 ライを押し退けて前に出てきたスカイをドワーフは警戒する。

 空の支配者と名高いドラゴンが牙を剥けば、いくらドワーフがいようとも勝ち目はない。

 先程の無礼な態度に対してドラゴンが何も言ってこないのは不気味であるが、襲ってこないところを見る限り、話は通じるのだろうと判断した。


「あー、一応言っておくがこちらに敵意はない。それから、先程お前が門前払いしたお方は先代魔王ガイアラクスを倒し、新たな魔王として君臨された魔王ライである」

「な、なにっ!? 魔王ガイアラクスが破れたと!?」

「そうだ。これからは魔王、いや! 魔裸王ライがこの魔界を統治する!」

「誰が魔裸王じゃい!」


 不名誉な二つ名にライは怒ってドヤ顔をドワーフに披露しているスカイの尻を蹴り上げた。


「いでっ!」

「魔裸王……! これは一大事じゃ! 今すぐ里の者達に教えねば!」

「あ、おい!」


 ライが止めようとするも小窓がパタンと音を立てて閉じられる。

 これは不味い事になったかもしれないとスカイがそろりそろりと逃げ出そうとしているのをライは捕まえた。


「面倒臭い事をしてくれたな! クソトカゲ!」

「本当の事だろ!? 真っ裸で現れたんだし!」

「今は服を着てるじゃねえか!!!」

「どうせ、すぐに破れて真っ裸になるわ!」

「ならねえよ!」


 二人が口喧嘩から殴り合いになり、砂埃が舞い上がる。

 クーロンは慌ててスカイから荷物を奪い、安全な場所へ避難させた。

 仲裁に入ろうかと悩むクーロンであったが間に割って入れば、大けがでは済まないだろうと判断し、傍観に徹するのであった。


『まあ、そうカッカしなくてもいいだろう』

『マスタはーまだ子供ですから仕方がありませんよ』

『そういえばそうであったな』

『魔裸王なんてふざけた名前は嫌でしょう。怒るのも仕方がありません』

『しかし、スカイの言う事も間違っていないぞ。最近の主は羞恥心が薄れているからな。裸であっても堂々としている』

『戦闘の度に服が破けていましたからね。恥ずかしいからと言って戦わなければ死んでましたから……』


 初めてライが裸になったのはカーミラとの戦闘である。

 しかも、よりによってシエルが仲間になったばかりの頃だ。

 流石に恥ずかしいからと、カーミラに休戦を申し込んだほどである。


 しかし、カーミラによってライの提案は却下され、戦う事を余儀なくされた。

 そのおかげもあってライは裸で戦う事に慣れ、魔王ガイアラクスも裸で倒し、魔界にも裸一貫でやってきたのだ。


 一番最初に邂逅したドラゴン族がライのことを変態と認識してしまうのも無理はないだろう。

 スカイが魔王ではなく魔裸王と呼んでしまうのも仕方のない事であった。

 恨むならな裸で突撃してきた自分を恨むべきだろう。


「勝った……!」

「ぐえぇ……」


 仰向けに倒れているスカイの上にライが勝利の拳を掲げていた。

 スカイもボロボロだがライもボロボロで服も破れてしまっている。

 クーロンはボロボロになった二人を見て頭を抱えた。


 ライ達が馬鹿な事をしていると門が開かれ、中からドワーフ達が出てくる。

 いきなりの事でライ達が固まっていると、ドワーフ達もおかしな光景に目を丸くし、固まってしまった。

 お互いに固まっていたが、正気を取り戻したクーロンがドワーフ達に話しかける。


「大勢で来られているようですが、何かありましたか?」

「あ、いえ、新たなる魔王様が来訪されたと聞いたので里の代表である私がお出迎えをと思い、駆け付けたのですが……」

「なるほど。里長でしたか」


 まさか、ドワーフの里長が直々に出迎えに来るとは思わなかった。

 しかし、よく考えればライは新たな魔王である。

 であれば、里長が自ら出迎えに来る事も納得出来る。

 先代魔王ガイアラクスを倒したライに粗相があってはいけないだろう。

 もしも、ライが怒り狂ってドワーフ達の里を襲えば、どれほどの被害が出るかは容易に想像できる。


「それで……」


 里長の視線がスカイの上で拳を突き上げているライに移る。

 そして、またクーロンに視線が戻り、説明してほしいと言わんばかりの雰囲気を出した。


「あちらのドラゴンの上に立っている方が新たな魔王ライです」

「魔裸王と聞いたのですが?」

「本人には絶対に言わないよう注意してください。あのドラゴンのようになりますよ」

「肝に銘じておきます」


 魔界最強の種族と呼ばれるドラゴンを踏み台にしているライを見て、里長はクーロンの言う事を決して破ってはならないと誓った。

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