第20話 ドワーフすげー!!!

 魔界最強の種族と呼ばれるドラゴンを踏み台にしているライを見て、里長はクーロンの言う事を決して破ってはならないと誓った。


 ライがスカイの上で勝利の余韻に浸っていたら、ゾロゾロと大勢のドワーフがやってくる。

 ドワーフ達に気が付いたライは視線をそちらに向けて、スカイの上から飛び降りた。


「お、お初にお目にかかります。魔王ライ様。私はこの里の長をさせて頂いております。ドワーフのガドンと申します」

「初めまして。一応、魔王をやらせてもらってるライです」

「よ、よろしくお願いいたします」


 ライとしては丁寧に挨拶をしているつもりなのだが、ガドンの様子がどうにもおかしい。

 得体の知れない化け物を目の前にして怯えているみたいだ。

 もしかして、スカイをボコボコにしたのがいけなかったのかもしれない。

 そう考えたライは誤解を解くようにガドンへ説明する。


「あの、そう怖がらなくても大丈夫ですよ。スカイがああなったのは自業自得ですから」


 そう言われてもガドンの誤解は解けず、余計に恐怖心を煽ることになる。

 ガドンからすれば、「俺に歯向かえばお前もああなるぞ」と言われているようなもの。

 ガイアラクス以上の強者であるライを決して怒らせてはいけないとガドンは誓い、最上級の待遇で里に迎え入れることにした。


「と、とりあえず、ここでは何ですのでどうぞ里へいらしてください」


 気絶しているスカイをライが起こそうとしたら、目を覚まし次第ドワーフが迎えに行ってくれるそうで放置することに。

 震えているドワーフ達に案内され、ライとクーロンは門をくぐり、ドワーフの里へ足を踏み入れた。


『ほほう、これは……』

『壮観ですね……』


 ドワーフの里は想像していた以上に豊かなものであった。

 石造りの建物が多く、どれも頑丈そうで見た目も綺麗である。

 ちょっとやそっとの事では壊れないだろう。

 道路も綺麗に舗装されており、技術力の高さを感じられる。


「凄いな。道も綺麗だし、建物も全部立派だ……」

「これがドワーフの里……」

「クーロンも初めてなのか?」

「ええ。交流こそありますが実際に訪問したのは今日が初めてです」

「そうなんだ」

「はい、本当に素晴らしい里です」


 ライとクーロンが町並みを見て感動に浸っていると里長が嬉しそうに話しかける。


「ここを気に入ってもらえたようで嬉しい限りです」

「いや、ホント綺麗ですね。やっぱり、ドワーフは全員が物作りが得意なんですか?」

「ええ。とはいっても得手不得手はあります。家を建てるのが上手い者もいれば剣や鎧を作るのが上手い者もおります」

「なるほど」

「ところで魔王様はなんでも鎧をご所望だとか……」


 そういえば一番最初に鎧が欲しいと言っていた事を思い出す。

 確かに鎧は欲しいが壊れるようなものなら別になくてもいい。

 正直に言えば、決して壊れない鎧か服があればいいのだ。

 そうすれば裸で戦う事もないし、魔裸王と呼ばれる事もなくなるだろう。


「その……もしも、可能であれば絶対に壊れない鎧か、絶対に破けない服が欲しいんだが」

「絶対に壊れない鎧か、絶対に破けない服ですか……」


 里長が難しそうな顔をして腕を組むのでライはどうやら願っているものは無理そうだと察した。

 しかし、意外な事に里長の返事はそうではなかった。


「やってみましょう」

「へ? いいんですか!? 結構、無茶な要求だと思うんですが……」

「新しく就任された魔王様への献上品という事で頑張らせていただきましょう」

「おお! ありがとうございます!」

『やったな、主!』

『運がいいですね、マスター』


 言ってみるものだな、とライは大いに喜んだ。

 自分で言っておいてなんだが、かなり無茶な要求をしている。

 だと言うのに里長は頑張ってくれると言ってくれた。

 もしかしたら、望みは叶わないかもしれないが僅かにでも可能性があるのなら賭けてみたい。

 ライはほんの少しだけドワーフ達に期待を寄せるのであった。


「さて、積もる話もあるでしょうが着きました。ここが我が家です。狭い家ですが、どうぞお寛ぎください」


 狭い家だと称しているがライからすればお城と変わりはなかった。

 流石に帝都にあった城よりかは小さいが、それでも十分の広さを有している。

 中へ通されたライはそのまま玄関を上がろうとしたのだが、里長に止められる。


「申し訳ない。我々、ドワーフの家は土足厳禁なのです。ここで靴を脱いでもらえないでしょうか?」

「え、あ、そうなんですね。分かりました」


 珍しい風習に関心しながらライは靴を脱いで中へ上がる。

 屋内で慣れない裸足に違和感を感じるも、しばらくしたら新鮮さを感じるようになり、楽しそうに顔を綻ばせながら里長の後ろをついていく。


「どうぞ、こちらへ」


 見慣れない形のドアを里長が横にスライドさせると、これまた見慣れない造りになっている部屋が見えた。


『これは見た事がないな……』

『私もです。長い時を生きてきましたが初めて見ました』

「(ブラドとエルも知らないのか……)」


 物知りの二人でも知らない部屋を見てライは里長に質問する。


「あの、この部屋って何て言うんですか?」

「ここは緑の間と呼んでおります。名前の由来はここにあるほとんどの物が草木から作られているためです」

「緑の間……!」

『なんと!? ここにあるほとんどの物が草木から作られていると!?』

『凄いですね! 流石は物作りに特化した種族です!』

「この家も木造建築と呼んでまして、ほとんど木で作っているのですよ」

「す、すげー……!」


 ドワーフの技術力にライはそれ以上の言葉が出てこなかった。

 もっとも、ライの語彙力は乏しいので凄い以外の感想はない。

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