第18話 次はドワーフ!

 エルフの里を後にした一行は次にどこを目指そうかと話し合う。


「次はどこに行くべきか……」

「ジュリウスいなかったしな~」

「奔放な方だと言っていたので、魔界のどこかにいるのでしょう」

「う~ん……。頼みに綱であるジュリウスが見つからなかった以上、別の可能性を探すべきか」

「まあ、魔界は広いし、長命種は他にもいるからな。ドワーフなんてどうだ?」

「ドワーフですか? 確かに彼等も数百年の寿命を持っていますがエルフほどではありませんよ。それに彼等の知識は物作りに偏っていますので人間界への帰り方は知らないのでは?」


 スカイの背に乗り、胡坐をかいているライは空を見上げる。

 クーロンの否定的な意見を聞いてドワーフの里へ行く事をやめようかと考える。


 しかし、物作りに偏った知識を有していると聞いて魅力を感じていた。

 ライは戦闘の際にほとんど裸になる事が多く、かすかに残っている羞恥心が訴えているのだ。

 破れず、壊れず、再生するような服、もしくは鎧が欲しいと。

 ガイアラクスほどの強敵でなければ裸になる事は今後ないかもしれないが、自分を脅かす敵が現れないとも限らない。


 実際、話だけ聞いているジュリウスはガイアラクスですら下せなかった猛者だ。

 もしも、ジュリウスと敵対するような事になれば、着ている服は完全にダメになるだろう。

 着替えは貰ったから余裕はあるが、一着も無駄にしたくはない。

 それゆえにライはドワーフに興味を惹かれ始めるのであった。


「早く帰りたいけど、ドワーフが気になるから寄ってみないか?」

「もしかして、鎧でも作ってもらう気か?」

「そうなのですか?」

『そうだと言うんだ、主』

『嘘を吐いても後でバレますよ』

「うん」


 魔裸王の異名を広めたいスカイは微妙な気分だがライの言う事には逆らえない。

 味方になりそうなクーロンはあてにならないだろう。

 彼は魔裸王だろうと魔王だろうと特に気にしないのだ。

 もっとも、有翼族はライの事を魔裸王と認識している。

 里に降り立った時に裸であり、里の中を歩いている時も前を隠そうとせず、堂々と歩いていたので裸が基本なのだと思われていた。


「で、どうかな?」

「ライが言うなら従うさ」

「私も異論はありませんよ」

『ドワーフ印の酒をまた飲める日がやってくるとはな!』

『私は詳しくありませんが美味しいのですか?』

『うむ! 癖は強いが美味だぞ! とはいえ、何百年も前の話だ。今はどうなっているか見当もつかない』

『物作りに偏っていると仰っていましたから食文化も発展しているのでは?』

『発展はしているだろうが酒以外は微妙であろうな。酒に合うつまみは期待出来るだろうが、それ以外はあまり期待しない方がいい』

『そうですか……。残念です』


 ブラドの話を聞いてエルがシュンとする。

 二人にとって食事は唯一の楽しみであるのでドワーフの料理が楽しみだったようだ。

 しかし、酒に関するもの以外は微妙だと聞いてエルは露骨に落ち込んだ。


「それじゃあ、次の目的地はドワーフの里で決定!」

「へいへいっと」

「分かりました」


 次の目的地は決まった。

 土と火の神を信仰し、物作りに偏った知識を持ち、偏屈で酒好きの多いとされるドワーフの里。

 ライはまだ見ぬドワーフ達に胸を躍らせ、スカイ達と空を進むのであった。


 ◇◇◇◇


 空の旅を続けて数日、ライ達はドワーフの里があると言われているエルラド山脈に来ていた。

 エルラド山脈は鉱石が豊富に取れる場所でドワーフにとっては、まさに天国のような場所である。

 その麓にドワーフは里を作り、物作りに勤しんでいると言う。


「立派な外壁だな~」

「ドワーフは一応魔界で一番の職人だからな。結構、他の種族もドワーフに頼んで建物なんかを作ってもらってるんだ」

「我々、有翼族の里にある建物もドワーフに作ってもらったんですよ。報酬はお酒と布、それから少しばかりのお金です」

「へ~」


 有翼族の里フリューゲルにあった族長の屋敷を思い出し、ライは目の前の立派な外壁を見て納得する。

 そして、本当に自分の決して壊れない鎧を作ってもらえるかもしれないと期待に胸が膨らむ。

 しかし、どのような対価を求められるか分からない為、不安にも思う。

 最悪、魔王として命令するしかないだろう。


「とりあえず、中に入ってみるか」


 立派な外壁と大きな門に隔てられたドワーフの里にライ達は向かう。

 外敵を拒むように聳え立つ門に圧倒されていたライの耳の野太い声が響く。

 門のすぐ隣の外壁から小窓のようなものが開いてもじゃもじゃの髭面をしたドワーフが顔を出した。


「おい! そこの奇妙な三人組? でいいのか? ドラゴンと有翼族と……ゴブリンの亜種か?」

「誰がゴブリンの亜種か!?」

「違うのか?」

「違うわ! 俺は人間だ!」

「人間!? なんで人間がドラゴンと有翼族と一緒に行動してるんだ!? そもそもなんで人間が魔界に?」


 奇妙な組み合わせに驚くドワーフ。

 一体、どのような用件があってここに来たのかと尋ねる。


「まあいい。それでここには何をしに来た?」

「実は人間界に戻りたいんだ。それとついでに鎧が欲しい」

「人間界に戻る方法は知らんが鎧なら作ってやれるぞ。勿論、対価はあるんだろうな?」

「ない!」

「帰れっ!!!」


 バタンッと小窓が閉められ、門前払いされてしまう。

 ライは言葉を間違えた事を知り、慌てふためいて大きな声を上げる。


「ま、待ってくれ! もう少し話を聞いてくれ!」


 しかし、ドワーフは完全に無視を決め込んでいるようで返事はなかった。

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