第17話 バイバイ、エルフの里!

 ◇◇◇◇


 翌朝、ライは爽やかな目覚めを迎えた。

 深夜にエルフ達の夜這いはあったが、最初の二人だけで以降は何もなく、穏やかな眠りに就く事が出来たおかげである。

 ライは知らないがエルフ達は改めて魔裸王がどれほど恐ろしい存在なのかを体感し、怒らせないよう里全体に言い聞かせ、誠心誠意尽くすよう心掛けていた。


「ジュリウス、現れなかったね」

「申し訳ありません……。ジュリウス様は宴が好きなのでフラフラと現れると思っていたのですが」

「まあ、仕方ないよ。近くにいないって事だけは分かったんだし、また旅に出ればいい話だ」

「え!? 旅に行かれてしまうのですか? もうしばらく滞在していただいてもよろしいのですが……」

「いや、俺は一応人間界に帰るのが目標だからね。ジュリウスは帰り方を知ってるかもしれないから探してるだけで、戻れる方法が分かれば別にジュリウスに会う必要はないし」

「そ、そうですか……」


 ライの目的は一貫している。

 人間界に帰るという目的だ。

 勢いのまま魔界に来て、よく考えずガイアラクスが安定させた人間界と魔界を繋ぐゲートを破壊したせいで帰れなくなってしまった。

 あの時、もっと冷静に考えていれば今頃は人間界で平穏に暮らせていただろう。もっとも、今更な話であるが。


「さてと、それじゃ、俺等は行きますね」

「お待ちください。せめて、もう少しだけ里に滞在していきませんか?」

「いや、でも、やる事ないし……」


 新たな魔王の歓迎会と称した宴は楽しかった。

 だが、それだけでエルフの里に滞在しようとは思えない。

 他にやる事がある以上、エルフの里に滞在する暇はライにはない。


「色々と見てもらいたいのですが……。試したい事もありますし」

「何をさせる気だよ……」


 不穏な発言に恐ろしくなるライ。

 エルフ達が好奇心旺盛だという事は昨夜の一件で良く知っている。

 恐らく、人間であり、新たな魔王であるライの意見を色々と聞きたいのだろう。


「まあまあ、いいんじゃねえか? 少しくらいは滞在してやってもよ」

「スカイが楽しみたいだけだろ」

「そりゃあな。酒は美味いし、飯も美味い! ついでに鱗磨きも上手いからな! 見てくれ! 俺の鱗の艶を!」


 そう言ってエルフ達によって磨かれ、綺麗になった鱗を見せつけてくるスカイ。

 元々、綺麗だったがエルフ達の技術によってさらに美しさを増している鱗には惚れ惚れしてしまいそうだ。

 しかし、ドラゴンの鱗などに全く興味のないライは適当に相槌を打つだけ。


「ん? ああ、そうみたいだな」

「もう少し興味もてよー!」

「実に見事な輝きですよ、スカイ様」

「クーロンは優しいなー! どこぞの魔王様と違ってー!」

「お前の鱗が汚かろうが綺麗だろうが心底どうでもいいわ」

「人間にとっての服装だと思えよ! 身綺麗でいた方が異性にもモテるだろうが!」

「まあ、一理あるがドラゴンの恋愛事情なんて興味ないわ」

「つまらねえ奴だな~!」

「あの、お二人とも里長が困っていますので、その辺に」


 ライとスカイはクーロンに指摘され、エルフの里長に目を向けると困ったように笑っていた。

 少し申し訳ない事をしてしまったとライとスカイは頭を下げて謝罪する。


「やっぱり、申し出は有難いんだけど俺はエルフと違って短い時間でしか生きられないんだ。だから、一刻も早く人間界に戻りたい」

「そうですか……。私達としてはもっとおもてなしをしたかったのですが仕方がありませんね」


 エルフ達は好奇心旺盛という事もあって、やはり新たな魔王の誕生というイベントは嬉しく、もう少しだけ宴を楽しみたいようだ。

 毎日が刺激的という事はないので、こうした面白いイベントが起きれば、長い時間を使って楽しみたいのだ。

 しかし、ライはエルフと違い、短い寿命なので昨夜の宴で十分満足している。


「ま、まあ、もし次があればもう少しだけお世話になるよ」

「おお! そうですか! では、その日を楽しみに待っています!」


 約束が果たされるかは分からないが、少なくともエルフ達にとっては楽しみの一つが増えた。

 再びライが訪れようと、訪れまいとエルフ達は今日の事を思い出して、笑うのだ。あの日は実に楽しかった、と。


「それじゃあ、俺達はこれで」

「あ、お待ちください。おい、お前達。アレを持ってきてくれ」


 少しだけ待っているとエルフ達が大きな荷物を持ってきた。

 はて、一体何なのだろうかとライが首を傾げていると里長が教えてくれる。


「旅をされていると聞いてましたので保存がきく食料と水をお持ちしました。それから魔裸王様は衣服をご所望という事でしたのでいくつかお持ちしております。どうか、受け取ってもらえないでしょうか?」

「有難く! 誠にありがたく頂戴します!!!」

『今日一番の喜びようだな』

『衣服については仕方がありません。ですが、戦闘の際にはどうせ破れるのですから、必要ない気がしますが』

「(俺にとっては重要なの!!!)」

『すでに魔裸王と定着し始めているというのに……』

『まあ、いいではありませんか。温かい目で見守りましょう』


 エルフ達から旅の荷物を受け取ったライはスカイに括り付け、ジュリウスを探すと同時に人間界へ帰る方法を探す。

 魔界は広く、生態系も謎だらけでどこにどのような種族がいるかは分からない。

 それでも愛する人達のもとへ帰るべく、ライはスカイとクーロンの二人を引き連れてエルフの里を後にするのであった。


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