第12話 昨日は百年前の話だよ

 ドラゴンのスカイが飛ばしてくれたおかげでエルフの森には、すぐに着いた。巨大な大木がひしめき合っており、見る者を圧倒するような森であった。


「デカいな……」

「樹齢千年とか超えてるようなやつばかりだからな」

「この奥にエルフの里があるんですよ。彼等は木の上に家を建てて生活してるんです」

「へ~……」

『我の役目が……』

『まあ、いいじゃありませんか。我々の役目は説明や解説ではなく剣として戦う事ですから』


 クーロンが加入してから魔界の解説役を務めていたブラドが役割を取られてしまったので少し拗ねていた。エルレシオンがそれを慰めているが、ライからすればどっちでもいいとしか考えていなかった。


 勿論、ブラドが嫌いになったわけではない。別に解説役はどちらでもいいのだ。ブラドの本来の役目はエルレシオンの言う通り、剣として一緒に戦う事だ。

 だから、ライとしてはそちらで頑張ってもらいたいと思っている。だが、それはライの願望であってブラドの願望ではない。彼は戦いがないので解説役が唯一の楽しみなのだ。それゆえに役目を失ってしまったのは悲しかった。


「では、参りましょうか」

「俺が入っても問題ないのか?」


 ドラゴンであるスカイは体が大きい。森も広く、木々も大きいのでスカイでも十分に入れる。しかし、エルフの森にいきなりドラゴンが来たら大騒ぎであろう。その辺りを配慮しているあたり、スカイはまだ常識を持っていた。

 その点で言えばライは裸でないだけマシなのだが、残念なことに奇妙な魔力は隠せていない。まだライは魔力の制御が出来ないのだ。勿論、鍛錬を積めばいずれは可能になるが、そもそも人間界では必要のない技術である。

 しかし、この魔界では必要不可欠だ。実力を魔力で測ったりすることもあるが、一番は身を隠すためだったりする。弱肉強食の魔界で魔力を垂れ流しにしているのは襲ってくれと言っているようなものなのだ。


 もっとも、ライの魔力量はガイアラクスを超えており、闘気とも融合しているので非常に気味が悪い。食べれば腹を壊すだろう。むしろ、腹の中から突き破って出てくる。

 そのような相手を襲うようなものは滅多にいない。いるとしたら、それは余程の強者か愚者であろう。


「おい、ライ。お前、魔力を隠す努力をしろよ」

「え……?」


 当然、魔力を感じ取れるスカイとクーロンの二人。彼等はライと一緒に行動しているから問題はないのだが、突然尋常ではない奇妙な魔力を持った化け物が現れればどうなるか。


 簡単な話だ。二通りである。逃げるか、決死の覚悟で挑むかのどちらかだ。


「来ますね……」


 クーロンの呟きと共に三人は囲まれてしまった。囲まれたと言ってもエルフの姿は見えない。エルフの戦士たちは木々に身を隠し、陰から弓を構えていた。


「そこの三人、いや、羽翼族の戦士とドラゴンはいい。真ん中のお前! 平ったい顔をした新種の魔物か!」

「誰が新種の魔物じゃい!」


 思わず反論をしてしまったライは怒鳴り声を上げてしまう。それと同時にエルフの戦士たちが牽制に矢を放ってきた。


「おう……!」

「我等の森に何をしにきた!」

「ほら、こうなる」


 まるでこうなることが分かっていたかのようにスカイが呆れたような声を出し、ライを一瞥する。


「うぐ……。なら、今度魔力を隠す方法とか教えてくれよ」

「我等の質問に応えよ!」

「あーはいはい。えっと、実はジュリウスっていう人を探してるんだけど、何か知りませんか?」

「何? ジュリウス様の事か?」

「どのジュリウスかは知らないけど、エンシェントハイエルフのジュリウスさんを探してるんです」

「なんと……! あの閃光の貴公子ジュリウス様か」

「すっげー大層な名前だな……」

『ほほう。大層な響きだが果たして実力はどうかな』

『ガイアラクスが配下に出来なかったというくらいですから相当でしょう』


 いきなり大当たりを引いたことにライは喜んだ。しかし、思った以上に相手が大層な二つ名を持っていたので複雑な気持ちである。期待できる反面、嫌な予感が半端ない。


「その閃光の貴公子ジュリウスってエルフを探してるんです。どこにいるか知りませんか?」

「ふむ……。確か、我等が森に来たのは百年前だったか?」

「いや、百五十年前ではなかったか?」

「違いますよ。三百年ほど前ですよ」


 木々の上から聞こえてくるエルフたちの会話内容にライは頬が引き攣っていた。昨日、一昨日の話ではない。単位がおかしいのだ。人間のライからすれば百年など到底想像できない領域の話である。

 百年前などライからすれば祖父の父、曾祖父ひいじいさんの父である高祖父ひいひいじいさんの時代の話である。想像できるはずもないだろう。


「え~っと……?」

「ああ、人間であるライからすれば途方もない話でしたね。彼等エルフは長命種ですから時間の感覚は違いますよ。彼等にとって昨日は百年前くらいをさしたりしますから」

「長命種あるあるだな」


 クーロンの説明にスカイが納得したようにうんうんと頷いているが、ライからすればやはり理解できない話だ。


「あの……最近ではないんですか?」

「最近? 五十年ほど前の話ではないぞ?」

「おう……」


 とりあえず、わかったことはエルフたちに話を聞いても意味がないということ。彼等の話では数百年の時が経っているのだ。ライとしてはあまりにも長すぎる時間であった。


「なあ、帰らないか?」

「ああ? ここまで来たんだからついでに魔王ですって宣伝しておけよ」


 と、スカイに言われてライは引き返して二度手間になるよりはマシかと判断してエルフたちに自分は新たな魔王だと宣言したのであった。


「あー、新種の魔物ではないけど、この度ガイアラクスを下し、新たな魔王として就任することになったライです」


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