第10話 みんな、真っ裸で生まれてくるんだぜ?
お茶を飲み、菓子をつまみ、ライはクーロンと他愛もない話題で盛り上がりながら、羽翼族の族長ミネルバの帰還を待っていた。
お代わりのお茶を貰っていると、族長ミネルバの帰還をライは知る。控えていた侍女から族長が帰還したことを告げられたライはクーロンと共にミネルバの元へ向かう。
すると、そこには相変わらず大きな姿をしているミネルバと、その横に
ちょこんと佇んでいる女性をライは目にする。
恐らく彼女こそが先代族長なのだろうとライは推測する。なにしろ、ミネルバの横にいる時点のだ。それ以外には考えられないだろう。
二人の前にまで進むとライ。立ち止まって彼女達へ顔を向けると、ミネルバの横に立っていたアストレアが一歩前に出て、ライへ向かって頭を下げた。
「初めまして、魔王ライ様。私は羽翼族先代族長アストレアと申します」
「あ、どうも。こちらこそ初めまして、ライと言います」
「ご丁寧な挨拶どうもありがとうございます。ミネルバから話は聞いております。ライ様は元の世界、人間界へ帰りたいとのことですが、よろしいですか?」
確認するようにライの顔を伺うアストレアに彼は頷いて見せた。
「うん。合ってます。俺は人間界へ帰りたいんです」
「では、結論から申します。私は人間界へ行く方法を知りません」
その一言でライの表情は曇る。ミネルバが知らなかったのだから当然かとライが落胆しているとアストレアが「ですが」と続けた。
「私は知りませんが知っているかもしれない人物を知っております」
「え!? それは誰なんですか!」
「変わり者のエンシェントハイエルフと呼ばれている御方、ジュリウス様です」
「ジュリウス……! そのエルフが知ってるかもしれないんだな?」
「はい。ですが、あくまでも知っているかもしれないというだけで知らない場合もあります」
「そ、そうか。そうだよな……」
「しかし、彼は三千年以上生きてると言われております。知識は豊富かと」
「三千年以上!? そんなに長生きなのか、エルフって……」
「いえ、エルフは長くても千年程度です。ハイエルフですと、その倍の二千年と言われてますが、エンシェントハイエルフはさらにその倍とも言われております」
「す、すごいな」
『魔界はまだ我々も知らない種族がいるくらいだからな』
『膨大な世界なのですね』
『うむ。エンシェントハイエルフは存在こそ知っているが、実際に会ったことは我もない』
何千年と生きているブラドでさえ会ったことのないエンシェントハイエルフとは一体どれ程の存在なのか気になったライはアストレアに質問する。
「そのエンシェントハイエルフってのはどういう種族なんですか?」
「先程も言ったように膨大な寿命を持った種族です。それだけでなくエルフの祖先とも言われている種族で、桁違いの魔力を持っているとか」
「もしかして、そのジュリウスっていうエンシェントハイエルフはガイアラクスよりも強かったりする?」
「それは分かりません。先代魔王ガイアラクスは魔界を統一しましたが、ジュリウスが配下に加わったという話は聞きませんでしたから」
「なるほど……」
『そう聞くと、あのガイアラクスでさえも勝てなかったと思えるな』
『そうですね。もし、勝利していたなら配下に加えていたでしょうし』
「(ゾッとする話だ……)」
何前年と生きているエンシェントハイエルフが魔王軍にいたらと思うと、笑えない話である。豊富な知識に、魔王と同等かそれ以上の力を持つ敵など想像もしたくない。
もしかしたら、ライが生まれるより早く人間界は魔王の手に落ちていたかもしれないだろう。
「それでどうしますか?」
沈黙しているライに対してアストレアがおずおずと問い掛けた。
「とりあえず、そのジュリウスっていうエルフを探してみます」
「そうですか。もしかして、すぐにでも発つのですか?」
「早く元の世界に帰りたいですからね」
「故郷を思う気持ちは分かります。ですが、一つ忘れていたことがありました」
「なんです?」
一体何を忘れていたのだろうかと気になるライは首を傾げていた。
「実はジュリウスはあちこちを転々としている流浪の旅人なのです。恐らくですが、どこにいるかは私も分かりません……」
「え……。で、でも、会ったことあるんじゃ?」
「いえ、ありません。噂は聞いたことはあっても直接お会いしたことはないのです」
「それはつまり顔も知らないわけですか……?」
「はい……」
非常に申し訳なさそうに顔を下に向けるアストレアを見てライはなんてこったと手で顔を覆い天井を仰ぐのであった。
しかし、少なくとも手掛かりがゼロというわけではない。変わり者のエンシェントハイエルフという情報はあるのだ。その情報をもとに探せばいいだけである。時間は掛かるかもしれないが、出来る事は限られているのだから。
「まあ、なんとかします。幸いにもスカイっていう竜が仲間にいますんで」
「そういうことでしたら、クーロンも同行させましょうか?」
我ながら名案だと言わんばかりに羽翼族の長であるミネルバがポンと手を叩いた。ライとしては非常に嬉しい提案なのだが、白羽の矢が突き立てられたクーロンはというと、なんとも言えない微妙な表情をしていた。
「長の命であれば自分は従うまでです」
なんと忠誠心のある男だろうか。ほぼ変態といってもいい男と同行など誰がしたいと思えようか。実際、クーロンも最初は同行することを拒んでいたのだ。今でこそ同行してくれてはいるが、それは長の下まで連れて行くという期限付きのものであったからに過ぎない。
「(少しは仲良くなれたと思ったんだけどな~!)」
『まあ、仕方あるまいよ。露骨に嫌がられてないだけマシと思うべきだろう』
確かにブラドの言うとおり、初めて会った時のことを考えれば今回はそこまで嫌がられていないのでマシと言えるだろう。ただし、ライからすればあまり嬉しくないが、素っ裸だった自分が悪いので何も言えなかった。
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