第9話 エンジェルスタイル!!!

 ミネルバは自己最高記録を塗り替えるほどの速度で飛んでいた。

 今、自身の元へやってきた変態ライについて先代族長へ相談する為に。


 先代魔王ガイアラクス。彼を下し、新たな魔王となったライ。本人はあまり乗り気ではないが、魔界の住人からすれば関係ない。

 先代魔王を倒したのだから、新たな魔王が生まれるのは道理。ずっと魔界はそうやって歴史を紡いできたのだ。


 勿論、人間が魔王というのは前代未聞であるが。それでも伝統というか風習というか、魔王を倒した者が新たな魔王ということに違いはない。

 しかし、やはり、人間が魔王だと認めない種族はいるだろう。


 羽翼族は既に認めているが、きっと反対するものは多いはずだ。


 出来れば厄介事は勘弁してほしいと、先代族長が隠居している浮遊島に向かいながらミネルバは嘆いていた。


 浮遊島に辿り着いたミネルバはゆっくり着地すると、急ぎ足で先代族長の元へ向かう。

 ミネルバには小さいが、普通の羽翼族には大きな家が建っており、中庭には小さな池まである。隠居するには十分に快適な空間が広がっていた。


 丁度、外に出ていたのか池のほとりに女性が立っていた。彼女は池の中を覗き込んでおり、少し俯いていたのだがミネルバの魔力を感知して、顔を上げる。


「お館さま~ッ!!」


 久しぶりに会う隠居先の人物、お館様にミネルバは突撃する。

 しかし、お館様は飛んできたミネルバをひょいと避けると、その手を取ってくるりと彼女を地面に叩きつけた。


「あらあら、ミネルバったら昔の癖で飛びついてくるのはいいのだけれど、自分の体が大きくなったことを考えましょうね」

「あう~……はい」

「それで、そんなに慌ててどうしたの?」

「そうだ! 大変、大変なんです、お館様~!」


 がばッと起き上がってお館様に迫るミネルバに彼女はデコピンして、ミネルバを軽く後ろへ押しやった。


「いた~ッ!」

「落ち着きなさい。それから、私はもう隠居した身です。お館様ではなく、アストレアとお呼びなさい」

「す、すいません。アストレア様」

「様もいりません。今は貴女が羽翼族の長なのですから」

「で、でも、私にとってはアストレア様はお館様ですし……」

「はあ。仕方がありませんね。それで、私に何か用があったのでしょう?」

「あ、そうでした! 変態が変態がうちの島にやってきたんです!」

「変態? それはどのような御方なのですか?」

「えっと、人間さんなんですけど、魔力が先代魔王ガイアラクス様以上で、こうもにょもにょとした魔力をしてるんです!」

「……もっと具体的に話しなさい。先代魔王ガイアラクスとはどういうことですか?」

「あ、すいません。まずはそこからですよね!」


 うっかりしていたミネルバは、まず先代魔王ガイアラクスが討たれたことを説明し、その後にガイアラクスを討ったのが人間であるライだという事を話した。


「なるほど。そのようなことが起こっていたのですね」

「はい。それで、新たな魔王ライ様は人間界へ帰りたいらしいのです。アストレア様なら人間界へ戻る方法を知っている方を知っているのではと思いまして」

「そういうことですか。そう言う事なら力になりましょう。幸い、一人心当たりがいますので」

「おお! ありがとうございます! もし、知らないって言われたらどうしようかと思いました! ライ様がお怒りになられて暴れられると私ではどうしようもありませんから!」

「先代魔王ガイアラクス様を下した方ですからね。私達、羽翼族が総力を挙げても倒せないでしょう」

「はい。多分、ボロボロにされて慰め者にされちゃいます!」

「それ程までに野蛮な御方なのですか?」


 ミネルバの感想でしか知らないアストレアは少しだけ恐怖心を抱く。新たな魔王ライは先代と違って、暴力的な人物なのだと。

 あながち間違ってはいないが、そこまで酷くはない。ただし、敵対すれば女といえど容赦しないのがライである。カーミラがいい例だ。

 容姿端麗で人間に近い見た目を持つ吸血鬼であってもライは一切容赦しなかった。つまり、羽翼族とて例外ではない。


「はい! アストレア様も覚悟しておいた方がいいです!」


 もし、ここにライがいたら間違いなくミネルバを殴っていただろう。


「そうですね。新たな魔王様に粗相をしないよう努めます」


 というわけでアストレアは正装に着替えて、ミネルバと一緒にライが待っている社へと戻る。


 ◇◇◇◇


「ところで、先代の族長ってどういう人だったんだ?」

「そうですね。落ち着いた方で凛々しいお人でしたよ」

「ミネルバさんみたいにでっかいの?」

「ええ。大きかったですよ。ですが、ミネルバ様に族長の座を譲り渡した後は私達とさほど変わらない背丈になっていました」

「ほえ~。そうなんだ。てことは、やっぱり、天空の翼が凄いんだな」

「はい、そうですね。昔はそれを巡って争っていたくらいですからね」

「あ~、やっぱり、魅力的なんだ」

「それはもう。昔は魔界を手中にすることが出来ると言われていたくらいですから」

「そう言われたら、確かに手にしたくなる奴が出てくるわな」

「まあ、先代魔王や貴方に比べたら……ちっぽけにしか見えませんがね」

『主が天空の翼を手に入れたら羽が生えるのでは?』

『裸に翼とは余計に変態度が増しますね。ですが、神々もそういった格好しますし、似合うかもしれませんね』

「(絶対に嫌だから!!!)」


 両翼合わせて六枚の翼が生えた裸のライが爆誕すれば、間違いなく奇跡の存在だろう。

 エルレシオン曰く、神々すら見惚れる肉体に天使の翼だ。奇跡の変態と呼んでもいいかもしれない。

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