第8話 羽翼族の長ミネルバ

 クーロンの案内の元、ライは羽翼族の長がいる場所へとやってきた。視線の先に見えるのは立派な屋敷ではなくお社。一風変わった建物にライが物珍しそうにキョロキョロと顔を動かしているとクーロンが先へ進んでいく。

 迷子になってもいけないとライは急いでクーロンの後を追いかける。ちなみにスカイはとても窮屈そうに大きな翼を畳んでおり不満そうにしていた。


「申し訳ありませんが、ここからはスカイ様にはお待ちして頂くことになるかと」

「まあ、俺の体じゃ入らないわな」


 流石に竜のスカイは外で待機である。申し訳なさそうにクーロンが頭を下げると、ライだけを連れて羽翼族の長がいる場所へと案内した。

 お社の最奥へと連れて来られたライは目の前にいる羽翼族の長を見て目を大きくする。彼の眼前にいるのはクーロンよりも一回り大きい女性であった。


 彼女の背中には立派な翼が六枚生えている。普通の羽翼族は片翼一枚であるのに長だけは片翼三枚の両翼合わせて六枚であった。

 ライは横にいるクーロンのへと目を向ける。彼には立派な翼が一枚だけ。恐らく長だけが特別なのだろうと理解した。


『主、わかっているか?』

「(なにが?)」

『相手の女性、四天王に匹敵するほどの魔力を持っていますよ』

「(え? マジか。全然気にしてなかった)」


 これが戦闘だったならライも気が付いていただろうが、生憎今は戦時でもなければ戦場でもない謁見の場である。仮に向こうが少しでも敵意を見せていれば話は違ったのだろうが、羽翼族の長にライと争うような意思はない。


「長、先代魔王ガイアラクスを下し、新たなる魔王として君臨することになったライ様です」

「初めまして、ライです。一応ガイアラクスは人間界で俺が討ち取りました」

「お初にお目にかかります、魔王ライ様。私は羽翼族の長をしております。名をミネルバと申します。以降、よろしくお願いしますね」


 ニコッと温和そうな笑みを浮かべているのだが、いかんせんライと身長差がありすぎて若干ホラー感がある。女性に対して失礼だがライは少し怯えていた。


「(食べられそう……)」


 もっとも、怖がっているのはライだけではない。ミネルバも同じ気持ちを抱いていた。得体の知れない魔力を持ち、史上最強と名高い先代魔王ガイアラクスを下した男が目の前にいるのだから。


「(ひ、ひえ~~~ッ! 怒らせたりしないようにしなきゃ……。多分、失礼な事とかしたら暴れるんだろうな……)」


 先代魔王ガイアラクスは比較的温厚であり紳士風な男であった為、ミネルバもそこまで警戒していなかった。対してライは未知の存在であるのでどのように接すればいいか分からない。

 何が地雷か分からないのでミネルバは慎重にライを見定めることにしたのだった。


「あ、あの~」

「はい、なんでしょうか?」


 おずおずとライが手を上げる。一瞬だけビクリと肩を震わせたミネルバは内心ビクビクしながらもライの問い掛けに返事をした。


「羽翼族の長って皆ミネルバさんみたいに大きいのですか……?」

「へ……?」


 おかしな質問ではないのだが、あまりにも予想外な質問にミネルバは呆気に取られてしまう。なにせ、新たな魔王だから自分に従わなければ一族郎党皆殺しだ、と言われるかと構えていたのだ。


「え、あ、そうですね。羽翼族の長は代々私のように両翼六枚に高身長です。とはいっても、実は私も長に任命される前はそこにいるクーロンと大して変わりませんでした」

「そうなんですか?」

「はい。ですが、長に任命されると羽翼族の秘宝である天空の翼という宝玉を授かるのです」

「……それって俺に教えてもよかったんですか?」

「新たな魔王様に隠し事は出来ませんよ。他にも聞きたいことがあれば、どうぞ仰ってください」

「それなら、一つ聞きたいんですけど人間界へ帰る方法は知らないですか?」

「人間界へですか? 残念ながら私は知りません。恐らくですが先代も知らないでしょう。ですが、もしかしたら知っている人物を知っているかもしれません」

「おお! でしたら、お会いして話すことは可能ですか?」

「はい。それくらいならお安い御用ですよ」

「おおッ! ありがとうございます!」

「(ふえ~~~ッ! いい人そうで良かったよ~)」


 ひとまずライは話の通じる人間だという事が分かっただけでも十分な収穫であるとミネルバは安心するのであった。


「それでは先代をお呼びしますので、それまでゆっくりくつろいでいてください」

「え? ここにいないのですか?」

「隠居されてますのでこの里にはいないんです。長である私と一部の者しか隠居先を知りません。ですから、私がお呼びしに行こうと思いますので、しばらくお待ちいただけたらと思います」

「あー、そうなんですね。わかりました」

「(よ、よかった。癇癪起こされるかと思っちゃった……)」


 説明を終えたミネルバはお社に勤めている侍女を呼び寄せてライをもてなすように指示を出した。

 それから、自分は先代を連れてくると言って席を離す。残されたライはクーロンと一緒にミネルバが呼んだ侍女の案内に従って客室へと向かった。


 そこでミネルバが帰ってくるまで侍女が用意したお茶菓子を口にしながらクーロンと談笑するのであった。




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