第7話 珍獣ライ

 無事に服を手に入れたライは服屋を後にする。しかし、同時に何をすればいいのか分からなくなってしまった。まずは衣服を手に入れることを優先して行動していたが、その服も今はこうして着ている。さて、次は何を目的にすればいいのだろうかとライは考えた。


 その結果、元の世界に帰る事を目標にした。そう言うわけでまずは元の世界へ帰るための情報集めだ。早速、ライは魔界に詳しいスカイとクーロンに人間界へ帰れる方法を尋ねた。


「なあ、二人とも。人間界にはどうやって帰るんだ?」

「んあ? お前、帰りたいのか?」

「そりゃそうだろう。俺は人間だからさ。魔界より人間界の方がいいに決まってるし、俺の帰りを待ってくれている人もいるんだ」

「家族がおられるのですね。でしたら、確かにお帰りになられた方がよろしいのでしょうが……」


 なぜか、言い難そうに顔を背けるクーロン。もしかして、人間界へ帰る方法はないのだろうかと不安が過ぎるライにスカイが答えを教えてくれた。


「魔界と人間界を隔てる次元の壁をぶち破ることが出来たなら帰れるぜ。まあ、先代魔王でも自然に空くまで待ってたくらいだから相当難しいがな! ガハハハハハハハハッ!」


 口を大きく広げて大笑いしているスカイとは対照的にライは絶望に顔を青くして下を向いていた。スカイの話が本当なら人間界へ帰れるのはいつになるか分からない。それは果たして明日なのか、それとも一年先なのか、もしくは百年先か。どちらにせよ、人間界に帰ることはとてつもなく険しいということだけは理解できた。


「そ、そこまで落ち込まないでください。魔界はとてつもなく広いですから、もしかしたら人間界へ戻れる方法を知ってる方がいるかもしれませんよ」

「え、ホント?」


 この世のお終いだと言わんばかりであったライにクーロンが一筋の光を与える。それが本当ならば、まだライには希望が残っている。僅かな光明であるが可能性があるのならばそれに賭けたい。


「まあ、クーロンの言う事は間違いじゃねえ。竜族も長生きだが、千年、二千年と生きてるような奴はいる」

『そうだな。確かに魔界は広い。彼の言うとおり、何かしらの知識を持った賢者はいるだろう』

『そう言う貴方は何か知らないのですか?』

『すまない。我も魔界から人間界へ行く方法は知らない』


 ふと気になることがあったライは二人へ尋ねてみた。


「(そういえば、どうして二人はあんな場所にいたんだ?)」

『言ってなかったか? 我等の元所有者があの場で殺しあったのだ。最後は相討ち、そして我等はあの場に何百年もの間、封印というよりかは祭られていたのだ』

『ちなみにあの台座は私達を思ってどこかの部族が作ってくれたものです』

「(へえ~……。もしかして、俺のご先祖様だったりするのかな)」

『どうでしょうか。あそこには人が住んでいなかったから元所有者達は争いましたから』


 特にこれと言った情報もなく、二人の過去についてもあまり興味はわかなかったライはとりあえず元の世界に帰る方法を模索する事に決めた。

 まずはスカイの言葉通り、魔界で何千年と生きているような長命種に会う事。そして、彼等から有益な情報を貰う事。この二つを目的に決めたのだった。


「というわけで、俺は人間界へ帰りたいので旅に出ます」

「まあ、大体分かったけど、結局お前は新しい魔王だってことを各地の種族に認めさせないといけないから旅に出るのはいいと思うぞ」

「我々、羽翼族はまだライを魔王とは認めてませんからまずは長に会うのがよろしいかと。あ、私は既にライの事は魔王と認めていますよ」

「なるほど。わかった。じゃあ、まずは羽翼族の長とやらに会いに行こう! どこにいるんだ?」

「ここにいますよ。長の下まで案内しましょう」

「クーロンがいてくれて助かったよ。ありがとう」

「いえいえ、大したことはしてませんから御礼は結構です。それに、偉大なる空の支配者である竜族のスカイ殿がいれば長もすぐに納得すると思いますよ」


 こいつはそんなに偉い奴だったのかと怪訝な目を向けるライにスカイは鼻を鳴らしてドヤ顔である。


「ふふん。俺に感謝しな」

「うるせー、この野郎ッ!」

「いてーッ! この野郎、よくも殴りやがったな!」


 キャンキャンと犬のように始まる喧嘩に蚊帳の外であるクーロンは溜息を吐いていた。仲がいいのは結構な事なのだが、ここで暴れるのは勘弁して欲しい。人目もあるのだから少しは恥じらいというものを持って欲しかった。


 二人の喧嘩も落ち着き、クーロンは長がいる場所へ二人を連れて行く。道中、裸の時よりも視線の数は減ったが注目されている事に気がついたライは妙にもどかしい気分になってくる。


「(なんだろ? 裸の時とはまた違う感情で見られてる気がする)」

『恐らく羽がないのが珍しいのではないでしょうか? それに羽翼族の方々も魔力を見ることが出来るようですからマスターの魔力に驚いているのでは?』

「(なるほど……。あんまりいい気分ではないな。珍獣扱いみたいで)」

『実際、珍獣であろう。彼等の中には人間を見たこともない者もいるだろうし、その上奇妙な魔力を持っているのだ。残念ながら珍獣という以外には相応しい言葉はない』

「(泣きそう……)」


 そう言われるとライも反論できない。なにせ、人間からしても羽翼族は別の生き物で天使と勘違いされていたのだから、反対に人間であるライを珍獣扱いにしてもおかしくはない話だった。

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