第5話 そ、そ、そのようなことは……
空の旅も終えてライは羽翼族の住まう浮遊都市へとやってきた。羽翼族の里と呼ばれているが、ライはその光景に大都市を彷彿とさせていた。
白亜の建物が並んでおり、大通りを多くの羽翼族が行きかっている。中央には噴水広場があり、観光地のようになっていた。
「アレが我等の里フリューゲルです」
クーロンが指を指して里の名前を教えてくれる。フリューゲルの入り口に三人は降り立った。
門番がいるのだが、当然ライの格好に訝しそうに顔を歪めている。しかし、一緒にいるのが青竜のスカイに羽翼族の戦士クーロンの二人。門番は一旦疑うのをやめて二人へと話しかけた。
「偉大なる空の支配者よ、そして同胞の戦士よ。本日はどのようなご用件であろうか?」
その質問にはクーロンが答える。彼はスカイとライの一歩前に出ると門番へ顔を向けた。
「此度はこちらの新たなる魔王ライ様が衣服をご所望ということでこちらに参った」
「新たなる魔王ライ様? すまないが我々は知らぬ。詳しく説明してくれまいか?」
そう言われたのでクーロンは先程スカイに訊いていた先代魔王ガイアラクスが人間界で敗れたことを教えた。
「なんと……! では、本当に新たな魔王だというのですか?」
「如何にも」
「(何故、裸なのだろうか? そこは説明が無かったから不明なのだが……服を求めているというから変態ではないか……? まあ、いいか。同胞の戦士がいるから問題はないだろう)」
どうして裸なのだろうかと疑問を浮かべる門番だが何の説明もなかったので深くは考えないことにした。羽翼族の戦士であるクーロンが傍にいるから特に問題はないと判断して三人を中へ通すのであった。
「おお! 上から見てたけど凄い綺麗だな!」
「う~ん、俺には狭いけどな」
「お前は図体がデカいんだよ! 小さくなれッ!」
「魔法使えばいけるが嫌だ。俺のプライドが許さん!」
「ガイアラクスは人間みたいな形態にもなれてたぞ!」
「アイツは特殊なの! 竜人族は普通竜になれない劣等種って言われてるんだぞ? なのに、ガイアラクスだけはなんか竜になれるし、そんで先代の竜王にも勝っちゃうし……」
「そう言えば聞いてなかったけど、先代竜王は強かったのか?」
「ああ。凄い強かったよ。てか、先代竜王が魔界の頂点だったし」
「マジか。でも、ガイアラクスは勝ったんだろ?」
「そうだ。だから、アイツは魔界を統べた王、魔王へと至ったんだ」
「まあ、今は不本意ながら俺が魔王だけどな……」
「俺ら竜族以外はまだ認めてないだろうけどな!」
「うぐぅ……」
横で二人の会話を聞いているクーロンはそのような事よりもライに前を隠してほしかった。
どうして、大勢の人が行き交う大通りでさえも全く隠そうとしないのか理解できない。本当にこの男は服が欲しいのだろうかと疑問すら思い浮かぶクーロンは凛々しい眉がへの字に曲がっていた。
悲しいがライにはもう羞恥心が残ってない。恥ずかしいからといって両手を前に置いて隠すよりも、手を自由に使える方が戦いやすいと考えているような男だ。もう思考が完全に
「ところでさ、クーロンさん……?」
「なんで疑問形なんだよ。普通に呼び捨てでいいんじゃないか?」
「いや、礼儀は必要だろ」
「じゃあ、なんで俺にはないんだ! 明らかに俺の方が年上だぞ!」
「お前はまあ、そういう扱いでもいいかなって本能が言ってる」
「くそぅ、反論したいところだがお前の方が強いんだよな……」
「で、クーロンさん」
「あ、自分も呼び捨てで構いませんよ。それで、なんでしょうか?」
「あ、そう? じゃあ、クーロンって呼ぶけど、服屋はどこにあるの?」
「これからご案内しますよ。それよりも自分も質問いいですか?」
「うん、いいよ。なに?」
「どうして前を隠そうとしないのですか?」
ピシリと固まるライ。そして突然笑い出したスカイ。自分は何かおかしなことを言ったのだろうかと慌てふためくクーロン。まさに混沌とした空気が流れた。
「あ、いや、これには深い
「ハハハハハハハ! 嘘つけ! それならどうして前を隠そうとしないんだよ! その無駄に立派なイチモツをぶらぶらさせてよぉ!」
「まあ、確かに立派ですね……」
大笑いするスカイと目を逸らすクーロン。二人の言葉にライは久しぶりに恥ずかしくなった。
「ぐ、く、こ、これは……仕方ないだろう! もう慣れちまったんだよ! でも、決して人に見てほしいとかそういうんじゃないんだ!」
「そのような姿で言われても説得力が皆無ですよ……」
必死に弁明するライなのだが指摘されても尚、前を隠そうとしない姿にクーロンは呆れたように息を吐いていた。
「ぬぅおおおお……」
違う、違うんだとライは頭を抱えているが、それよりもまず前を隠すべきであろう。何せ、三人がいる場所は大勢の羽翼族が行き交う大通りである。当然、注目されていた。
それもそのはず。なにせ、青竜のスカイ、羽翼族の戦士であるクーロン、そして極めつけは全裸の変態だ。注目されない方がどうかしている。三人を見ている女性は顔を赤らめ、男性は顔を顰めていた。
「おい、さっさと服を買いに行こうぜ。あと、前を隠せよ」
「隠している時に襲われたらどうするんだ!」
「いや、お前なら大抵の敵なら足だけでも対処出来るだろ」
「…………まあ、うん」
「お前まさか…………そこまで考えてないバカだったのか?」
「ハハハハ、流石にそのような事はないでしょう。ねえ?」
それはないだろうと笑っているクーロンがライの方へ顔を向けると、そこには青い顔してダラダラと汗をかいているライの姿があった。
それを見たクーロンは大きく目を開いて戦慄した。
まさか、そのようなアホだったとは思わなかったのだ。
仮にも竜族に認められた新しい魔王だ。少なくとも知能はあるだろうと思っていたが、よもやそのような簡単なことも考えられないとは誰が予想出来よう。クーロンはライの認識を改めた。
間抜けな魔裸王と。
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