第4話 奴はただの魔王ではない。裸族の王、魔裸王だ

 矛を収めてくれた羽翼族の戦士達にライは感謝するのだが、いかんせん相手は彼が動くたびにビックリしている。それも仕方がない。いくら青竜のスカイがいるとはいえ、正体不明の変態だ。警戒を緩めるはずがなかった。


「(悲しいな……)」

『まあ、服を着てまともな格好をすれば彼らも認めてくれるかもしれん』

『見た目は大事ですからね。全裸では警戒されるのも当然です』


 全裸に慣れすぎたせいでライは隠そうとしていないのも一つの要因でもある。男は顔を顰めて、女は顔を赤くしている。どこをどう見てそうなっているかは反応を見れば一目瞭然であろう。


「して、偉大なる空の支配者よ。本日はどのようなご用件でこちらに来られたのでしょうか?」

「それはこの方に衣服をと思ってな。お前達は衣装作りに拘っているだろう? だから、ライも気に入ると思って連れてきたのだ」

「なるほど。そういうことでしたか……」


 スカイに話しかけている羽翼族の戦士がチラリとライを一瞥する。確かに彼には服が必要そうだと内心苦笑いであった。


「わかりました。そう言うことであれば問題はありません。ですが、恐らくこのまま里に向かわれますと、同じことが起きてしまいます。なので、私達の中から一人同行させますので、よろしいでしょうか?」

「ああ、構わない。出来ればライと同年代の若者だと好ましい」

「畏まりました。しばし、お待ちを」


 気が効くスカイに感心であるが、同時に羽翼族の戦士には同情したい。付き人に選ばれた戦士は全裸の変態の相手をしないといけないのだ。下手な拷問の方がマシかもしれない。ついでに言うなら無駄に神々しい肉体をしているので尚更キツイ。


 ライとスカイが待っている時、羽翼族の若い戦士達は誰がついていくかを口論していた。


「おい、誰がいくんだよ。俺は嫌だからな!」

「私だって嫌よ!」

「俺も嫌だ! なんだよ、あの変態! どうして下を隠そうとしないんだ」

「仁王立ちしてるの笑えるんですけど!」

「無駄に立派な肉体してるからどうしても目が行くんだよな~」

「あそこ、凄いよね」

「うんうん。それは同意見」


 まだ決まらないのかと待っているライと耳の良いスカイは羽翼族の戦士達の会話を聞いて必死に笑いを堪えている。プルプルと震えているスカイにライは首を傾げるが、特に気にすることなく話し合いが終わるまで静かに待っているのだった。


 しばらく経って、ようやく決まったようでスカイと話していた羽翼族の戦士がなんだか悲しそうに俯いている若い男の戦士を連れてきた。

 それを見たライは大丈夫なのだろうかと思い、声を掛けようとしたが、それよりも先に戦士が口を開いた。


「お待たせしました。こちらのクーロンが里までご一緒します」

「クーロンです……。よろしくお願いします…………」


 なんともまあ、分かりやすい羽翼族である。明らかに落ち込んでいる。どうやら、ライと一緒に行くのが嫌なのだろう。別に取って食ったりしないのだから、そこまで落ち込むことはない。精々、無駄に整った筋肉をしている変態と一緒に行動するだけだ。


「(大丈夫か、アイツ?)」

『大丈夫であろう』

『大丈夫ですよ』

「(本当か? 結構嫌そうじゃね?)」


 目の前で堂々と溜息をしている姿はある意味大物である。これならば、過酷かどうかは分からないがライについて来れるだろう。


 こうして新たな仲間というか一時的なものだが付き人という形で羽翼族の戦士クーロンが加わった。

 関所を抜けてライは羽翼族の里へと向かう。スカイの背中に乗り、その横にクーロンが平行して飛んでいる。その光景を見ているライは、翼があるのは羨ましいと感じていた。


「(やっぱり、翼があると便利そうだよな~)」

『マスターには必要ないでしょう。障壁を足場にすればこの中で誰よりも早く空を駆け回れるのですから』

「(それはとこれとは別だろう~。自分の羽で飛べるってのはまた別の楽しみがありそうなんだよな)」

『真っ裸に翼が生えた姿は流石にキツイぞ』

「(ちゃんと服着るわい! 何で裸で空飛ぶ前提なんじゃ!)」


 ライがエルとブラドの三人で脳内漫才をしている時、スカイの横を飛んでいたクーロンが出来るだけ小さな声でスカイに話しかけた。


「あの……魔王様はどうして裸なんですか?」

「いや、知らん。俺が会ったときには既に裸だった。多分、そういう性癖なんだと思う」

「ゴブリンでさえ腰巻をしているというのに……」

「あと一つ訂正しておけ。魔王様じゃない。魔裸王様だ!」


 そこだけは譲れないとばかりに語気を強めるスカイにクーロンは驚いた。なるほど、確かにスカイの言うとおりだろう。魔王であるが裸族でもあるライ。彼はただの魔王ではない。真っ裸の魔王。略して魔裸王というのは中々に的を射ているとクーロンは納得するのであった。


 対してスカイはライの異名が魔裸王で定着するのを期待している。こうやって旅先で口にしていれば、いつか魔界全土に魔裸王の名前は広がるだろう。発案者が自分だというのが最高に面白い。しめしめと内心笑っているスカイはこれからの旅が面白可笑しくなりそうだと予感するのだった。

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