第2話 ちょり~っす!

 話が通じそうで通じない竜に苛立ちを覚えるライはどうしてくれようかと考えていた。先程、言葉にした通り、馬車馬の如く働かせてやろうかと聖剣と魔剣を握り締めるが、目の前にいるのは一匹だけではない。他にも沢山いるのだ。

 恐らく戦闘になれば間違いなく襲ってくるだろう。そうなると少々面倒である。負けることはないが時間が掛かるのは確かだ。ライは無限に戦うことが出来るが、それでも竜をいっぺんに何十、何百と相手には出来ない。


「ちッ……。とりあえず、俺が魔王になったらまずは反対勢力を黙らさなきゃいけないんだな?」

「そうだ。認めさせないといけない」

「もしも、断ったらどうなるか分かるか?」

「まずはそうだな……。我等竜族は先代魔王の命に従って人間界へ攻め込むだろう。そこで魔王が不在であれば魔界へと戻るが、恐らく人間達は我等を攻撃してくるに違いない」

「まあ、そこは否定できん」

「であれば、勿論殲滅よ。敵対者に慈悲は無い」

「俺がさせると思うか?」

「一人でこの数を抑えれるのか?」

「…………」


 もう逃げ道はないのかもしれない。ライは魔王になるしかない。むしろ、魔王にならなければ目の前の竜達は先代の魔王ガイアラクスの命に従って人間界へ攻め込んでしまう。それだけは絶対に阻止しなければならない。


「わかった。なら、魔王になる」

「おお、そうか。理解してくれて助かる。では、我等は里に戻る」


 なし崩し的に魔王となったライを置いて竜族は背中を向ける。さっさと帰ろうとする竜をライは尻尾を掴んで止めた。


「待てよ、コラ! まず、アレをどうにかしろ!」

「次元の穴か?」

「そうだよ! アレがある限り、ずっとここで番をしなきゃいきないだろ!」

「ふむ。わかった。ならば、次元の穴の塞ぎ方を教えよう。アレはすでに固定されているがガイアラクスの魔力によるものだ。膨大な魔力で固定されているが、それを上回る一撃を与えればいい。そうすれば破壊できるぞ」

「じゃあ、お前ら全員でやって」

「断る。我等はアレがあろうと無かろうと興味が無い」

「魔王命令だろうがッ!!!」

「言ったはずだが? 我等は敵対されないか、よほどの理由がなければ命令を聞かないと」

「なら、なんでガイアラクスに言われて人間界を攻めようとしたんだよ! そこ詳しく教えろよ!」

「人間界の一部をくれると言われてな。新しい住処が出来るというのなら手伝おうと思ったのだ」

「くそッ!!! 案外、マシな話じゃねえか!」


 領地をくれるというのなら、重い腰を上げるのは人間でもよくある話だ。


「しかしだ。その約束もなくなった為、我等が動く道理はない」

「つまり、この穴を塞ぐ協力は自分達に利がないからしないってことか?」

「そう捉える事も出来るが、我等からすればどうでもいいことだ」

「ぐ……」


 そう言われると何も言い返せない。ライが提示できるものは何もないのだ。流石に勝手に人間界の領地を上げるなどいえないだろう。それこそ、ライは本当に魔王となってしまう。


「はあ……。もういい。俺一人でやる。後、俺は魔界に詳しくないから誰か一人残せ」

「わかった。お前は若いから同じように若者を残そう。おい、スカイを呼べ」


 しばらくすると青空のような鱗を持ち、鮮血のような眼をしている竜がライの前に連れてこられた。


「こいつ?」

「うむ。青竜ブルードラゴンで名をスカイという」

「ちっす! 人間! いや、魔王様か! いや……魔裸王まっぱおう?」

「誰が魔裸王だ!」

「え? だって、どっからどうみても裸だぜ? むしろ、さっきから恥ずかしくないのか? 人間てのは服を着ているもんだろう? それなのに、裸ってことはそういう人間なのかなって」

「普通の一般人だよ!」

『普通の……?』

『一般人……?』

「普通の人間は服着るだろ」

「くそ! 正論言いやがって!」

「まあまあ、そう怒るなって。それにしても確かに奇妙な魔力してるな~。しかも、質も量も俺より何倍も上だし。人間は皆そうなのか?」

「そうだよ」

『しれっと嘘をつくな』

『マスターが人外なだけで他の方々は普通ですよ』

「(ねえ、ナチュラルに人を傷つけるのは良くないよ? 身体の傷と違って心の傷は治せないんだからね?)」


 スカイとライが話し込んでいると、いつの間にか竜族がみんないなくなっていた。まさか、何も言わずに帰るとは思わなかったライは驚きを通り越して呆れ果てていた。そして、ついでに言うと巨人族も帰っていた。ライは遠目に巨人族が歩いているのを見て肩を落とす。


「疲れた……」

「ハハハ。大変だな。魔裸王さまは!」

「魔裸王で固定するな! せめて、ライって名前で呼んでくれ!」

「ういうい。ライだな。よろしく~」

「くッ……。とりあえず、次元の穴を破壊する。後、服とか売ってる場所あったら教えてくれ」

「おっけ~」


 なんともまあ軽薄そうな竜が仲間になったものだ。しかし、魔界についての知識を持っている者が近くにいるのはありがたいことである。

 そう思いつつ、ライは魔剣と聖剣に魔力を込めて次元の穴を破壊したのだった。


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