AfterStory
エピソード1 おかえりなさい、ライ
いきなりぶっ飛ばされたライは、混乱しながらも立ち上がり、兜が外れていた事を知って、殴られたことなど忘れて喜んだ。
「おお! 兜が取れたッ!」
『主……』
『マスター……』
「へ……?」
何故、二人は呆れているのだろうかとライが首を傾げると、ようやく思い出したのか声を上げる。
「あッ……! 二人とも、ただいま。遅くなったけど……アレ? 二人とも太った?」
なんとまさかの同じ過ちを繰り返すライ。しかも、本人は一切覚えていないのか部屋の空気が凍ったことに戸惑っている。もしかして、自分は何か間違えたのだろうかと。
『まさか、殴られたせいで記憶が?』
『だとしても、これは酷いですよ』
もう誰も彼は救えない。完全にやらかしてしまったライはただ死を待つだけとなってしまった。幽鬼のようにユラリと動くアリサとシエル。確かに彼を愛しているが、これはキツイお仕置きが必要だと、その拳を固く握り締める。
『主! 魔眼を解放してよく見るんだ!』
「え?」
どうして、そこまで焦っているのだろうかと困惑するライだが、ブラドの言うとおりにして魔界で開眼させた魔眼を開いた。
すると、彼の目が移したのは二人のお腹に宿る新たな命。僅かな魔力を帯びており、妊娠している事をライはようやく知ったのだ。
「(あ、あわわわわわ……ッ!!!)」
二人の様子がおかしい原因を知ったライは冷や汗を流す。助けを求めようとしたが、そもそもの原因はライにある。彼はその事を自覚して腹を括った。
二人の前に行くと、勢い良く土下座をする。勘違いとはいえ、最低の事を言ってしまったライは弁明することなく、自身の非を認めて素直に謝った。
「ごめんなさいッ! 俺が悪かったです!!!」
「…………」
「許してとは言いません。でも……お腹の子には挨拶させて欲しいです……」
誰の子なのか理解している。彼女達は初めてだったのだ。それから、毎日致していたのだから当然、お腹に宿っているのは自分の子だとライは分かりきっていた。
だから、せめてお腹の子に挨拶くらいはと懇願する。殴られるのも蹴られるのも承知の上だ。それだけ自分はひどいことを言ってしまったのだから。
「はあ……。全く、困ったお父さんね」
「ホントです。認知されないのかと思いましたよ」
「え、あの、許していただけるので?」
「今回だけは特別よ」
「次はありませんからね」
「おお、おおッ!」
「でも、この握った拳は止められないわ」
「歯を食い縛ってください」
「おおおおお~~~……」
神はいなかった。
真っ赤な紅葉ではなく、真っ青に膨れ上がった顔をしてソファに座っているライの両隣にニコニコと満面の笑みを浮かべているシエルとアリサ。その三人の前に座っているのは苦笑いをしているダリオスと爆笑しているヴィクトリアだ。
「さて、感動の再会も終わった事だし」
「アレのどこが感動の再会だというんですか? もし、そうだと言うのならダリオスさんは一度教会に行って眼を治してもらうべきです」
どこをどう見て感動の再会だというのかとライが憤慨すると両隣に座っていた二人に太腿を抓られる。肉が引きちぎれるのではないかと錯覚するほどの痛みだがライは必死に耐えた。
「アッハッハッハッハ! まあ、確かに本人からしたら感動じゃないかもな。でも、お前が悪いんだから仕方がないだろ?」
「くそ。泣き虫のくせに正論言いやがって」
「テ、テメエッ! 昔の話を出してんじゃねえよ! てか、そんなに口悪かったのか!」
「まあ、ここ数年色々とありましたからね……」
そう言って、遠くを見詰めるライは確かに普通の一般人よりは刺激的な日々を送っているせいか、どこか貫禄があった。
「そうそう。それ! あの日、魔界へ行ったんでしょ? 今まで何してたの?」
「私も気になります! 戦争後に魔王城へ行ったら次元の穴はどこにも見当たりませんでしたし。この半年間魔界で何をしてたんですか?」
「う~ん。まあ、長くなるからお茶とお菓子もらえない?」
「ああ、わかった。すぐに用意させよう」
これから語るのは魔界での物語。それは伝説になったかもしれなければ、黒歴史になったかもしれない物語。
ライは用意されたお茶とお菓子を口にしながら、魔界で過ごした半年の日々を語っていくのであった。
****
あとがき
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