第149話 さらば、ライ。また会う日まで!

 ライが放った極大の閃光は雲を散らし、半壊した魔王城に温かい太陽の光が舞い込んだ。全ての力を出し切ったライはようやく終わったのだと安堵して、その場に腰を下ろすのだった。


「はあ~……」


 長いようで短かった戦いが幕を下ろした。ライは復讐を終え、新しい一歩が踏み出せる。これから始まる新しい生活をライが妄想していると、アリサとシエルの二人が彼に飛びついた。


「ライッ!」

「ライさんッ!」

「うおっと……」

「やったわね!」

「やりましたね!」

「うん。やっと終わったよ」


 抱きついてきた二人の頭を撫でるライ。やっと終わったのだと優しく、そして嬉しそうに。

 その後、ライは倒れているダリオスの元へ向かい、魔剣の能力を使ってダリオスの怪我を治した。


「助かった、ライ。ありがとう」

「いえ、無事でよかったです」


 立ち上がったダリオスはライにお礼を言うとヴィクトリアの方へと顔を向ける。


「怪我はないな?」

「ダ、ダリオス様~~~ッ!」


 想い人であるダリオスが自分を庇って死んでしまうと思っていたヴィクトリアは泣きながらダリオスに抱き着いた。自分の所為でダリオスが死んでいたらヴィクトリアは間違いなく後を追いかけていただろう。それだけは確かだ。


「おお、どうした? どこか痛いのか?」

「うう……うぇぇええええんッ!」

「おお!? よしよし、俺はもう大丈夫だ。だから、そう泣くな」


 全部終わり、誰一人として犠牲者を出さなかった。これで戦争は人類の勝利で幕を閉じたのだ。めでたし、めでたし。誰もがそう思っていた時、空から何かが降ってくる。ドカンッと音が響いて、何事かと勇者達がそちらに目を向けた。

 すると、そこには魔王ガイアラクスが落ちてきていた。まだ終わってなかったかとライが聖剣と魔剣を召喚するがガイアラクスはピクリとも動かない。どうやら死んでいるようだ。


 念のためにライは聖剣と魔剣を手にしたままガイアラクスの元へと向かう。


「死んでるのか……?」

「いいや、まだだ」

「ッ!」


 後ろへ飛び跳ねて距離を取るライ。聖剣と魔剣を構えていつでも反撃できるように準備をしていたが、一向にガイアラクスは立ち上がらない。

 どういうことかとライは首を傾げて、もう一度ガイアラクスの元まで近づいた。


「生きてるのか?」

「直に死ぬだろう。だが、最後にどうしてもお前と話がしたくてな」

「俺はしたくないが」

「ふっ……。まあ、黙って聞け」


 本当に死ぬのだろうかと怪しんだライはブラドとエルレシオンに尋ねてみた。


「(なあ、こいつ本当に死ぬのか?)」

『嘘ではないと思うぞ? 魔力も感じられん……む?』

『確かに彼から魔力も感じませんが……これは?』

「(どうした? 何かあったのか?)」


 何やらブラドとエルレシオンが気になるかのような発言をする。それが気になるライは眉間に皺を寄せると、ガイアラクスが笑い出した。


「フハハハハハハッ……。どうやら、その顔を見るに気が付いたようだな」

「なに?」

「私が何故長い年月をかけて戦争をしていたか分かるか? 答えは一つ。魔界と人間界を完全に繋ぐためだ」

「なんだとッ!?」

「元々、魔界と人間界は数百年の周期で次元に穴が開き、繋がっていた。その際に歴代の魔王が次元の穴を通り、人間界へ戦争を仕掛けていたのだ。もっとも、私を含めて敗北したがな」


 哀愁漂う笑みを浮かべるガイアラクス。歴代の魔王とは同じ轍を踏まないと準備をしていたが、結局同じ結末になってしまった。それが残念で仕方がない。しかも、それがたった一人の人間によるものだから余計にだ。


「しかし、だ。私は歴代の魔王と違い、確実に人間界を手中に収めるべく、時間をかけた。そのおかげで試合には負けたが勝負には勝った」

「どういうことだ!」

「簡単な事よ。魔界と人間界を繋ぐゲートを拡張し、安定させ、完全に固定したのだ! 来るぞ! これより、魔界の大軍勢が! 今までの比ではない! 巨人族、竜族といった強力無比な種族が何万、何十万、何百万とな!!!」

『この魔力量は!?』

『いけない! マスター! 彼の言う通り、大量の魔力反応を感知しました!』

「て、テメエッ!!!」

「フハハハハハハ!!! さあ、どうする。ライ! もうすぐ、こちらにやってくるぞ! 絶望が! ハーッハッハッハッハッハッハ――」


 最期に勝ち誇ったガイアラクスは高笑いを上げて消えていった。完全に消滅したガイアラクスだが、まさに勝ち逃げと言っていいだろう。

 ガイアラクスの話を聞いたライは一度勇者達の元へと戻る。彼等も話を聞いていたのだろう。その表情は酷く悔しそうに歪んでいた。


 時間は残されていない。しかも、ライ以外は闘気を使い果たし、戦えるような状態ではない。魔王こそ倒したが、これから来るのは数え切れないくらいの大群。もはや、人類に勝ち目はない。誰もが下を向き、諦めていた時、ライは顔を上げて覚悟を決めた。


「…………俺が行く」

「えッ!? ダ、ダメよ! 絶対にダメ!」

「だ、ダメです! いくらなんでも今回ばかりは無理です!」

「だけど、ここで逃げたらこの世界は終わりだ」

「そうだとしてもダメよ! ねえ、ライ! 考え直して!」

「逃げましょう! 私達なら魔物が蔓延る世界になっても大丈夫ですよ!」

「そうだな……。二人の言う通りかもしれない……。でも、決めたんだんだ。逃げないって。俺は二人と出会ったこの世界が好きだ。それに、まだ見てない景色も食べたこともない料理もたくさんある。それが全部なくなるなんて嫌だ。二人と一緒に沢山思い出を作りたいんだよ。だから、魔王の思い通りにはさせない」

「そ、そんなこと言われたら……止められないじゃない。バカァ……」

「どうして、どうしてそう貴方は……うぅ……」


 そのようなことを言われたら止められないと二人は涙を流してライにしがみつく。もしかしたら、これが今生の別れになるかもしれない。

 しかし、二人は信じている。絶対にライが帰ってくることを。ならば、自分達の役目は決まっている。ライの背中を押すことだ。


「待ってる。待ってるから。絶対に帰ってきなさいよね」

「信じてます。貴方が戻ってくることを」

「うん。絶対、帰るよ。二人の元に」


 感動的な場面なのだが、いかんせんライが裸だという事を忘れてはいけない。


「(本来なら感動するところなのだが……ライが裸なのがな)」

「(どうして裸なの突っ込まないんだ?)」

「(フルチンなの気にしないんだな……)」

「(ライ、お前すげーよ。裸なの一切気にしてないの。同じ男として、幼馴染として尊敬するぜ!)」


 ダリオス、クロイス、ヴィクトリア、アルの四人はそれぞれの思いを語っていた。まあ、アル以外は裸のライに物申しているが。


 もう時間がないのか、魔王城が揺れ始めると崩れ始めた。散々、ライが暴れたのもあるが、魔王が死に、魔界から大量の魔族が侵攻しているからだろう。このまま留まっていると瓦礫に埋もれて死んでしまう。早く逃げなければならない。


 しかし、ライ以外はまともに走れない。まさかの事態にどうしようかと困り果てていた時、颯爽と救世主が現れた。


「シュナイダーッ!? どうして、ここに?」


 現れたのは勇者の人数分の馬を引き連れたシュナイダーだ。これには全員が驚き、目を丸くしていた。


「お前……くく、そうか。やっぱり、最高の相棒だよ。シュナイダー! みんなをよろしく頼む」


「任せておけ!」と言わんばかりにシュナイダーが一際大きく鳴いた。ライは一人魔力の反応を感じる最奥を目指して走る。その時、一度だけ振り返ると片手を上げて最後のお別れを言う。


「またな、みんなッ!」


 その言葉を最後にライは一人、魔王城の最奥を目指して走り去っていく。ライが見えなくなるまでシエルとアリサはずっと見ていた。どんどん崩壊を始める魔王城にダリオスが慌てて二人を呼ぶ。


「二人とも! このままでは瓦礫の下敷きになってしまう! 早くこの場を離れるんだ!!!」


 ライを見送った二人はシュナイダーに跨り、崩壊していく魔王城から逃げ出すのであった。


 そして、一人魔王城の最奥に来ていたライは人間界と魔界を繋ぐゲートの前に立っていた。そこから感じる大量の魔力にライは目を瞑り、ここまでの事を振り返った。


「(ああ……。今まで本当に色々とあった)」

『うむ。懐かしいな』

『はい。本当に』

「(そうとも。この世界を、いいや、俺が辿ってきたこの道を決して壊させはしない!!!)」


 必ず帰れる保証などない。もしかしたら、死ぬかもしれない。下手をしたら一生出て来れないかもしえない。だが、それでもライは戦うことを決めたのだ。

 復讐を誓い、愛を知り、真っすぐに駆け抜けてきたライは未来を守るために、今一度走り出したのだった。


「行くぞッ! うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

『主の剣となり、未来を切り開こう!』

『遍くすべてを切り伏せましょう!』

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