第148話 聖魔封滅刃

 まさか、連合軍の兵士が前線に出てきているとは思わなかったライは、先程の光景に驚いたが同時に嬉しくなる。自分だけではない。みんなが未来を明日を取り戻そうと必死に戦っているのだ。それを知ったライは負けてられないとガイアラクスへ向かって剣を振り下ろした。


「(不味い! 非常に不味い!!! 魔界から魔力を供給している魔法陣が破壊されればこの均衡は崩れる! 間違いなく私は負ける! それだけは……それだけは絶対に合ってはならない! ライをなんとかして勇者達を先に仕留めねば! しかし、今の私とライはほぼ互角。そう簡単にはいかない。どうすればいい!)」


 焦るガイアラクスだがそう簡単には崩されない。とはいえだ、この均衡はガイアラクスが魔界から魔力を供給しているから成り立っているので、それが無くなれば忽ち崩れるだろう。

 周囲から魔力や闘気を吸収し、尚且つ敵からも魔力を奪う事のできるライ。それに対してガイアラクスは自前の魔力で戦わないといけないのだ。どちらが先に力尽きるかなど火を見るより明らかだろう。


「ハハハハッ! どうした! 明らかに焦っているのが分かるぞ!」

「そう見えるだけで、私は至って冷静だ!」

「惚けるのも程ほどにしとけ! さっき動揺してたくせによぉ!」


 事実だっただけにガイアラクスも言葉に詰まってしまう。実際、今もライを引き離せず、内心では焦っていた。

 魔王城に仕掛けてある魔法陣が破壊されてしまえば、自分は終わりだと理解しているガイアラクスは必死に脳を回転させる。とにかく、ライを一瞬でも引き離せればいいのだとガイアラクスは魔法を発動させた。


「嵐よ! 吹き荒れろ!!!」

「なんだとッ!?」


 竜巻に暗雲と稲光。そして、豪雨がライを襲った。ガイアラクスは嵐に飲みこまれたライを見て、今がチャンスだと魔王城へ一直線に戻る。


「くそ! 悪あがきをッ!!!」


 竜巻を切り裂き、暗雲を吹き飛ばしたライは魔王城へと向かっているガイアラクスの後を追いかけた。


 その頃、魔王城で魔法陣を探していた勇者達は魔法陣を見つけていた。しかし、魔法陣には結界が張られており、そう簡単には壊せないようになっている。

 しかも、運の悪い事にダリオスを始めとした主力のアリサ、シエルの二人は闘気を使い果たしており、残っているのはクロイス、アル、ヴィクトリアの三人だけだった。


「悪い。俺も闘気はほとんど残ってねえ……」


 クロイスは先程ライを助ける際に全ての闘気を放出したことを報告する。これで、アルとヴィクトリアの二人だけとなった。


「オラァッ!!!」


 渾身の力で殴りつけるヴィクトリアだったが結界はビクともせず、ヒビ一つ入らない。これは自分には無理だと判断したヴィクトリアは後ろに控えていたアルの方へと顔を向けた。


「ちッ。アタシじゃ無理っぽいな。アル、あんただけが頼りだ」

「わかりました。俺の全闘気を込めます!!!」


 結界の破壊を諦めたヴィクトリアはアルに後を任せると、彼の肩を叩いてダリオス達の立っている場所へと下がっていく。ヴィトリアに代わり結界の前に立つアルは雷槍ライトニングを構えると全闘気を込める。


「はああああああああああッ!!!」


 バチバチと雷が迸り、雷槍ライトニングは光り輝く。そして、アルが勢い良く叫んだ。


「貫けッ! ライトニングーッ!!!」


 駆け抜ける閃光。アルの全てが詰まった一撃が放たれる。

 結界とぶつかるライトニングは火花を散らし、結界を貫かんと突き進んで行く。


「負けて……たまるかぁーッ!!!!」


 魂からの咆哮を上げたアル。彼が負けられない相手は魔王もそうだが、いつの間にか随分と遠くへ行ってしまった幼馴染の事だろう。たった一人で魔王と戦っている幼馴染にアルは少しでも追いつきたいと願う。そして、少しでも力になりたいと歯を食い縛る。


 その願いが通じたのか、魔法陣を守っていた結界が音を立てて砕け散った。そのままアルが魔法陣を破壊しようと突っ込んだ。

 そこへガイアラクスが城壁を突き破って現れる。アルが魔法陣を破壊しようとするのを見て止めに入るが、時同じく城壁を突き破ってライが現れた。


「止めろーッ!!!」

「邪魔をさせるかーッ!!!」


 ライが間に割り込んでガイアラクスの攻撃を受け止めた。そのおかげでアルは魔法陣を破壊する事に成功する。魔法陣が破壊されたのを見てガイアラクスは言葉を失った。

 均衡が崩れる。無限に等しい魔力を秘めていたガイアラクスはもういない。今、ここにいるのはただの魔王ガイアラクスだ。


「最後の勝負だ。ガイアラクスウウウウウウウッ!!!」

「貴様ら全員あの世に送ってやるッ! 死ね、ライッ!」


 正真正銘最後の勝負が幕を開けた。

 お互いに憎悪を向けて、激しくぶつかり合う。故郷を両親を奪った元凶の魔王。全ての計画を台無しにした男。二人は互いの全てを曝け出す。


「お前さえ、お前さえいなければーッ!!!」


 二人がぶつかるだけで大気が震えて地が揺れる。尋常ではない衝撃波が周囲を吹き飛ばし、魔王城も形を保てなくなる。ここにいては危険だと勇者達が避難する。しかし、誰一人逃さないとガイアラクスが魔法を放った。


「させるかーーーッ!!!」


 勇者達に向かって飛んで行く魔法をライは障壁を張って防いだ。とはいえ、流石に数が多すぎるのと威力が桁違いな為、障壁は何度も破壊される。その度に新しいのを張るが守り切れそうもない。


「ぐぅ……ッ!」

「ハハハハハッ! 足手纏いがいると辛そうだな、ライッ!!!」

「ああ、本当にそう思うよ、アタシも!」

「なにッ!?」

「アタシの全て喰らいやがれッ!!!」


 いつの間にか、ガイアラクスの頭上にいたヴィクトリアが残っていた最後の力を振り絞ってガイアラクスの目を打ち抜いた。


「ぐわああああああああッ!!!」


 絶叫を上げるガイアラクスは我武者羅に魔法を放つ。ガイアラクスの目を打ち抜いたヴィクトリアが落下していく中、落ちていく彼女に魔法が向かった。


 助けに向かいたいライだが、ガイアラクスが四方八方に魔法を放っているせいで障壁を解除して助けに向かうことが出来ない。このままではヴィクトリアが死んでしまうかと思われた時、ダリオスが障壁の外へ飛び出してヴィクトリアを庇うように魔法を背中に受けるのだった。


「ダ、ダリオス様! ど、どうしてッ!」

「皆で帰るのだ。誰一人欠けることは許さん」


 空中でヴィクトリアを抱擁するダリオスは重傷を負ってしまった。無事に着地することは出来たが、ガイアラクスの魔法を受けてしまったダリオスは倒れてしまう。


「おのれ……ッ!!! 許さんぞ、虫けら共ッ!!!」


 目を奪われて激昂しているガイアラクスの目は血走っていた。そして、大きく口を広げて魔力を収束させていく。残っている全ての魔力を口に集めるガイアラクスを見てブラドとエルレシオンが慌てふためく。


『主! アレは不味いぞッ! 絶対に撃たせてはならん!』

『特大の竜の息吹ドラゴンブレスです! ここら一帯消し飛んでしまいますよ!』

「自棄になりやがったか!」


 ライを殺せるかどうかは分からないがガイアラクスは全てを消し去るつもりだった。せめてもの抵抗だ。そうすれば、少なくともライ以外は殺せる。自分も死ぬかもしれないが、ライの親しい人間は全員殺せるのだ。


 勝てないのなら、最後の最後に嫌がらせである。


「ライ!」

「ライさん!」


 二人に名前を呼ばれたライは振り返る。そこには自分ライの勝利を信じて疑わない二人がいた。彼女達は何も言わないが、その瞳が語っている。「貴方なら勝てる」と彼女達が信じているのだ。


 ならば、負けるはずが無い。


「うぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 ライも負けじと全ての力を解き放つ。全身全霊、全力全開、全ての力を今こそ出し尽くす。

 その思いに聖剣と魔剣が答える。ブラドとエルレシオンは漲る力に困惑したが、いけるところまでいくのだとライの背中を押した。


『行け、主よ!!! 全てを終わらせるのだ!』

『行って下さい、マスター! 因果を断ち切るために!』


 その時、聖剣と魔剣が一際強く輝く。眩い光に包まれた二本のつるぎは一振りのつるぎへと姿を変えた。驚く二人だが今更だと割り切り、契約者であるライと共に咆哮を上げた。


「これで最後だあああああああああああああああッ!!!」

「全て消えてしまえッ!!!」


 ぶつかり合う二つの閃光。拮抗していたのは最初だけで、ライが放った閃光がガイアラクスの竜の息吹を飲み込んでいき、最後はガイアラクスも飲み込んで空の彼方へと消えたのだった。

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