第147話 頂上決戦
地上に落とすと決めたライは風を切り、音を越えていく。かつて精神世界でエルレシオンと障壁を使った鬼ごっこを思い出していた。
あの時、縦横無尽に空を跳び回り、光の軌跡を描いていたエルレシオンのようにライはさらなる境地へと至る。
「うおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
ダリオスやアリサのように黄金の闘気を纏っていても恐らくは耐えられないであろう負荷がライにかかっている。しかし、それでもライは加速する。今のガイアラクスを地上に叩き落すにはまだ足りないと歯を食い縛りながら。
筋肉は引きちぎれ、骨は砕け、障壁を踏んで跳ぶたびに足が弾け飛ぶ。痛みに叫びたくなるだろう。だが、幾度となくライは傷ついてきたのだ。今更、この程度で足を止めるような男ではない。
「うぅぅああああああああああああッ!!!」
「これは……ッ!」
ガイアラクスの目には光の残像となっているライが見える。もはや、目にも止まらぬ速度ではない。目で追うことも出来なければ視認する事すら出来ない。ただ光の帯が視界に映っているだけだった。
障壁を蹴る轟音と、それから発生する衝撃波が大気を震わせる。ドドドドッと豪雨が屋根を叩くような音が世界に轟く。
そして、次の瞬間ガイアラクスの腹部にライが聖剣と魔剣を真っ直ぐに突き立てる。凄まじい衝撃にガイアラクスは耐え切れずに地上へと落とされる。
「はあああああああああああッ!!!」
「ぐおおおおおおおおおおおッ!!!」
強靭な肉体と魔斧槍ヴァイスを咄嗟に鎧へ変形させたおかげでガイアラクスは貫かれることは無かったが、その突進に負けて大地へと背中から叩きつけられた。
「グハァッ!!!」
流石に音速を超えて光速に近付いたライの全速力で突進されればガイアラクスも無事では済まなかった。
背中から叩きつけられたガイアラクスは口から大量の血を吐き出す。その一方でライは全身粉々になった体を再生していた。
「う、ぐ……」
ガイアラクスを地上に落とすことには成功したがライもボロボロであった。再生をしているが先程の衝撃は中々に響いている。勿論、全く動けないというわけではないが少々動くのが辛いといったところだ。
「ぐぅ……」
倒れていたガイアラクスが立ち上がろうとしている。ライは今ならばトドメが刺せるかもしれないと跳びあがり、ガイアラクスの首目掛けて突っ込んだ。
しかし、寸前のところでガイアラクスが立ち上がり、ライは反撃を受けて大きく吹き飛んでしまった。
「ふう、ふう……回復魔法を使えるとはいえ、流石に今のはキツかった。竜王と戦った時のことを思い出したぞ」
立ち上がったガイアラクスは体の傷を回復魔法で治して、過去の事を思い出していた。かつて魔界の支配者を決める戦いで竜王と死闘を繰り広げたガイアラクスは久しく忘れていた死と言うものを思い出す。
一方で吹き飛ばされたライは地面に埋めれていた。顔面から地面に埋まっていたライは勢い良く立ち上がる。顔についた土を払うように頭を振るい、ガイアラクスのいる方へと顔を向けた。
「魔力減って無くないか?」
『うむ。先の一撃は間違いなく魔王の内臓を破壊したはずだが……』
『あっ!!!』
「どうした、エル!? なにか分かったのか!」
『憶測ですが、もしかしたら魔王は魔界から魔力を取り入れているのではないでしょうか? 長い間、前線に出てこなかったのは恐らくですが魔界と人間界を繋ぐ
『なるほど。それならば確かにあの無限の魔力も納得できる! しかし、だとすると何故そこまでの年月がかかったのかが不明だな』
『はい。
『まだ何かあるというわけだな』
一点不明な箇所はあるがエルレシオンの推理が一番納得できるとライは思った。これが正解なら人間界と魔界を繋ぐ
「なら、話は早い。直接、奴に聞けばいい!」
当然、向こうもそう簡単には口を割らないだろうが、こちらには頭脳が三つもあるのだ。ブラドとエルレシオンの二人がいれば何かしら気付いてくれるだろう。そうと決まればやることは一つ。
先程と同じように戦いつつ、核心をつく質問をすればいいだけ。それならば長期戦だろうとライは負ける自信が無かった。
「よし! やるかッ!!!」
どうなるかはまだ分からないが少なくとも、これで闇雲に戦うよりはマシになるだろう。ライは気合を入れ直してガイアラクスへと向かって走り出した。
「距離を詰められると面倒だ。魔法で燃やし尽くすしかないか!」
再び飛び上がるガイアラクスは手を振り上げて魔法を発動する。土が隆起して小高い丘が出来上がり、ライがそれを上ると足元から柱が飛び出してきた。
飛び出してきた柱を避けるライだが、次々と飛び出してくる柱。ついに避ける事が出来ずに柱にぶつかってしまい宙を舞う。
だが、すぐに体勢を整え直して、飛んで来る柱の上を疾走する。
「小癪な! これならどうだッ!」
ガイアラクスの手から鉄砲水が放たれ、柱の上を疾走していたライを飲み込む。
「凍れッ!」
ライを飲み込んだ鉄砲水をガイアラクスは凍らせた。スカーネルの時のようにカチンコチンに凍らされたライ。氷の中に閉じ込めたライをガイアラクスは竜の息吹で消し飛ばそうとした。
「消え去るがいい!」
しかし、竜の息吹が放たれた時、氷の中に閉じ込められていたライが動き出し、竜の息吹から逃れた。
「二度も同じ失敗を繰り返すかよ! 死ねぇッ!!!」
氷の中から飛び出したライは魔剣をガイアラクス目掛けて投擲する。風を切り裂き、真っ直ぐに飛んでいく魔剣にガイアラクスは土で出来た津波をぶつける。魔剣は鉄だろうと切り裂くが流石に物量が多い土砂には勝てなかった。
ブラドが土の中に埋もれてしまい、ライまでもが飲み込まれそうになる。
「ちぃッ!!!」
渾身の力で聖剣を横一文字に振りぬき、襲い来る土砂をライは吹き飛ばして見せた。その後、すぐに魔剣を手元に呼び寄せてガイアラクスへ向かって地を蹴った。
上空に逃げたガイアラクスはこちらへと向かって来ているライを鋭い目で睨みつける。
「これではお互いにジリ貧か……。近接では奴が上。魔法はほとんど意味を成さない。不意打ちでもなければ殺せぬか……」
障壁を足場にして空を駆けるライに向かって雷撃を放つが、聖剣と魔剣で雷を切り裂き、障壁で弾かれ、直撃しても死なない。普通なら感電死するのだろうが人外となったライにはあまり効果がないのだろうとガイアラクスは見切りをつける。
「頭部を物理的に破壊する以外ないか……」
非常に難題であるが、もうそれ以外に方法は無い。ガイアラクスは魔斧槍ヴァイスを変形させて全身鎧へと変えた。勿論、近接武器となる剣も装備している。ライの魔剣と聖剣対策で全身鎧を纏ったガイアラクスは迫り来るライを迎え撃つのだった。
「はッ! 魔法はもう止めたのか! クソトカゲッ!」
「ふん。スライムには勿体無いだけだ!」
ガイアラクスはライをスライムと称する。スライムは人間界にはいないが魔界では割と厄介な存在として知られている。なにせ、ライと同じく核を破壊しなければ不死身なのだから。
「ハハハハハッ! なら、お前はそのスライムに殺されるんだよ!」
「笑えない冗談だッ!!!」
お互いに理解していた。恐らくこの戦いが最後になるだろうと。
「なあ、お前は魔力が減らないように見えるけどなんでなんだ!」
「答える必要は無い!」
「じゃあ、どうして魔王城から俺を遠ざけたんだ? 最初は魔王城で戦ってたのに、どうして態々外に戦場を移したんだ?」
「いちいち喚くな!」
「どうして、そう怒ってるんだ? もしかして、聞かれたくないことだったか?」
「戦闘の最中に、ましてやこのような局面で緊張感の無い奴だと呆れているだけだ!」
大空でぶつかり合う二人だが、ライは飄々とした態度でガイアラクスに質問攻めをしていた。勿論、手を緩めることなくだ。聖剣と魔剣を振るい、ガイアラクスの鎧を何度も叩きながらライは質問を続けていた。
それに苛立つガイアラクスはほんの少しだけ攻撃が雑になる。その瞬間をライは見逃さなかった。
「(当たりだなッ!)」
『うむ! 魔王城になにか秘密があるのは違いない!』
『ですが、ここからどうしますか?』
そう、それが問題なのだ。魔王が持つ無限の魔力の秘密はわかったが、魔王城へ向かうことがライにはできない。敵に背を向ける事になるし、何よりも魔王がそれを許さないだろう。
だが、それは今までのようにライが一人だった場合の話だ。今は違う。彼は一人ではない。愛する者達が、頼もしい仲間がいるのだ。
ライはすうと大きく息を吸い込むと遠く離れていた勇者達に向かって叫んだ。
「シエル、アリサッッッ!!! それから他の皆! 魔王城に魔王の秘密が隠されてる! それを見つけて破壊してくれッ!!!」
「んなッ!? そうはさせるかァッ!!!」
ライと戦っているガイアラクスは秘密がバレテしまったことに動揺する。止めに向かいたい所なのだが、ライがそれを阻む。焦るガイアラクスは魔王城へと向かい始めた勇者達に魔法を連発する。
なんとかライが魔法を叩き落すが、それでもいくつか撃ち漏らしてしまい勇者達に魔法が到達してしまう。このままでは勇者達が木っ端微塵にされてしまうかと思われた時、予想外の事態が起こった。
大盾を持った連合軍兵士が束になって勇者達をガイアラクスが放った魔法から救ったのだ。当然、ガイアラクスの放った魔法は勇者を消し飛ばす程の威力を秘めていた為、連合軍兵士はたったの一発で再起不能となる。
しかし、だ。そのおかげで勇者達は魔王城へと無事に辿り着くことが出来たのだった。
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