第146話 空での戦い

 下の方で勇者達が合流している頃、天駆ける変態ライはガイアラクスと激しい戦闘を繰り広げていた。小さな体である人間のライと見るもの全てが圧倒される巨体を持つ黒竜のガイアラクス。

 二人は雲の上でぶつかっては離れて、ぶつかっては離れてを繰り返していた。その度にガイアラクスは小さな傷を負い、ライの方は何度も身体が消し飛んでいた。


「(くそ! 火力は向こうが上! 一撃貰うたびに身体が持っていかれる!)」

「(鬱陶しい! 普通の人間なら即死しているだろうに、どれだけ再生するのだ! しかも、こちらの魔力を奪いおって! 忌々しいッ!)」


 両者互いに思うことは同じであった。ライはガイアラクスの火力や技術に舌を巻き、ガイアラクスはライの能力に舌打ちをしている。


 何度もぶつかり合い、お互い削り合う二人だがどちらも決定打に欠けていた。正確に言えばライの方が決定打に欠けている。基本、聖剣と魔剣で斬ることしか知らないライはガイアラクスを倒すことが出来ない。

 ちまちまとダメージは入れているのだが、ガイアラクスの生命力と耐久力は群を抜いており、どうしても倒しきれないのだ。


 それに魔力も奪っているはずなのだが疲れを見せない。なにか秘密があるのだろう。それが何なのかは分からないが、その秘密を暴かない限りは魔力切れを狙うことは出来ない。


『妙だな。もう何十、何百と斬りつけて魔力を削っているのに、疲れを見せないとは……』

『無限の魔力など存在しませんからね。マスターは吸収で無尽蔵に溜め込むことは出来ますけど消費すればいずれ底を尽きます』

『うむ。もしや、魔王が前線に出てこなかった理由がそこにあるかもしれん……』

『そういえばそうですね。これだけの力があれば人類など簡単に滅ぼせたでしょうに……』


 はて、何故ガイアラクスはここまでの力があるのに前線に出てこなかったのかと二人は思考を巡らせるが答えは出てこない。恐らくだが、そこに何か重要な秘密が隠されているのだろうと目星をつけた。


「消え去るがいい!!!」


 距離を取ったガイアラクスが残った片翼を大きく広げると何十もの魔法陣が展開されて光の矢が放たれる。霰のように降ってくる光の矢をライは必死で避けるが、流石に数が多すぎた。

 体を蜂の巣にされてしまい、落下するライ。落ちていく途中で体を再生させて、その場に留まった。


 空中に障壁を展開させて足場を作り、ガイアラクスを睨み付けるライはどうしようかと悩む。このまま戦っていても埒があかない。ガイアラクスはどれだけ魔剣と聖剣で傷つけても魔力を失わないし、疲れた様子も見えない。

 それはこちらも同じなのだが、ガイアラクスの方が攻撃という点では上なのでどうしても攻め切れないのだ。


 いくら再生しても倒しきれないと意味が無い。今まではゴリ押しでどうにかなっていたが、今回ばかりはそうもいかない。魔王の無限にも等しい魔力の秘密を解き明かさない限り、ライに勝ち目は無いだろう。


「さて、どうするか……」

『無闇に攻撃をしていても意味はないな。魔王から魔力を吸収できるが、これではいたちごっこだ』

『もしかすると魔王城になにか秘密があるのかもしれませんね』

『ふむ、それはどうしてだ?』

『だって、おかしいとは思いませんか? こちらには砦や要塞があるのですから、そこを占拠して自分達の拠点にすればいいはずなのに、態々あのような立派な城を建てたのですよ? 何かあるとは思いませんか?』

『そう言われれば確かにそうだな。魔王ならば帝都を陥落させて自分の拠点にすることは容易かったはず。それなのに魔王城を経てたわけか……』

「一度地上に降りるか?」


 もし、そうならば魔王城を詳しく詮索するしかない。そう考えたライは一度地上に降りることを提案するが、当然それはガイアラクスが許さない。


「何をぶつぶつ言っているかと思えば、逃げる算段でも立てていたか」

「ハハハハッ! 逃げる? 馬鹿を言え。怨敵を前にして誰が逃げるかよ。そっちの方こそ逃げなくていいのか? その立派な尻尾を巻いてすたこら逃げたらどうだ?」

「ふん。強がるのは止せ。私を倒せないからお前はコソコソとしているのだろう?」


 図星であったライは口を開こうとしたが何も言い返せない。負けないことはないが勝てる見込みが無いのは確かだ。このまま戦っていても無駄に体力を消費するだけ。それならば、少しでも勝てる可能性を上げるために分析を行うのは間違ってはいない。


「お前に勝つための算段を計算してるんだよ」

「ほう? それで計算は出来たか?」

「ああ。完璧だ」


 完全に嘘であるがここで弱気になってはいけない。相手の思う壺だ。焦ればこちらが不利になるだけ。


「(しかし、魔王城に行くって言っても逃げたらデカイ魔法が飛んで来るんだろうな……)」

『まあ、当然だな。だが、もしかすると撃ってこない可能性もある』

『射線上に魔王城を重ねればいいだけですね』

『とはいえだ。それはあくまでも可能性に過ぎない。下手をしたら地上にいるアリサやシエルが巻き込まれる』

「(それは嫌だ。絶対)」


 ここでシエルとアリサを失ってしまえばどうなるかは明白だろう。ライは狂い、魔王を殲滅するまでは決して止まらない狂戦士バーサーカーになる。これだけは確かだ。もっとも、それだけで済むかは試してみないと分からないだろう。


「(仕方ないか。なんとかして魔王を地上に叩き落そう!)」


 方針は決まった。ライはとりあえずどうにかして魔王を地上に叩き落す事にする。それはとてつもなく難しいことであるが、それ以外方法はない。


「行くぜ、魔王ッ!!!」


 再び聖剣と魔剣を握り締めて空を駆けるのだった。

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