第144話 燃え尽きてしまえーッ!!!
吹き飛ばされたライは地面に激突して止まった。全身の骨がバラバラに砕け散ったかのような痛みを感じながらもライはムクリと立ち上がる。まるで何もなかったかのように。
「くそ。油断した。まさか、竜に変身するなんて」
『我も驚いた。竜人族は竜になどなれぬのだが、よもや魔王は竜になることが出来るとは……』
『最初で最後と言っていましたから奥の手なのでしょうね』
「そうみたいだな」
『ああ。魔力量も数倍に跳ね上がっていた。あの巨体にあの魔力。恐らくだが、竜王すら屈服させることも容易だろう』
「竜王って、もしかして文字通り竜族の王様か?」
『うむ。魔王がいなければ正真正銘魔界最強の存在だろう』
「そうなのか……」
しかし、だとしたら一つ気になることがある。何故、魔王は竜王を部下にしなかったのだろうかと。それこそ、竜を配下において帝都に攻め込んでいれば一日で帝都を落とすことは簡単のはず。
それなのに、どうして魔王は竜王をこちらに連れてこなかったのだろうかとライは考えるが、その時、魔王城から黒竜となったガイアラクスが飛び出してきた。
「やはり、あの程度では死なんか」
「肝は冷えたがな。だけど、もう慣れた。たかが、デカくなっただけのこと! 恐れる事じゃない!」
「大きくなっただけではない。全ての力が向上しているのだ!」
ガイアラクスが翼を大きく広げると魔法陣がいくつも浮かび上がる。そこから、数え切れないほどの爆炎魔法が放たれた。
尋常ではない数の爆炎魔法にライは目を丸くする。これは全て避ける事は不可能だと判断したライは地面を強く蹴ってガイアラクス目掛けて跳んだ。
頭部だけを守るようにガイアラクスへと向かってライは突き進む。花火のようにドンドンと轟音が鳴り渡り、その度にライの体は吹き飛ぶ。すぐさま再生するが魔法の威力は桁違いに上がっており、ライも辛そうに顔歪めていた。
「ぐぅッ! さっきとは比べ物にならん!」
『主! 次のが来るぞ!』
「くそったれめッ!!!」
既に次の魔法を準備していたガイアラクス。先程と同じく数え切れないくらいの魔法がライを襲う。今度は風の刃で無数の見えない斬撃がライを襲った。
腕を足を斬られるライ。その度に再生するが、その腕や足もすぐに細切れにされてしまう。ただ、頭だけはライが懸命に守っているので支障はない。
とはいえだ、時折、首をスパッと斬られるのだけは勘弁してもらいたい所だ。不可視の刃で切られるので、一瞬だけ再生が遅れてしまう。新しい肉体を形成すればいいのだが、手間はかかるし、何よりも首なし死体が出来上がってしまうので、それは避けたい。
流石に首なし死体がいくつも地面に転がっていたら不気味であろう。しかも、全て同じ体というのだから余計にだ。
「絶望を知るがいい」
「は?」
風の刃が襲ってこなくなったと思ったらいつの間にやら逃げ道を断たれていた。一箇所だけ隙間を空けてライは土の壁に囲まれていた。
そして、ガイアラクスの声が聞こえてそちらに振りむくと、そこには片手が剣になっている黒竜が天高らかに剣を振り上げていた。
その剣にはどす黒いオーラが纏わりついている。恐らくだが、ガイアラクスの魔力であろう。先ほどまでは多少の余裕があったライだが、これは流石に不味いと冷や汗を流す。想像しなくても分かる。あの一撃を受けたら死ぬと。
真っ直ぐにライへ向かって剣が振り下ろされる。刀身から真っ黒な閃光が放たれた。その黒き閃光は大地を穿つ。遠くに見える山さえも切り裂いたガイアラクスの斬撃。
しかし、間一髪のところでライは避けていた。とはいっても、ギリギリである。胸辺りから下は塵一つ残らずに消滅していた。
「今のはやばかった……」
『なんという力よ……。主、先の一撃は撃たせぬ方がいいぞ』
「わかってるよ。流石に、そう何度もポンポン撃たせるかよ」
「雑談とは随分と余裕だな、ライよ」
見上げた先にはガイアラクスと太陽があった。否、正確に言えば太陽ではない。ガイアラクスが魔法を放とうとしていたのだった。
特大の火球を作り出したガイアラクスはライへ向かって火球を打ち放つ。遠く離れていたというのに熱が伝わってきて肌がチリチリと焼かれるライは即座に逃げ出した。
しかし、そうはさせないとガイアラクスが土の壁を作ってライの逃げ場をなくす。壁を破壊して逃げようとするライだが、その度にガイアラクスが壁を生成して阻止する。
「や、やばいッ!!!」
『マスター! 急いでください! すぐそこまで迫ってきています!』
「分かってる! てか、熱い! 尋常じゃなく熱い! これ直撃したら俺溶けるんじゃないか!?」
『塵一つ残らないだろうな!』
「笑い事じゃないぞ! くそ! 四天王も大概だったが魔王はそれ以上だな! ここまでの規模の魔法を一人で撃つなんてよぉッ!」
迫り来る大火球から必死に逃げようとするライは壁を何度もぶち抜くが、壊しても壊しても次から次へと壁が生成されて逃げることが出来ない。いくら何でもあの大火球を受ければライとて無事では済まない。
再生する前に焼失してしまうだろう。それだけは絶対に嫌だとライは全力で壁を破壊していく。
「観念しろッ!!!」
「がああああああああああああッ!!!」
あらん限りの力を振り絞ってライは壁を粉砕した。しかし、新たに壁が生成されてしまい逃げ場が無くなる。
そうしていると、ついに大火球が目と鼻の先まで近づいた。このままでは再生する暇もなく細胞一つ残らず燃え尽きるだろう。
「くそがあああああああああああッ!!!」
一か八かの賭けに出たライは大火球に向けて渾身の一撃を放つ。聖剣と魔剣から三日月状の斬撃波が飛び出し、大火球へと飛んでいく。
だが、願い虚しくライが放った斬撃波は大火球に飲まれて消えた。万事休す。ライは死を待つだけとなってしまった。
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