第143話 魔王は変身するもの

 ライとガイアラクスがぶつかり合い、凄まじい衝撃が魔王城を駆け巡る。遠目に見ていた三人も思わず吹き飛ばされそうになるが、この戦いの行く末を見届ける為に必死に食らいついた。


「がああああああああああッ!!!」

「ぬぅあああああああああッ!!!」


 ライは聖剣と魔剣を振るい、ガイアラクスは対抗するために魔斧槍ヴァイスを双剣に変化させた。

 息をも吐かせぬ攻防に誰もが魅了される。ライの斬撃は白と黒の軌跡を描き、ガイアラクスを追い詰めていく。


「(くッ……! やはり、近接戦闘では向こうが上かッ!)」


 ガイアラクスも近接戦闘は弱いわけではないのだがライの方が上である。勿論、天地ほど離れているということはない。ただ、僅かばかりにライの方が上なのと再生能力で優勢なだけだ。

 掠り傷も一瞬で治り、腕を斬り飛ばしたかと思えば、すでに新しい腕が生えており、足を吹き飛ばして体勢が崩れたかと思えば、新しい足で一歩踏み込んでくる。


 ライの猛攻を掻い潜り、どれだけの攻撃を浴びせても倒れず、折れない光景は相対している敵からしたら辛いだろう。


「(駄目か……ッ! やはり、一度距離を取って魔法に切り替えるしかない!)」


 技術面では上だとしても、やはり身体能力が足を引っ張ってくる。ガイアラクスの身体能力はサイフォスにも負けず劣らずで相手が勇者であっても引けを取らないのだが、流石に人外魔境の変態には勝てなかった。

 それもそうだろう。身体が再生するたびに強化され、息を吸うごとに闘気や魔力を回復するような化け物だ。ガイアラクスがいくら強くても無尽蔵には勝てない。


 嵐のような猛攻を仕掛けてくるライに対してガイアラクスは尻尾を巧みに使い、背後から奇襲を仕掛けた。

 全く予想していなかった背後からの奇襲を受けてライは体勢が崩れる。その隙を見逃さずガイアラクスは爆炎魔法でライを吹き飛ばして距離を取った。


「(アレで死んでくれればいいのだが……)」


 そう希望を抱くが爆炎の中からジュウジュウと煙を上げながら再生しているライがゆっくりと出てきた。

 それを視たガイアラクスは溜息を吐きそうになる。一切の加減無く叩き込んだ爆炎魔法だというのに殺しきれなかったのだから、溜息を吐きたくなるのも頷ける。むしろ、逆切れしてもいいくらいだ。


「なんでアレで死なないんだ、バカヤロー!」と理不尽に対して怒ってもいい。


 とはいえだ。ライも一応死ぬ。現段階では呪いも効かないので病死か寿命を迎えるしかないが、それでも一応生物なので理論上は死ぬはず。

 それこそ魔法でライの周囲を真空状態にしたり、水魔法で溺死に追い込めばいい。無論、そう簡単にはいかないだろうが、成功すればライは殺せるのだ。


「(風魔法を駆使すれば奴を酸欠には出来るだろうが……より進化したらどうする? 現段階でも手が付けられないというのに……なんと厄介な男よ)」


 窒息死や溺死まで克服されたら、それこそお手上げだ。やはり、全身どころか細胞一つ残らず吹き飛ばすかしかない。たとえ、それがどれだけ難しいことだろうともガイアラクスは己の野望を叶える為にはやるしかないのだ。


「(やはり、これしかないか……。仕留め切れなかった場合は……最悪の結末だろう)」


 覚悟を決める。腹を括ったガイアラクスは最後の勝負に出る。身につけていた立派な鎧を次々と脱いでいき、まるでライと同じ土俵で戦うのように装備を脱いでいった。

 とはいえ、流石に全身丸裸になるわけではなく、最低限のモラルをガイアラクスは死守する。ようはライと違って大事な部分は隠しているという事だ。


「なんだ? まさか、お前全裸じゃないと力を発揮できないタイプか?」

「お前と一緒にするでない! これは邪魔だから脱いだだけだ!」

「一緒じゃないか!」

「断じて違うわ、この間抜けめ!」

「まあ、俺もお前の裸なんて見たくないからいいけどな」

「だったら、いちいち口にするな! くそ、お前と話していたら調子が狂う!」


 別に狙っているわけではないのだがライは煽り文句を言うのが癖になっている。そのせいか、些細な事でもついつい口走ってしまうのだ。

 相手が怒って精細さを欠いてくれれば儲けもの。そうならなくても憎い相手に悪口を叩くのは気持ちがいい。


 しかし、そうこうしている間にガイアラクスは上半身裸となり、残りは下半身だけである。ライと違い歴戦の強者であるガイアラクスの筋骨隆々の逞しい体にはあちこち古傷が残っていた。


「光栄に思うがいい。この姿を見るのはお前が最初で最後だ!」


 そう大きく声を荒げて宣言するとガイアラクスの体は大きく、さらに大きくなっていく。一体どこまで大きくなっていくのかと思っていたら、顔は人から竜へと変化していき、やがて全身が変わった。


 先程までの竜と人が交じったような体ではなく、完全な竜へと変貌したのだった。


 その巨体に驚くライは思わず後ずさってしまう。


「デ、デカイ……ッ!」

「グゥルアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


 天に向かって咆哮を放つガイアラクス。そのけたたましい音量にライは両手で耳を塞ぐ。そこをガイアラクスは突いた。

 竜となったガイアラクスの大きな拳がライを殴りつける。障壁を張って防御するライだったが、そのあまりの威力に障壁は破られてライは魔王城の壁を何枚も突き破って遥か彼方へと吹き飛んでいったのだった。

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