第142話 頑張れ、ライ。お前がオンリーワンだ!!!

 ガイアラクスの見た目は頭こそ人に似ているが、角を生やし、背中からは翼が生えており、極めつけは竜のような立派な尻尾だろう。

 見たこともない見た目にライは首を傾げるが、その疑問をブラドが解いてくれた。


『主よ、奴は恐らく竜人族だ』

「(強いのか?)」

『うむ。しかし、ここまで強力な個体はいないはずだ。竜人族は魔族の中でも上位であるが竜族と比べたら弱い』

「(竜族? 竜人族の仲間か?)」

『いや、竜族は完全なる竜だ。竜人族のように人のような特徴は一切ない。そして、魔族の中で最強の種族でもある』

「(なのに、竜人族が魔王なのか)」

『恐らくだが、奴は特別な存在なのだろう』

『つまり、彼もマスターと同じく特異だと?』

『あくまでも推測に過ぎないがな。魔界では稀に生まれるのだ。異常な力を持った特異な個体が』

『なるほど。それが魔王というわけですね』


 ひとまずブラドのおかげでガイアラクスの種族は判明したが、問題が解決したわけではない。竜人族には変身能力があるのかどうかを知りたいライはブラドに質問する。


「(竜人族って竜に変身できるのか?)」

『いいや、出来ないはずだ。それゆえに竜人族は竜族に劣等種、紛い物、混ざり物、下等生物と呼ばれて見下されている』

「(でも、魔王は腕に鱗を生やしたぞ?)」

『そうだ。そこが謎なのだ。先程も言ったが恐らくは魔王が特異個体なのであろう』

「(そうか。まあ、関係ないか。魔王が強いのは今更だ)」


 ガイアラクスがどのような存在だろうと強いという事は変わらない。それなら、やる事はいつもと一緒だとライは聖剣と魔剣を強く握り締めた。

 対する魔王ガイアラクスはライが動きを止めたことで不気味に感じていたのだが聖剣と魔剣を強く握りしめるライを見て気を引き締めた。


「(恐らくだが奴は私のことを分析しているのだろう。こちらの有利な所は全容を知られていないということだけ。さて、どこまで通用するかだが……)」


 前線に出ていなかったおかげでガイアラクスの能力は知られていない。それだけが唯一の利点ではあるが、同時に欠点でもある。現状、ライとの実力差ははっきりとしている。

 技術面や手数の多さではガイアラクスが大きく上回っているが、それ以外はライの方が圧倒している。身体能力や魔力量に闘気量、それから潜在能力と成長速度。そして、何よりも厄介なのが不死身に近い再生能力。


 戦えば戦うほどライは成長し、どれだけ傷つけても真正面から襲い掛かってくる捨て身の特攻。この二つがどれだけ非常識であるか。それは戦っているガイアラクスにしか分からないだろう。


「(私も魔界では異常扱いされたが、まさか人間にもいるとはな……。いや、人間かアレは? 魔族と呼んでも差し支えないぞ。むしろ、魔族でもない、人でもない、新種の生物と言った方がいいだろうな)」


 睨み合いが続く二人。その二人を遠目に見守っているのはガイアラクスと戦っていた三人だ。二人の戦いを見守っていた三人は睨み合いを始めた二人を見て生唾を飲み込む。


「どちらも凄まじいな……。しかし、実際にライの戦い方を目にしたが、まさかあれ程とは……」

「どう? 凄いでしょ!」

「当然です! だってライさんは最強ですから!」


 いつの間にか回復していた三人。ライが魔王と戦っている間にシエルが全員の怪我を治したのだ。ただし、そのせいでほとんどの闘気を使い果たしている。それも仕方ない。彼女は人類最高峰の闘気を持っていると言ってもライと違って回復するには時間がかかる。それに、今までは回復だけだったのだが今は戦闘でも消費するようになっているので尚更だ。


「情けないな。結局、全てライ任せになってしまった……」

「気に病むことなんてないわ。ダリオスさんは今までずっと最前線で戦って来たんだし、これからは新しい世代に任せればいいだけじゃない」

「そうですよ。常にダリオスさんが最前線で戦っていてくれたおかげで、魔族の侵攻を食い止め、ここまで来れたんですから」

「俺だけではないさ。多くの同胞が、先代の勇者達が戦ってきてくれたおかげだ」

「だとしても、今はダリオスさんのおかげでしょ」

「アリサの言う通りですよ」

「そうか。そう言われると頑張ってきた甲斐があるというものだ」

「後はライが勝つのを祈りましょ」

「勝つに決まってます。ライさんが負けるなんてありえません」

「私だってそう思ってるわよ」

「だったら、お祈りじゃなくてライさんが戻ってくるのを待ちましょうよ」

「それもそうね……。私のライが負けるはずないし」

「私のライさんです」

「おいおい、二人ともここで喧嘩をするのは止してくれよ」


 一触即発な状態になった二人を見てダリオスが間に入って仲裁する。いくらなんでもここで喧嘩をするのは不味い。ライが魔王と必死に戦っている横で仲良くキャットファイトなど目も当てられない。

 流石にこのような状況では喧嘩をしない二人だったがバチバチと視線を合わせていた。


「やれやれ……」


 そんな二人の様子を見て肩を竦めるダリオスだったが、すぐに視線をライの方へと向けて応援の言葉を贈った。


「頑張れ、ライ。お前なら勝てる」


 届いたかどうかは分からないが、再びライとガイアラクスがぶつかり合うのだった。


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