第141話 魔王VS人外の変態
シエルに向かって無慈悲なる一撃が迫ろうとしていた時、ガイアラクスが握っていた魔斧槍ヴァイスが飛んできた聖剣によって弾き飛ばされてしまう。
突然のことにガイアラクスは目を丸くする。飛んで行った魔斧槍に目を向けるのではなく、聖剣が飛んできた方向へと顔を向けた。
壁の穴の向こう側が暗くなっていて姿を確認できないが、ヒタヒタと背筋が凍えるような足音が聞こえてくる。
そして、ガイアラクスは硬直する。壁に出来た穴の向こう側から全裸の
「……何故、裸なのだ?」
どうして裸なのかと混乱するガイアラクスだが、次の瞬間ライが目の前に迫っていた。
瞬きをした瞬間にライが目の前に現れたことでガイアラクスは目を見開き驚愕に固まってしまう。
「速い……ッ!」
「があああああああああッ!!!」
「くッ!!!」
迫り来る斬撃を後ろへ飛んで避けると同時に爆炎魔法でライを吹き飛ばす。だが、ライには通じない。ライは真正面から魔法を受けると、そのままガイアラクスへと距離を縮めた。
「これかッ! これが四天王から聞いていたお前の厄介な能力か!」
爆炎魔法ではなく風の魔法でライを吹き飛ばしていれば話は変わったのだが、ライは爆発程度ならどうということはない。捨て身の特攻で相手の懐へと飛びつくのだ。
「ぬうッ!!!」
「死ね、魔王ッ!」
「ふ、ならばお前は裸勇者だな! 白黒の勇者というのは勿体ない!」
「どうだっていいんだよ! お前さえ殺せるなら俺はどんな姿形になろうと気にはしない!」
ついに最後の戦いという所でライは覚醒した。恥も外聞も投げ捨ててしまい、羞恥心さえ克服してしまった。もはや、裸で戦って恥ずかしくないのかと罵ろうともライは決して止まらないだろう。
『酷い格好だが……まあ、主の戦闘スタイルのことを考えると最も合理的ではあるな……』
『いいではありませんか。かつての戦士たちも腰巻だけという時代もありましたし』
『時代を逆行するか~……』
ライは二人の会話を気にすることなくガイアラクスと激突する。ガイアラクスは武器を手放しているので魔法で応戦するが、今までのようにはいかない。どのような魔法だろうと基本ライは避けない。むしろ、距離を詰める為に最短最速で真っすぐに突っ込むのだ。
「少しは避けようとしないのか!」
「なら、魔法を止めればいい! そうしたら俺がその命を刈り取ってやる!」
「くッ……! ならば、これでどうだ!」
そう言うとガイアラクスは地面から土の棘を生やしてライを攻撃する。何本もの棘に刺されるライだが、その歩みは止まらない。ズタズタに引き裂かれようとも、即座に体は再生し、すぐに動き出す。
質の悪い悪夢でもこのような化け物は出て来ないだろう。ガイアラクスもカーミラの再生力を目にしており、ある程度は慣れているがライはそれ以上だ。
腕を吹き飛ばそうと、脚を削ぎ落そうと、一秒もせずに再生している。しかもより強靭なものとなって。それゆえに、先程のような土の棘も刺さらなくなっている。付け加えるなら、ライは活性化の能力も手にしているので闘争本能が高ぶっているなら、ほぼ無敵に近い。
体の底から無限の力が湧いてくるというやつだ。さらに周囲の魔力や闘気を吸収しているのでガス欠は起こらない。
そもそもヴィクターを倒した時に大量の魔力がライに流れ込んできているので、すでにガイアラクスと同等かそれ以上の魔力を有している。そこに闘気も含まれているのだから、総量で言えば世界一と言ってもいい。
もはや、ライを倒す術はこの世にないと言っても過言ではない。
「ゴブリンでさえも腰巻をしているぞ! お前には恥というものがないのか!」
「あるに決まってるだろうが! だが、今更気にするかよ!」
「低俗な勇者め!」
「そういうお前は俺の羞恥心を刺激しようとした低能な魔王だな!」
「ほざけ! お前のような
「はッ! だったら、自分を恨めよ! お前がヴィクターに魔剣と聖剣の回収を命じなければ俺は生まれなかったんだからよ!」
「ぐぅ……!」
まさにその通りだったとガイアラクスは顔を顰めて後悔していた。この人外の生物を生み出したのは間違いなく自分であると。魔剣と聖剣は人類側に渡したくはないとヴィクターに回収を頼んだのが間違いだった。
最初から放置していれば目の前にいる理解不能な生き物が誕生することはなかった。
「くそ……! 星の聖剣エルレシオン、混沌の魔剣ブラド。その二つがお前の手に渡らなかったら! そもそも一体どうしてその二つをお前が持っているのだ!」
『……そ、その名前は!』
『おお、久しぶりに聞いたな』
当然、二人にも名前があった。大層な名前で恥ずかしかったのでエルレシオンの方は隠していたのだが、まさかガイアラクスの口から出るとは思わなかったようで動揺していた。
「ハハハ! 初めて知ったぜ! 星の聖剣エルレシオンに混沌の魔剣ブラドか! カッコよくて俺は好きだぜ!」
『フフフ、そうか。我も結構気に入ってるぞ』
『うぅ、私は恥ずかしくてあまり好きじゃありません……』
「真名も知らなかったのに一体どうやって契約できたというのだ!」
まさかただ愚痴を言っていたら気に入られたなどガイアラクスは想像も出来ないだろう。二人は毎日のように愚痴を吐き、他愛もない雑談を交わしていたライを気に入ったなどと天地がひっくり返っても出て来ない答えだろう。
「忌々しいッ! お前さえ、お前さえいなければ!」
「それはこっちも同じだ! お前らさえいなければ!」
ガイアラクスは魔法を連発してライの動きを一旦封じると魔斧槍ヴァイスを拾い上げた。
武器を手にしたガイアラクスは爆炎の中から飛び出してくるライとぶつかる。聖剣と魔剣、そして魔斧槍がぶつかり火花を散らせた。
「ぐぐぐッ……!」
「どうした! ええ? 随分と苦しそうじゃないか!」
「粋がるなよ、小僧がぁッ!!!」
巧みにライの魔剣と聖剣を魔斧槍で奪い取ると、ガイアラクスは無防備になったライへ向かって拳を叩きつける。殴られたはずのライはニイと不敵に笑うと殴りつけてきたガイアラクスの腕を絡めとる。
「なにッ!」
「へし折ってやる!」
「ぬぅおおおおおおッ!!!」
曲がってはいけない方向へ曲げようとするライに対してガイアラクスは抵抗する。雄叫びを上げて力を込めるとライを地面に叩きつけた。
しかし、ライは離れない。何度も叩きつけられようとも離れないライにガイアラクスは恐れ戦く。
「(不味いッ! このままでは腕を折られてしまう!)」
下手をしたら折られるどころか引き千切られてしまうと考えたガイアラクスは奥の手を出す。ガパリと大きく口を広げるガイアラクスは灼熱の閃光を撃ち放った。
ライもそれには驚き、驚愕に固まっているところで閃光に飲まれてしまう。腕も焼いてしまったがガイアラクスはライが離れたことを確認した。
「消し炭になったか?」
「今のは驚いた。まさか、口からも魔法を撃てるなんてな」
「なッ!? いつの間に!」
真っ黒こげになったライがガイアラクスの背後に立っていた。しかも、その手には聖剣と魔剣が握られている。
慌てて距離を取るガイアラクスだが少し遅い。ライは容赦なくガイアラクスの両腕へ斬撃を叩き込んだ。
「させるかッ!!!」
「むッ!?」
双剣がカキンと弾き返されてしまう。だが、それよりも驚きなのはガイアラクスの腕に硬質な鱗が浮かび上がっていたことだ。
変身能力があるとは思わなかったライは一旦動きを止めたガイアラクスを観察することにした。
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