第139話 けじめ

 激突する二人。ギャリギャリと火花を散らす両者の剣。しかし、拮抗はすぐに崩れることに。


「(単純に押し負けている! このままではッ……!)」


 鍔迫り合いになっているが既に力の差は歴然としている。ライの力は完全にヴィクターを上回っていた。

 それに加えて腐敗の呪いが消え、活性化まで手に入れたライの力は凄まじい。恐らく、素の身体能力だけでも四天王どころか魔王に匹敵するだろう。


 その事を理解し始めたヴィクターは冷や汗をかいている。現時点で魔王に匹敵するほどの力を手にしているだけでなく、またさらに進化の可能性を残しているのだから冗談ではないと泣きたくなるだろう。


「(神々が我等を排そうと遣わした使徒だと言われても納得できるぞ!)」


 事実、そう言う意味だとライは確かに特殊な存在だった。なにせ、普通なら老若男女問わず持っていると言われている闘気や魔力を持っていなかったのだから。ある意味稀有な存在であろう。

 偶然に偶然が重なり、奇跡のような存在。まさに神々がそう采配したのだと言われても不思議ではない。


「ぐぐぐ……ッ!」

「かああああああああッ!!!」


 気合一閃。ライは咆哮を上げてヴィクターの剣を弾き飛ばした。がら空きとなったヴィクターの懐へライは踏み込んで一閃、二閃、三閃、四閃と剣を振るう。


「ぐわああああああッッッ!!!」

「るぅああああああああああああッ!!!」


 怒涛の連閃にヴィクターは魔力と共に身を削られる。ライは呼吸すら忘れて神速の連撃を叩き込んだ。

 そして、トドメとばかり最後の一撃をヴィクターへと決める。聖剣と魔剣が交差してヴィクターの体にバツ印が刻まれた。


「ガフッ……」


 口から盛大に血を吐いてヴィクターはその場に両膝を着いてしまう。まだ倒れないのは流石四天王に選ばれただけのことはあると感心するライだが、彼は両親の仇。決して許していい存在ではない。


「ハア……ハア……」

「さっきとは真逆だな。苦しいか、ヴィクター?」

「殺せ……ハア……ハア……」


 ヴィクターは魔人族であり魔法と武術両方に長けているが、やはり魔力が尽きた状態ではライに勝つことは出来ないだろう。

 それに回復する手段である魔法も魔力がなければ意味を成さない。もはや、勝負はついた。


「…………」

『主よ……』

『マスター……』


 目を閉じてライは今までの事を思い返す。ここまで来るのにどれだけの時間が経ったか。どれだけの血を流したか。もう分からないが、それでもようやく一つ終わらせることが出来る。やっと、けじめをつけて前を見ることが出来るのだ。


「…………こんなこと言うのはどうかと思うけど一つだけ言っておく。お前のおかげで俺はアリサとシエルの二人と出会うことが出来た。それだけは感謝しておく」

「ふッ……ククク。まさか、最期にお前から感謝されるとはなぁ~……」

「ああ。だが、恨みが無くなったわけじゃない。だから、死んでくれ」

「フハハハハハッ! ならば、俺も最後に言っておこう! お前は魔王様に勝てない――」


 その言葉を聞き届けたライはヴィクターの首を刎ねた。カーミラのように再生能力を持ち合わせていないヴィクターの首はコロコロと地面を転がり、やがて止まるとその目は光を映さなくなった。


「……さあ、全てを終わらせに行こう」

『うむ』

『はい』


 ようやく仇を討ったライは余韻に浸ることなく、最後の敵である魔王の元へと走り出した。勿論、全裸のままだ。誰か一人でも違和感を感じて突っ込んでくれる人間がいればヴィクターの装備でも奪っていたのだが、そのようなことを全く考えなかったライは全裸のまま魔王の元へと向かうのであった。


 ◇◇◇◇


 ライがヴィクターと死闘を繰り広げている頃、アリサとシエルがダリオスとガイアラクスが戦っている所へと合流していた。

 そこで二人は驚きの光景を目にする。ダリオスがガイアラクスの前で膝を着いて血を流しているのだ。


 どう見てもダリオスの負けである。二人は自分達が戦っている間にダリオスが魔王に敗北したのを知った。

 まさか、勇者の中で最強と言われているダリオスが負けるとは思っていなかった二人にとっては衝撃であった。


「ダリオスさん!」


 大声を出してダリオスの元へと走る二人。二人の接近に気が付いていたガイアラクスはダリオスに止めを刺そうと魔斧槍ヴァイスを振り下ろす。

 間に合わないと判断したアリサが聖剣を投げつけて魔斧槍を弾き飛ばすが僅かに動きが鈍るだけで止まらない。


「不味いッ!!!」

「チェェェストォォォォッッッ!!!」


 すかさじシエルも聖杖ルナリスを放り投げる。クルクルとブーメランのように飛んでいく聖杖ルナリス。本来の使い方から大きく外れている事に怒り狂うだろうが道具をどう扱うかは本人次第だ。


 聖剣と同じようにガイアラクスの手に握られている魔斧槍にぶつかる。またも動きが僅かに鈍るが。ほとんど支障はなかった。

 しかし、それだけ時間を稼げば十分である。シエルが全力で振り被ると、そこへアリサが跳んだ。


 シエルはアリサをガイアラクス目掛けて殴り飛ばすように押し出した。


「どりゃあああああああああッ!!!」


 大砲のように打ち出されたアリサは真っ直ぐにガイアラクスへと飛んでいく。そのまま空中で身を反転させて飛び蹴りをガイアラクスへ放った。


「はああああああああああッ!!!」

「む……」


 ヒョイと簡単に避けるが、第二の矢が既に放たれていた。シエルがガイアラクスの死角へと潜り込んでおり、渾身の一撃を叩き込む。


覇王塵誅はおうじんちゅうッッッ!!!」


 ガイアラクスの懐へ踏み込み、打ち下ろすようにシエルは肘鉄を叩き込む。これは避けることが出来ないだろうと確信の一撃。見事に決まったシエルは確かな手応えを感じた。


 しかし、ガイアラクスには効いていなかった。


「ふむ。良い一撃だ。これならば確かに四天王と戦えるだろう」

「なッ……!」

「だが、いかん。この程度で動揺するとはまだ未熟。出直してくるがいい」

「きゃあッ!!!」

「シエルッ!!!」


 完全に技が決まったはずなのに全く動じないガイアラクスにシエルは動揺してしまい、その無防備になったところを魔王に殴り飛ばされてしまう。咄嗟に防御はしたが凄まじい威力にシエルは耐え切れず地面を転がった。


「三対一か。とはいえ、先程の動きを見るに私の敵ではないな」

「ッッッ……! なるほどね。流石は魔王ってところかしら」

「無論よ。四天王を私がどうやって屈服させたと思っている?」

「ああ、そういうこと。理解したわ。アンタもライと同じで規格外ってことね」

「そう言う事だ」

「ッ!?」


 会話の途中でガイアラクスの姿が消えるとアリサの背後へと移動していた。それに気が付いたアリサは即座に後ろへ振り返るが遅い。ガイアラクスの放った裏拳によって吹き飛ばされてしまい壁に叩きつけられた。


「カハッ……!」

「さて、次は――」

「ぬぅんッ!!!」

「おっと……お前は再起不能にしたはずだが」


 襲い掛かってきたダリオスの攻撃を避けたガイアラクスは冷静に分析する。


「ああ。聖女か。彼女の治癒で復活したのか。これは失敗した。先に聖女を殺すべきだったな」

「何をごちゃごちゃと!!!」

「お前の動きはすでに見切った。もはや、足止めにすらならぬ」

「ぐわッ!」


 ダリオスの攻撃を軽々と避けるガイアラクスは彼を殴り飛ばしてシエルを探す。すると、シエルはアリサを治癒しているところだった。

 回復したアリサが聖剣を構える。恐らくダリオスが戦っている間にシエルが拾って渡したのだろう。


「小賢しい……」


 回復役のシエルに盾役のダリオスに遊撃のアリサ。負けることはないだろうが、倒すのが少々面倒な組み合わせだとガイアラクスは大きく息を吐くのであった。


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