第132話 カルシウム足りてますか~?
ライとヴィクターの戦いが激しさを増した頃、シエルとカーミラが口汚く相手を罵りながら戦っていた。
「死ね、クソババアッ!」
「ぬぐぅッ!?」
シエルの鋭いストレートがカーミラの腹部を撃ちぬく。膨大な闘気で強化された彼女の拳はもはや兵器である。彼女が放った拳はカーミラの腹部を弾け飛ばした。
しかし、カーミラは吸血鬼であり、ライと同様に再生能力を持っている。それゆえ、シエルが放った拳はダメージこそ残ったが傷は完全に塞がった。
「再生能力が向上している?」
以前、カーミラと戦った時のことを思い出したシエルは彼女の再生能力が強化されている事に気がついた。
それと同時に疑問が生じる。なにせ、前回同様シエルの拳には神聖な闘気が宿っており、カーミラの再生を阻害するはず。なのに、今回はその様子が見受けられない。カーミラの再生速度はライと同じくらい速いのだ。これはおかしいと首を傾げるシエルにカーミラは襲い掛かる。
「小娘がッ! 調子に乗るではない!!!」
「ふッ! ハアッ!」
「ぐ、ぎッ!?」
飛び掛ってきたカーミラの爪を弾き飛ばして腕を掴むと、腰を捻り抱き込むようにしてシエルは彼女を地面へと叩きつける。そのついでと言わんばかりにシエルは掴んでいた腕を逆方向に曲げてへし折った。
「があッ!」
「ええい! どういうからくりかは知りませんが再生できなくなるまで痛めつければいい話です!」
「こ、このガキィッ!!!」
どうしてカーミラの再生能力が向上したのかは分からないが、とりあえず再生できなくなるまで痛めつければいいと判断したシエルだった。
そんなシエルの発言にカーミラは怒りを覚えて罵るが劣勢なのは間違いなくカーミラである。いくらカーミラが腹を立ててシエルを睨み付けようとも形勢は変わらない。
「喰らえ、必殺! 聖十字固め!」
「ぐがあああああッ!」
本気も本気、シエルはカーミラの靭帯を切るほどの力を込めて技を極めた。いくら再生するとはいえ、痛いものは痛いのだ。靭帯を強引に切られたカーミラは苦痛の悲鳴をあげる。
さらにシエルは容赦なく技を畳み掛ける。技を極めた状態で体を回転させると、カーミラの足を離して立ち上がり、倒れ伏すカーミラの上に圧し掛かる。そして、カーミラの顎を掴んで思い切り仰け反るように持ち上げた。
「へし折れろ!
「ぐぎゃあああッ!!!」
凶悪な技でカーミラの背骨をへし折るどころか、上半身をそのまま引き千切った。これにはカーミラも絶叫である。まさか、人間に、しかも聖女であるシエルに上半身を引き千切られるとは思いもしなかっただろう。
再生しても捕まっているので意味がないとカーミラは再生する前に霧へと変化してシエルの手から逃れる。これで下半身を再生することが出来る。カーミラは下半身を再生させてシエルを睨み付けた。
「恐ろしい小娘め……!」
カーミラは冷や汗をかいていた。以前戦ったときもそうだが、今回はさらに凶暴さを増しているシエルにカーミラは恐れ戦いている。前回以上に技の切れを増しており、尚且つ隙がなくなっていた。
前回はどちらかというと技術に対して体が追いついていないような感じであったのに、今はそれがない。それゆえに付け入る隙がないのだ。とはいえ、シエルは戦闘の経験はほとんどないので動きは直線的で読みやすい。
もっとも次の動作が読めるからと言って簡単にどうこう出来る様な相手ではない。
「言っておきますが、まだ私には40以上は必殺技があります!」
「4、40じゃと……!」
先程のような凶悪な技がまだ40以上もあると知ってカーミラは驚愕に震える。もしかして、その全てを自分にぶつけて来る気かとカーミラはシエルを見詰めていた。
当然である。シエルは一切容赦する気はない。
肉弾戦では分が悪いと分かったカーミラは魔法戦へと切り替える。近付かれなければ、先程のような技を食らうことはないだろうと思っているカーミラだが、考えが甘すぎた。
シエルは床に放り捨てていた聖杖ルナリスを拾い上げると結界を生み出す。そうすることでカーミラの魔法を防いだ。
「く……」
連続で魔法を放つがシエルの結界は破れない。それもそうだろう。今の彼女は他者の為にその身を酷使していた聖女ではない。己の為に、ひいては愛おしい者達を守るために彼女は力を行使する。
それが間違っているとしてもシエルはもう決めたのだ。己の信じるものこそが正義だと。たとえ、その選択が多くの者に批難されようともシエルは迷わないだろう。
「私はもう迷わない! ライさんの為に、アリサの為に! そして、私自身の為にも!!!」
「な、なんじゃと……ッ! 結界が広がって!? 不味いッ!」
シエルの思いに応えるように聖杖ルナリスが光を放ち、結界は大きく広がっていく。やがて、二人が戦っている部屋を覆いつくそうとしていた。
その事に気が付いたカーミラは慌てて退避する。直感で分かったのだ。あの結界に触れればただでは済まないと。
カーミラの直感は正しく、シエルが生み出した結界は魔を拒むだけでなく排除までするようになっていた。いくらカーミラが不死であろうと塵一つ残らず消滅してしまえば再生するどころではないだろう。
部屋の外へと逃げたカーミラは苛立ちが抑えられない。ライに仕返しを願っていたはずなのに、シエルに邪魔されるどころか消滅の危機にまで追い込まれているのだ。もう彼女のプライドはズタズタだろう。
「ぐ、ぐぐぐ……一体お前達は妾をどこまで怒らせれば気が済むのじゃ!」
「知りませんね! そもそも先に喧嘩を売って来たのはそちらです。自分達の事を棚に上げて腹を立てるのはお門違いではありませんか?」
「黙れッ!!!」
「図星だからと言って怒鳴り散らすのはどうかと思いますが。ああ、もしかして歳を取りすぎたせいでしょうか? 老人には頑固者が多いですものね」
見え透いた挑発ではあるが、ここまでコケにされてはカーミラも黙ってはいられない。
とはいえ、今のシエルには近づくことすらできない。忌々しいがどうすることも出来ないのだ。
もし、カーミラがもう少し冷静であればこの機に乗じてライの所へ向かえばよかったのだが、シエルの挑発にまんまと引っかかってしまった彼女にはその選択肢がなかった。
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