第131話 デバフ状態だけどリジェネで無効化だ
ダリオスとガイアラクスの戦闘も始まり、魔王城での最終決戦は激しさを増していた。その中でも、もっとも激しいのはライとヴィクターの二人が繰り広げる因縁の戦いである。
ヴィクターに家族を奪われ、故郷を滅ぼされたライ。魔王からの任務を受けて聖剣と魔剣を探し出したが、回収に失敗してしまったどころか、ライという人外の化け物を生み出してしまったヴィクター。
どちらもお互いに憎たらしい相手である。
「があああああああああッ!!!」
「おおおおおおおおおおッ!!!」
ヴィクターはドワーフによって鍛えられた大剣を巧みに使い、驚くべき事にライの魔剣と聖剣と打ち合っている。
恐らく、二振りの剣に近いものがあるのだろう。ドワーフが魂を込めて剣を作ったのなら魔剣に通じてもおかしくはない。
『よほどいい腕を持つ鍛冶士がいたものだな!』
『ええ。恐らくは魔界に住むといわれるドワーフでしょう』
『それ以外には考えられんさ。彼等は火と土を愛し、愛されており、手先の器用な種族だからな』
『彼等ならば、マスターの要望に答えてくれたでしょうか』
『さあな。だが、流石に破けても再生するような服はドワーフの技術を以ってしても不可能であろう……』
ブラドの言うとおり、いくらドワーフが物作りに精通していても破ければ再生するような服は作れない。悲しいが、まだドワーフにはそのような技術はないのだ。
戦闘に集中しているライは二人の声に反応することなく、ヴィクターと剣戟を繰り広げていた。
嵐のような応酬に目まぐるしく変わる立ち位置。二人は全力で相手を殺さんとばかりに剣を振るっていた。
「ぐ……ッ! ゲホッ……」
その途中でライは腐敗の呪いが発動し、激しい痛みと共に吐血する。ほんの僅かであるがライの動きが鈍る。その隙をヴィクターは見逃さなかった。
腐敗の呪いで僅かに生じた隙を狙ってヴィクターはライの攻撃を掻い潜り懐へと侵入すると魔法を放つ。至近距離からの魔法にライは障壁を張ろうとしたが間に合わず、ヴィクターの魔法を受けてしまった。
「ガッ……ハァ……!」
腹部に魔法を受けはしたが死にはしない。だが、風穴が開いただけでなく腐敗の呪いも相まってライは片膝をついた。呪いによって腐った体も魔法で焼けてしまった腹部もすぐに再生はするがライの精神を削る。
「フハハハハ! そういえばお前はスカーネルから呪いを受けていたな。すっかり忘れていたぞ。とはいえ、やはりお前は規格外だな。スカーネルから腐敗の呪いを付与されていてもそれだけ動けるとは……」
「ハッ。この程度どうということはない!」
「フ、そうだな。お前はそう言う奴だったな……。ならば、遠慮なく!」
片膝をついているライに容赦なく大剣を振り下ろすヴィクター。迫り来る大剣に対してライは迎え撃つように聖剣と魔剣を振り上げた。
不利な体制から放ったライの斬撃はヴィクターの大剣を押し返すが彼も以前とは違う。双剣を押し返していき、見事にライの肩口から腰にかけて叩き斬った。
「ぐぷ……ッ!」
聖剣と魔剣は折られていない。ライの力負けである。当然、手を抜いていたわけではない。全力で身体強化を施して迎撃したのだ。
しかし、負けた。ライの想像以上にヴィクターの力が以前より増していたのだ。それを見抜けなかったライの油断である。
斬られたライはそのままヴィクターに蹴られてしまい吹き飛んで床を転がる。すぐに再生を行うが、そうはさせまいとヴィクターが距離を詰めて大剣を振り下ろしてきた。
何度も受けるわけには行かないとライは横に転がるようにしてヴィクターの大剣を避ける。それからすぐに立ち上がり、再生を行いながらヴィクターへと迫る。双剣を握り締めてヴィクターへと飛びかかるライだったが、腐敗の呪いで僅かに狙いが逸れた。
「ぐ……くそッ!」
痛みには慣れているのだが、腐敗の呪いは厭らしい事に体内を腐らせる。足先や指先からジワジワと腐っていくのもあるが、まるで意思を持っているかのように的確に人体の急所を腐らせてくるのだ。
考えられないがスカーネルの怨念がそうさせてるのかもしれない。本当にスカーネルは最後の最後にとんでもない事をしてくれたとライは歯軋りをした。
「万全のお前であればこうもいい勝負が出来なかっただろうな! 悔しいが今のお前は俺よりも強い。だが、腐敗の呪いという足枷がある以上、お前に勝ち目は無い!」
「だから、どうした? いつだって俺は苦戦を強いられてきたんだ! この程度で俺が負けを認めるとでも? ハッ! 馬鹿を言うな! たかが呪い一つ! どうということはない!!!」
「く……!」
ライは力強い発言と共に魔力と闘気を爆発させて周囲を吹き飛ばす。殺傷力はたいしてないがヴィクターは後ろへ下がるしかなかった。
「どうした、ヴィクター! お前が言った事だろう! 呪いを掛けられた俺になら勝てるんじゃないのか!」
「……いいだろう! その言葉後悔するなよ!」
「それはこっちの台詞だ!!!」
再び剣戟を始める二人。先程以上の激しさを増しており、火花が舞い散り、鮮血が飛び散っていた。
ライは防御を捨てて攻撃に専念し、ヴィクターは激流の如く荒々しいライの攻撃を受け流し、時に反撃を行っていた。
「がああああああああああッ!!!」
「ぐ、ぬぅぅううう!!!」
手数は圧倒的にライの方が多い。双剣による乱舞はまさに竜巻だ。しかも、防御を捨てたライの攻撃は威力も速度も凄まじく、一撃でも受ければ致命傷は間違いないだろう。
それを懸命な表情で必死に捌くヴィクターも称賛ものだ。本来であれば大剣は一撃特化に優れた武器なのにヴィクターは巧みに操ってライの攻撃を捌いているのだから。
しかし、だ。ライの攻撃は凄まじくヴィクターがどれだけ弾こうと、受け流そうと全てを防げるわけではない。腐敗の呪いで鈍った所に反撃を受けてもすぐに再生をして襲ってくる姿は悪夢そのものだ。
魔人族の長として長い間戦い続けてきたが、ここまで理不尽な化け物をヴィクターは知らない。それこそ魔王ガイアラクスでさえもここまで非常識ではない。
攻撃こそ最大の防御というがライのそれは次元が違いすぎる。腕を切り飛ばして聖剣を手放しても即座に腕が再生して襲い掛かってくるのだ。これがどれだけ理不尽な事か。
それに加えて傷つけられる度に魔力を削がれ、奪われ、糧にされるのだ。一体どうやってライを倒せというのか。
それでもヴィクターは退くわけにはいかず、ライの攻撃を凌いでみせる。助太刀に来てくれるであろうガイアラクスが来るまで辛抱強く耐えるのであった。
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