第130話 慎重な性格なんだよ

 ライとシエルが各々因縁のある四天王と戦い始め、残されたダリオスとアリサはガイアラクスとサイフォスの二人と睨み合っていた。

 しかし、すぐにアリサがダリオスの前に出てサイフォスへと剣先を向ける。彼女は以前サイフォスと戦っており、決着が着かなかったのだ。つまり、彼女にとってサイフォスは因縁のある敵であった。


「ダリオスさん。私、アイツに用があるから」

「話は聞いているさ。存分に暴れて来い」

「話が早くて助かるわ。それじゃ、後は任せたから!」


 そう言ってアリサはダリオスに対して笑みを浮かべると、サイフォスに向かって力強く踏み込んで駆け出した。

 向かって来るアリサに対してサイフォスはドワーフに作らせた特注の双斧を構える。

 ぶつかり合う二人。聖剣と双斧が火花を散らせて轟音を響かせ、その衝撃でダリオスとガイアラクスの髪が揺れていた。


「サイフォスと互角に打ち合うか。話には聞いていたが、まさかこれ程とは」


 感心しているガイアラクスをよそに二人は、その場から移動するように戦い始める。広いホールのようになっており戦いに適した場所にはなっているのだが、ライやシエルは別の場所へと移動しているのを見てアリサも真似したようだ。


 もっとも、ライは他の誰かに気を遣ったわけではなく、ただ単に仇であるヴィクターを自身の手で倒したいからだ。そのため、邪魔そうなカーミラや魔王がいない場所へとヴィクターを吹き飛ばし移動したのだ。


「さて、自己紹介が遅れてしまったが、改めて名乗ろう。私はガイアラクス。今代の魔王であり魔族を率いる者である」

「そうか。お前が魔王か。お初にお目にかかり光栄だ。そして、世界の為にひいては人類の為に死んでくれ」

「ハハハ。断ると言ったら、どうするかね? 聖槌の勇者ダリオス」

「無論、叩き潰すまで」

「よろしい! であれば、我等に言葉は不要! 魔族と人類の生存を賭けた闘争を今ここに始めようか!」

「この長き戦いに終止符を打とう!」


 聖槌を構えたダリオスと魔斧槍ヴァイスを構えたガイアラクス。二人はお互いの陣営の代表ともいえる存在だ。その二人がついに相対する。残念なことはこの頂上決戦を誰も目にできないことだろう。


 両者武器を構えてお互いの出方を伺っており、どちらも動かない。睨み合いが続き、このまま時が過ぎるのかと思われていたがライ達の戦闘で魔王城が揺れた瞬間、二人は床を蹴ってぶつかり合う。


 聖槌と魔斧槍が激しくぶつかり合い、凄まじい衝撃波が二人の周囲を破壊した。傷一つない美しい部屋はもうボロボロだ。ライ、シエル、アリサ達三人の戦闘により穴が開いているのだが、そこへさらにダリオスとガイアラクスの戦闘で放たれた衝撃で完全に元の面影はない。


人間界こちらに来て私が丹精込めて造った城が無茶苦茶だ。どう責任を取ってくれる?」

「ふッ! 問題はないさ! 今日限りで解体が決まっているからな!」


 軽快なやり取りをして離れる二人だが、その内心は正反対であった。


「(ふむ……。凡その力は理解できた。やはり、私の敵ではないな)」

「(くッ……。流石は魔王といったところか。腕が痺れている……)」


 距離を開けた二人はお互いの技量を測っていた。魔王はダリオスは相手にならないと判断しており、対してダリオスは魔王が尋常ではない相手だという事を理解した。


 勿論、相手が強いからと言って負けを認めるようなダリオスではない。むしろ、闘志が燃え上がっていた。なにせ、久方ぶりの格上の相手だ。しかも、魔王という極上で敵の総大将。

 これで燃えないわけがない。かつてないほどの高揚感を覚えるダリオスは聖槌を握る力が強くなる。


「少しは最年長として威厳を見せねばな……」

「ほう? その口ぶりだとまだ隠し玉があるように聞こえるが?」

「そうだ。これは誰にも言ってないことだが、今ここに解放しよう」

「なに?」


 ダリオスが聖槌を床に突き刺すと大きく息を吸い込んで、盛大に息を吐いていく。


「はあああああああああッ!!!」

「ッ!?」


 部屋全体が揺れ始めて、やがて城全体が揺れ始める。その異常事態にガイアラクスは目を見開き驚いていたが、このまま静観していると不味いと思ってダリオスへ向かって魔斧槍を振り下ろすが、判断が少し遅かった。


「待たせたな。私もまだこれには慣れていなくてな」

「まさか、お前も黄金の闘気に覚醒していたのか!」

「ふッ。まだまだ若い者には負けてられんのでな!」

「ぬぅっ!!!」


 魔斧槍を聖槌で受け止めたダリオスはアリサと同じく黄金の闘気に覚醒していた。

 黄金の闘気を纏ったダリオスはガイアラクスを聖槌で大きく吹き飛ばす。後ろへ飛ばされるガイアラクスは空中で身を翻して着地すると、ダリオスへ鋭い視線を向けた。


「小賢しい男だ。よもや味方にも黙っていたとは」

「慎重だと言って欲しいな。お前の様に狡猾な者はどこに間者を仕込んでいるか分からないからな」

「なるほど。気が付いていたのか」

「ライの情報が詳しく帝都で出回っていれば誰だって気が付くさ。身内に敵がいると」

「それもそうか。しかし、先程の様子を見る限りではまだそれに慣れてはいないな?」

「それは己の身を以て確かめるがいい!」


 黄金の闘気を身に纏ったダリオスはガイアラクスへ向かって跳躍する。その勢いのまま聖槌を振り下ろしてガイアラクスを押しつぶそうとしたが避けられてしまい、床を粉砕するだけに終わってしまった。


「なんという破壊力だ……!」

「覚悟するがいい、魔王よ!」

「(ちッ……。これは思った以上に時間がかかってしまいそうだ)」


 当初の予定ではダリオスを軽く一蹴してヴィクターと共にライを倒しに向かう予定であったが、まさかダリオスが黄金の闘気に覚醒しているとは思いもしなかっただろう。今回ばかりはダリオスの作戦勝ちである。

 その事にガイアラクスは内心で腹を立てるのであった。

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