第129話 最終決戦の始まり
ライ達が魔王城へと足を踏み入れていた時、魔王ガイアラクスは玉座に座りながら俯いていた。そこへ部下の魔族が駆け寄り、四天王の帰還を告げる。
「陛下! 四天王ヴィクター様、サイフォス様、カーミラ様の三名が帰還されました!」
「そうか。分かった。お前はこれから魔王城に残っている仲間を連れて避難していろ。これから、この魔王城は戦場になる。恐らくだが、他の者に気を遣っている余裕などないからな」
「なッ……!」
ガイアラクスらしくない弱気な発言に驚きの声を上げる魔族だが、すでに四天王のスカーネルが討ち死にしていることを知っている。だが、それでも歴代最強と呼ばれている魔王が負けるとは思えない。
これまで長い間、無敗を誇っていたのだ。ならば、今回も負けることなどないだろうと信じたいが、
そう、ライという人外の化け物。四天王の一人であるヴィクターが魔王の命により魔剣と聖剣の探索途中に滅ぼした村の生き残り。そして、魔剣と聖剣と契約したという前代未聞の
さらに信じがたい事に魔剣と聖剣を進化させて、自身も成長中という頭痛の源でしかない存在。すでに四天王の三人を退けている実力を有しており、尚且つその魔力と闘気は現在も増大中という埒外の生物だ。
そのライが魔王城へ攻め込んで来ている。これに対して魔王軍が取れる行動は逃げるだけ。後は、ライを倒せる可能性を持つ四天王と魔王に委ねるしかない。
それを理解した魔族は下がって頭を下げる。
「しょ、承知しました。陛下、ご武運を祈っております」
最後の命令を遂行するために魔族は魔王城の中に残っている魔族へと声を掛けて、城の外へと避難するのだった。
玉座に残されたガイアラクスの元へ四天王の三人が久方ぶりに顔を見せた。三人はライに敗走してから魔界へと戻り、ドワーフに装備を作らせ、修行に励んでいた。
とはいえ、すでに成長限界が来ていた三人は劇的に強くなることはなかった。しかしだ、それでも以前よりは強くなっている。それこそ、ライと戦えるぐらいには。
「良く戻ってきてくれた」
「お待たせ致しました。して、ライの方は?」
「現在、こちらに向かって進行中だ。それと朗報がある」
「朗報とは?」
「ライはスカーネルによって腐敗の呪いをその身に宿している。つまり、奴は今もっとも弱っていると言っていい」
「おお……!」
「とはいえだ。こちらも準備不足なのは違いない。お前達、その装備は完全ではなかろう?」
「はい。急いで作らせたのですが……間に合いませんでした」
ガイアラクスの前にいる三人の装備はドワーフの匠が作り出した最高の物なのだが、いかんせん時間があまりにも無さすぎた。早急に作らせた結果、装備は不完全であった。ただ、唯一の救いは武器だけは完成していること。
「武器は問題なしか……。まあ、魔剣と聖剣にどこまで鎧が意味を成すか分からなかったから丁度いいかもしれぬな」
「まさにその通りだと思います」
「では、最後の戦いに行くとしようか」
「ここで待ち構えないのですか?」
「ハッハッハッハ。歴代の魔王の様に勇者を歓迎するのもいいが、古き習わしに従って負けるのは嫌なのでな」
「なるほど。わかりました。それでは、陛下と共に我等も勇者を迎え撃ちましょう」
「向こうの狙い凡そ分かっている。ライはヴィクターを狙うだろう。私は恐らくダリオスと戦うことになる。出来るだけ手短に片づけてライを狙うつもりだ。ヴィクター、それまで持ちこたえるのだぞ」
「はッ! 畏まりました」
流石にヴィクターもライの強さを理解しているのか「私が倒してしまっても構いませんか?」と聞かなかったのは賢明な判断だっただろう。出来る事ならガイアラクスはそのようなセリフを聞いてみたかったと思っているが、顔には出さなかった。
しかし、その目はどこか残念そうにヴィクターを見詰めていた。
勿論、ヴィクターも何故か残念そうな目で自分を見詰めているガイアラクスに気が付いていた。何故、そのような目で見ているのか気になったヴィクターだが問い質すことはしなかった。恐らく、ガイアラクスは心配してくれているのだろうと勘違いをしていたから。
実に悲しいすれ違いである。
それから魔王を含めた四人は階下へ降りていき、魔王城を駆け上がってきたライ達を鉢合わせる。
「お前等は……!」
「初めましてと言っておこうか。私は魔王ガイアラクス。この――」
「くそったれの口上なんてどうでもいいんだよッ!!!」
初対面である
想定内だったとはいえ、あまりの速さにヴィクターは目を見開いて驚いた。
「ぐッ! お前は人の話を聞くことをしないのか!」
「お前等の話なんぞ聞いてられるか! どうせくだらないことなんだからな!」
「く、ぬぅ!」
「ぶッ飛べー--ッ!!!」
「ぐわああああああああッ!」
力の限りライは聖剣と魔剣を振りぬいてヴィクターを吹き飛ばす。そのままライは吹き飛んでいくヴィクターを追っていく。
残された三人はどうするのかと思われたが、カーミラがライに傷付けられた恨みを晴らすために追いかけようとするのだが、それをシエルが許さない。
「させません! 貴女の相手は私です!」
「またお前か! 妾はライしか眼中にない!」
「なんですか、それ! まさかライさんの事を狙ってるのですか!」
「馬鹿を言うな! あ奴は妾の美しい顔に傷をつけたのじゃ! 決して許しはせぬ!」
「まだそんなこと引きずってるんですか! 貴女もしつこい女ですね!」
「なんじゃと小娘が!」
「はあ!? だったら、貴女はクソババアです!」
「な、な、なんじゃと!!! 妾のどこを見てクソババアと言っている!」
カーミラは吸血鬼の女王であり、ほとんど人間に近い容姿をしている。そして、本人も言っている通り、彼女は美しい。それこそ、絶世の美女と呼べるような部類に入るくらいだ。
しかし、その年齢はシエルからすれば老婆と呼んでもおかしくない年齢である。何十年どころか何百年と生きているのだから当然であろう。
「だって、なんか古臭い喋り方してますし!」
「これは素じゃ!」
「でしたら、生まれた時からお歳を召してたんですね!」
「こ、この小娘が! いいだろう! まずはお前を引き裂いて魔物共の慰め者にしてやる!」
「やれるものならやってみなさい! もっとも、その前に私が貴女を倒しますけどね!」
「ほざけ、小娘ッ!!!」
まんまと挑発にのったカーミラはシエルに向かって襲い掛かる。シエルは襲い来るカーミラに向かって拳を握り締めて迎え撃つのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます