第128話 舐めプすると手痛いしっぺ返し喰らうよね

 スカーネルの首を刎ね飛ばしたライは尋常ではない魔力が体内に流れ込んでくるのを感じた。恐らく、スカーネルが持っていた魔力だろう。流石は四天王だ。今までの比ではないとライは感心している。

 すると、首を刎ねたスカーネルはまだ息があるようでライに向かって高笑いをして叫んだ。


「キヒヒヒヒヒヒヒヒッ! ライ! これでお前はお終いだ!」

「なに?」


 謎の自信にライが首を傾げていると、スカーネルの死体から黒いもやが出てくる。何やら不気味な雰囲気であるがライは気にせずに聖剣で切り払おうとした。

 しかし、黒い靄は斬り裂くことが出来ずにライの体内へ侵入する。その事に驚いたライは咄嗟に黒い靄から距離を取るが既に遅い。黒い靄は全てライの体内へ侵入してしまった。


「これは一体!?」

「キヒヒ! 冥土の土産に教えてやろう! お前の体内に入った黒い靄は私の命を対価にした呪術だ! もはや、お前は助からない! 手足が腐り落ち、最後には苦しんで死ぬのだ! キヒヒヒヒヒ――」


 まるで勝ち誇ったように笑うスカーネルは跡形もなく消えていく。


「ゴフッ……! これは」


 突然の吐血にライは地面に片膝を着いた。激痛が全身を襲うが、立てないほどでもないのでライは立ち上がる。立ち上がったライに焦った声を出すブラドはその症状をよく知っていた。


『主! これはまさか腐敗の呪いか……』

「知ってるのか?」

『うむ。この呪いは先程奴が言っていた通り、体が腐って最後には死ぬ呪いだ』

「解けるのか?」

『いいや、無理だ。術者本人が命を賭して掛けた呪いは決して解けぬ……』

「……俺は再生するけどダメなのか?」

『再生はするが……腐敗の呪いは解けぬ。つまり、奴の言う通り、主は未来永劫苦痛を味わうことになる。いや、最悪命を落とすやもしれぬ』

「…………そうか」


 ここに来てまさかの事態である。ライに腐敗の呪いが掛けられ、弱体化をしてしまった。勿論、劇的に弱くなったわけではないが、それでも先程までと同じではないだけは確かだ。


 最後の最後にとんでもない置き土産をしていったスカーネル。四天王としての最後の意地なのか、それとも自身の矜持か。どちらかは分からないが最高の仕事をしたと言える。少なくとも魔王は手放しでスカーネルを褒め称えるだろう。


「……ブッ」

『マスター!?』

「こりゃ、やばいな。油断してたら血を吐くわ」

『どうする主? 流石に呪いを受けた状態では……』

「ここまで来たんだ。今更、退けるかよ。それにだ、復讐もある意味呪いみたいなもんだ。仇を討つまで決して止まらない呪いだよ。だから、俺はこのまま魔王城へ突入する。そこにヴィクターと魔王がいるからな」


 もう目と鼻の先にある魔王城。ついにここまでやって来たのだ。後は仇を討つだけ。ならば、今更引くことなど出来ようはずがない。たとえ、死ぬような呪いを受けたとしても立ち止まりはしない。


 ただ、一つだけあるとした後悔だけだ。


 皮肉にもスカーネルが言ったようにライは後悔していた。復讐を果たすことが出来ても、アリサとシエルの愛する二人との未来は完全に閉ざされてしまった。


 それだけがどうしても悔やんでも悔やみきれない。


『二人にはどう説明するつもりだ?』

「……全部終わってから考えるよ」

『それでは遅いと思いますが……』

「どうなるか分からないんだから仕方がないだろ。二人に話したら止められるかもしれないし」

『それは……』


 無いとは言い切れない。ライが腐敗の呪いといういずれは死ぬかもしれない呪いを受けたことを知った二人が何をするか分かったものではない。

 もしかしたら、シエルが解呪出来るかもしれないがスカーネルが命を賭して掛けた呪いだ。そう簡単にどうにか出来るようなものではないだろう。


『物は試しに解呪を願ったらどうだ?』

「それもありだが、ダメだった場合の事を考えると……」


 もしも、シエルでも解呪に失敗したらそれこそ目も当てられないだろう。試さない限り分からないが、最後の戦いの前に士気が落ちるようなことはしたくないのだ。


『では、黙っているのですか?』

「それが最善というわけじゃないけど……それ以外にないと思う」

『そうか……。ならば、我等はこれ以上何も言わない』

『私達はマスターの意思を尊重します』


 本当は可能性が少しでもあるのならシエルに解呪を頼んで欲しかった二人だが、ライの意思が固い以上もう何も言えない。だから、二人はライの選んだ選択が最善であることを祈るしかなかった。


 それから死霊の群れが完全に消えたことで勇者達がライの元へと集う。当初の手筈とは違うが、ほぼ目的は達成できた。これで魔王城へ攻め込むことが出来る。

 しかも、ライ以外はほとんど無傷に近い上に体力も消耗していない。まさに最高の結果と言えよう。


「ライ、行けるか?」

「ええ。いつでも」


 ダリオスがライに確認を取ると、彼は他の勇者へと顔を向けて指示を出す。


「アル、ヴィクトリア、クロイス。お前達三人は当初の作戦通り後方で待機していてくれ」

「わかりました」


 三人の返事を聞いたダリオスはライとシエル、アリサへ顔を向けると魔王城へ聖槌を向けた。


「それでは、これより最後の戦いへ赴く。この長き戦いに終止符を打つぞ!」

「おう!」

「はい!」


 ダリオスを先頭に四人は魔王城へ突撃するのであった。

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