第127話 敗因は怒らせたこと

 両親をアリサとシエルの二人に任せたライはスカーネルを倒す為に走っていた。死霊を斬り裂き、魔力を回収しながらライはスカーネルとの距離を詰めていく。

 対するスカーネルは最早死霊ではライに魔力を与えるだけで、何の役にも立たないと見切りをつけて、死霊の大群を消滅させて自身の魔力へと変換したのだった。


『どうやら、敵は主に魔力が奪われないようにしたらしい』

『これ以上強くなられると困るからでしょう。すでに手遅れですが』

『うむ。もはや、主を止める手立てはないだろう』


 スカーネルは召還した死霊に与えていた魔力を自身の強化へ回し、ライを迎え撃つための準備を整えた。


「さあ、かかって来い!」


 大地を駆けるライは魔王軍の陣地へ踏み込み、スカーネルの姿を確認すると跳び上がる。そして、足場に障壁を展開して上空を駆け抜けた。

 そこへスカーネルは迎撃の魔法を唱える。ライがこちらに向かって真っすぐ飛んでくると所へスカーネルは魔法を放った。


「消し飛べッ!!!」


 放たれるのは極大の閃光。スカーネルの手から放たれた閃光はライを飲み込む。

 完全にライの姿は消えてなくなったかに見えたが、消えてはいない。消えたのはライの残像で、彼は目にも止まらぬ速度でさらに上空へと移動していた。


「死ね、スカーネルッ!!!」


 隕石の様にライはスカーネル目掛けて落下していく。それを見たスカーネルはここが好機と言わんばかりに口角を釣り上げて叫んだ。


「馬鹿め! 真っすぐ突っ込んできてくれるとはな! 死ねェッ!」


 落下してきているライへ向かってスカーネルは連続で魔法を放つ。それこそ、どこにも逃げられないように夥しい数の魔法を。

 流石にライも回避は不可能と判断して聖剣と魔剣で魔法を斬り裂く。普通なら障壁を張ればいいのだが、完全には防ぎきれないと判断した結果だ。ライは飛来する魔法を双剣で斬り裂くが全てを斬り裂くのは不可能だった。


 夥しい数の魔法がライに直撃する。数えきれないほどの爆音が上空に鳴り渡り、爆炎がライを包み込んだ。


「キヒヒヒヒヒッ!!! 大口叩いてた割には呆気なかったな!」

「お前は今まで俺の何を見ていた?」

「キ、ヒッ!?」


 爆炎の中から飛び出して来たのは鎧が砕け散ったライ。ほとんど丸裸の状態のライは高笑いをしていたスカーネルへ飛び込み、片腕を斬り飛ばした。


「ギャアアアアアアアッ!!! わ、私の腕がァッ!」

「片腕くらいでピーピー騒ぐなッ!」

「ぐぎゃああああああッ!」


 片腕を失い苦痛に叫んでいたスカーネルをライは蹴り飛ばした。吹き飛ぶスカーネルは苦悶の表情に満ちていた。今の今まで蹂躙する側にいたはずなのに、一体どうしてこのような事になってしまったのだろうかと疑問を抱きながら倒れ伏す。


「俺は言ったよな。お前はこの手で八つ裂きにしてやると。楽には殺さん。自分が何をしたのかを理解させてやる。そして、後悔しながら死んで行け」

「ぐ……! 舐めるな、小僧! 私は魔王軍四天王が一人スカーネル様だぞ。片腕を斬り飛ばしたくらいでいい気になるなよ……!」

「はッ! 滑稽だな。今更強がっても何の意味もねえよ!」

「く……ッ!」


 まさにその通りだ。今更、虚勢を張ったところで何も感じない。ただの悪あがきにしか見えない。もう四天王の威厳も何もない。


 あるのはたった一つ。


 殺意だけだ。


 ライはスカーネルに対して殺意以外何も感じていない。ただ、目の前の邪悪を殺すことしか眼中になかった。両親を弄んだ罪を償わせるためにライは強く踏み込んでスカーネルへ距離を詰めた。


「ッ……!」

「次は左だ」

「それは予測していた!」


 後ろへ跳ぶスカーネルは左腕を斬り裂かれそうになるが、次は左を斬られると予想していたので対策を行っていた。

 魔剣がスカーネルの左腕に触れる否やという所で氷の盾で現れて斬撃を阻んだ。これが障壁だったならば障壁ごと斬り裂けたのだが、流石に学習していたようでスカーネルは物理である氷の盾で防いだのだった。


「小賢しいッ!」


 氷の盾で防がれようとも関係なしにライは魔剣を振り抜き、スカーネルを吹き飛ばした。死霊術士で魔法使いのスカーネルは骨と皮しかない。とても軽いのだ。

 そんなスカーネルはライの一撃によって魔王軍陣地から大きく吹き飛ばされていく。浮遊の魔法を使い空中に制止するが、そこへライが突っ込んでくる。


「その何度も同じ手を喰らうか!」


 ライの進行方向上に土の壁を作り出して無理矢理止めるが、彼はそのようなものでは止められない。ライは土の壁を聖剣で突き崩すと、そのままスカーネルへと突っ込んだ。


「どうやったらお前は止まるのだ!」

「お前等全員死んだ時だ!」

「ぐぅ! 己ェッ!!!」


 残った左腕を突き出して炎の魔法を放ち、雷の魔法を放ち、風の魔法を繰り出すがライにはもう意味がない。捨て身の特攻へ切り替えたライは急所だけを守って魔法を受けてスカーネルへと距離を詰めた。


「なッ!? ここに来て捨て身の特攻だと!」

「忘れたか! 俺が再生能力を持っていることを!」


 このままでは殺されると思ったスカーネルはなりふり構わず魔法を放つ。土の魔法で自身とライを分断する。


「なに!?」

「ぐがぁッ!」


 スカーネルは自身の魔法でダメージを負ってしまったがライから逃れることが出来た。それだけで十分だろう。多少のダメージなど死ぬことに比べれば些細なものだった。


「ふぅ、ふぅ……!」

「そこまでの覚悟があったとはな! だが、死ぬことには変わらん! その命、今度こそもらい受ける!」

「やってみるがいい!」


 どちらが悪役かわからないような会話だ。まあ、それも仕方のないことだ。ライは復讐の旅に出ており、その逆鱗にスカーネルが容易に触れてしまったのだ。ゆえにライが怒り狂い、言動が凶暴なものになるのも仕方がないだろう。


 浮遊の魔法を使って空へ逃げたスカーネルは上空からライへ向かって魔法を放つ。しかし、ライには当たらない。雨の様に降り注ぐ魔法をライは搔い潜ってスカーネルへ向かって跳び上がった。

 迫り来るライから距離を取ろうと飛行速度を上げてスカーネルは逃げるが、それをライが許さない。以前の様に魔力や闘気が底を尽きていればまだ分からなかったが、ほぼ万全の状態に近いライから逃げることは出来なかった。


「化け物めッ……!」

「お前等を殺せるなら俺は化け物でも何でもなってやるよ。だから、死ね!」


 背後から襲い来る斬撃をスカーネルは障壁を何重にも張ってなんとか防いだ。とはいえ、何重も張った障壁を破壊されてしまい、地面へ叩きつけられる。


「うぐぅ……ッ!」


 地面に叩きつけられたスカーネルの傍にライが下りてくる。ライはこれ以上、時間を掛けると邪魔が入るかもしれないとスカーネルへ近づき背中に魔剣を突き刺した。


「ぐわああああああああッ!!!」

「喚くな。鬱陶しい」

「ぐぎッ!」


 激痛に叫ぶスカーネルの顔面を蹴り飛ばすライは手首を捻って魔剣を捩じった。さらなる痛みがスカーネルを襲い、彼は苦悶の表情を浮かべて再び叫んだ。


「があああああああッ!!!」

『主よ、それ以上はもういいだろう』

「は? こいつは父さんと母さんを弄んだんだ。まだ足りねえよ」

『仰ってることは理解できます。しかし、これ以上は時間の無駄かと……』

「ま、それもそうか」


 魔剣を抜いてライはスカーネルに止めを刺そうとする。しかし、その時スカーネルが命乞いをするのかと思いきや、突拍子もない事を口にした。


「いいのか。私を殺せばお前は未来永劫苦しむことになるぞ!」

「遺言はそれだけか」

「後悔するぞ!」

「少なくとも俺の気が晴れるならいいさ」

「や、やめろー----ッ!」


 残っていた四肢をライは斬り飛ばしてスカーネルの首を刎ね飛ばしたのだった。


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