第122話 予想外

 戦場を駆け抜けるライはシュナイダーと共に死霊の大群へと突っ込んだ。聖剣と魔剣を振るい、死霊を切り裂いた瞬間、予想外の事態がライを襲う。死霊を切った瞬間、爆発したのだ。


 後方で見守っていた勇者一同は驚愕に目を見開く。今の今までそのようなことなど無かったのに、どうしていきなり爆発したのかと。爆炎に飲み込まれたライを見て全員が息を呑んだ。果たして、ライは無事なのかと。


「死霊って爆発するのか……?」

『いや、そのようなことはない』

『これは敵の罠でしたね。恐らく死霊に魔法を埋め込んでいたのでしょう』

「殺されると同時に爆発するような魔法をか?」

『ふむ、それなら確かにあり得るかもな』

『推測でしかありませんが可能性は高いと思います』


 爆炎の中から無傷のライが出てくる。ライは爆発する瞬間に結界を周囲に張り巡らせて爆炎を防いだのだ。

 爆炎の中から無傷のライを見て後方で見守っていた勇者達はホッと息を吐く。無事でよかったと。

 同じく、魔王軍の陣地で結果を見ていたスカーネルは不気味そうに笑みを浮かべていた。


「キヒヒ。流石にあの程度では死なんか」


 死霊に仕込んでいた爆発魔法は問題なく発動したが、やはり発動までの時間に防がれてしまった。しかし、それは想定内。本当の狙いはライの闘気と魔力の消耗だ。


「キヒヒヒヒ。さあ、どうする。お前の前にいるのは全て私が作った死霊達だ。全部殺せるかな?」


 魔王軍陣地からスカーネルが不気味な笑みを浮かべながら、死霊達をどう攻略するのか見ていた。


「シュナイダー。ここからは俺一人で行く」


 今のシュナイダーならば問題はないがライと違って無尽蔵に戦えるわけではない。それゆえにライは一人で戦うことを決める。

 シュナイダーは主の言う事を聞いて陣地へと戻るが、その前にライの背中を鼻で突いた。


「ん。ああ、ありがとう。俺は大丈夫だ」


 シュナイダーに背中を押されたライはゆっくりと死霊達の方へ向かって歩く。そして、徐々に加速し、全速力で駆け出した。


「一つ!」


 手前にいた死霊の首を刎ねると、その瞬間爆発が起こる。だが、爆発が起こるまでの僅かな時間でライは離脱する。爆風こそ避けられないが爆発の衝撃は避けることが出来た。


「二つ、三つ、四つ!!!」


 それからライは次々と死霊の首を刎ね飛ばしては前に進んでいく。何度も爆音が戦場に鳴り響き、爆炎が舞い上がる。しかし、ライには傷一つつかない。

 圧倒的な速度スピードに死霊達は追いつかず、爆発も意味を成さない。これにはスカーネルも予想外であろう。そう思われたが、スカーネルは平然としていた。むしろ、もっと前に踏み込んで来いと口の端を釣り上げていた。


「キヒヒ。そうだ。それくらいは最初から予想していた。もっとだ、もっと踏み込んで来い! それがお前の最後だ」


 どうやら、スカーネルにはまだ秘策が残っているらしい。よほど自信があるように見える。一体、スカーネルはどのような秘策を用意したというのか。


「おおおおおおおおおおッ!!!」


 爆音を耳にし、爆炎を背景にしながらライは魔王軍陣地へと向けて踏み込んでいく。その際に大量の死霊を葬りながら。おかげで魔力は順調に増えていき、これだけの魔力源を用意してくれた敵に感謝をしているくらいだった。


『凄まじい速度で魔力が増えていくな』

『今のマスターからすればのろまな死霊は格好の的でしょう』

『しかも、これだけの数か……』

『天井知らずですからね。際限なく増えていきますよ』

『敵には同情してしまいそうだな』


 一切止まることなくライは死霊を斬り裂きながら、先へ進んでいく。それが罠だと知らずに。


 大分敵陣深くまで進んだライは、いつの間にか死霊の大群の中心部に来ていた。

 無我夢中で戦っていたライはその事に気が付くことなく、今も死霊を相手に奮闘している。獅子奮迅の活躍を見せているライに連合軍側は息を呑んでいた。


 アレが白黒の勇者。人類の希望。そして、切り札。


 まさにその名前の通りだ。たった一人で万を超える死霊の群れに突撃しただけでなく、魔王軍の卑劣な罠にも恐れず、果敢に戦う姿に連合軍の兵士達は尊敬の念を抱いていた。


 しかし、そう都合よくはいかない。


 戦っていたライはピタリと動きを止めてしまった。一体何があったのかと誰もが見守っていた中、ライは一人困惑していた。


「そんな……なんで……」


 目の前にいるのはライの両親。勿論、生前のような姿ではない。スカーネルによって死霊アンデッドに変えられてしまったおぞましい姿をしている。


「キヒヒッ! 止まったな! 足を止めたな、ライ! それがお前の最後だ!!!」


 見事に作戦が決まったスカーネルは嬉しそうに笑い声をあげて、最後の仕上げを施した。


「なにッ!?」

『これはッ!』

『罠ですか!』

「くそッ!!!」


 両親の死霊を見て動揺に固まっていたライの足元に魔方陣が浮かび上がり、そこから黒い鎖が飛び出してライを拘束したのだ。

 両手両足と首に巻きついた鎖。必死に外そうと藻掻くライだったが、力が抜けていくのを感じる。


「なんだ……! 力が抜けていく!?」

『これは魔力を吸い取ってるのか!』

『不味いですよ、マスター!』

「わかってるけど……!」


 吸収していた魔力がどんどん鎖に吸われていき、力を失っていくライ。悔しそうにライは歯を食いしばる。この為に死んだ両親を弄んだのかと。

 ああ、確かに効果は覿面だった。だがしかし、それと同時にスカーネルは禁忌に触れてしまった。ライの復讐心という名のどす黒いいかりに。


「許さん……許さんぞッ! スカーネルゥゥウウウウウウウッッッ!!! お前は必ずこの手で八つ裂きにしてくれる! よくも、よくも俺の父さんと母さんを弄んでくれたな!!! 覚悟しておけ!!!」


 怒号を上げるライの足元から冷気が立ち昇る。そして、鎖を引き剥がそうとしていたライを氷が包み込んだ。全身が氷に覆いつくされたライの顔は憤怒の表情に満ちている。

 それを見ていたスカーネルは体が仰け反るくらい大笑いを上げた。


「キヒヒヒヒヒッ!!! 無駄無駄! その氷は決して解けない! お前の魔力を利用してお前が死ぬまでは決して解けない! もうお前に両親の仇を取るのは一生不可能だ!」


 さらに念には念を込めてと言わんばかりに氷漬けになったライを地中深くまで埋めていく。これで完全にライは動きを封じられてしまった。

 その光景を見ていた連合軍は嘆き悲しんでいたが、勇者達は怒りに満ちていた。特にアリサとシエルの怒りは凄まじい。


「ライを助けに行くわ」

「私も行きます」

「クロイス! 出来るだけ死霊の数を減らしてくれ! あの死霊の群れは攻撃を受けると爆発する仕組みになっている!」

「了解!」

「ヴィクトリア、アル! 露払いを頼む!」

「了解しました!」

「はい! 分かりました!」

「全員出るぞ!!!」


 想定外の事態により、勇者全員が出撃することになった。アリサとシエルの二人が真っ先に飛び出し、ライが埋まっている地へ向けて突撃する。

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