第120話 両陣営の様子
勇者達が最前線へ辿り着いたころ、魔王軍の方は慌ただしくなっていた。勇者が全員最前線へやって来たのだから当然であろう。一匹の魔族が魔王へ報告を行っていた。
「陛下! 大変でございます! 勇者達が集結しました!」
「ライも含めてか?」
「はい!」
「そうか。ついにやって来たか……。現在出撃出来る四天王はいるか?」
「すでにスカーネル様が出陣なされました」
「そうか。ならば、スカーネルには最大限時間を稼ぐように伝えろ。他の四天王が来るまでは徹底的に相手を妨害するように伝えるんだ」
「はッ!」
魔王ガイアラクスの命を受けて魔族はスカーネルの元へ急ぐ。魔王軍陣地の最前線へ来ていたスカーネルの元へ辿り着いた魔族は魔王からの命令をスカーネルに伝える。
「スカーネル様。陛下よりご命令です。人類連合軍の妨害に徹せよとのことです」
「キヒ、そうか。わかったと伝えておけ」
「はッ!」
天幕にいたスカーネルは立ち上がり、物見台へと向かう。そこから見えるのは人類連合軍の陣地。流石に勇者まで見ることは出来ないが、連合軍が活気付いているのは視認できた。
「キヒヒ……! 面白い。白黒の勇者ライ。お前さえどうにかすれば、こちらの勝利は確実だ」
狙うはライの一人のみ。現在、魔王軍にとって一番の脅威がライだからだ。他の勇者も厄介ではあるが所詮は人である。数で押せば、いずれ限界が来るのは目に見えている。
しかし、ライだけはその未来が見えない。魔剣と聖剣が今や同じものとなってしまい、どちらも脅威なのだが一番は吸血鬼の女王であるカーミラ以上の再生能力であろう。
不死身の戦士であり、魔力を敵から吸収し、無尽蔵に戦える人外の化け物。
それが魔王軍がライに下した評価だ。しかも、その強さは四天王に匹敵する。もはや、止められるのは魔王のみだ。とはいえ、四天王も強化されている。一筋縄ではいかないはずだ。
「キヒヒ……さあ、いつでも来るがいい。こちらは準備万端だぞ」
ライを迎え撃つのは死霊族の長スカーネル。
◇◇◇◇
一方で人類連合軍はというと、かつてないほどの高揚感に包まれていた。なにせ、勇者が全員集結しただけでなく、噂の新たな勇者ことライに加えて聖女シエルの参戦だ。
奇跡の聖女に新たな勇者の参戦。嬉しくないわけがない。一気に希望が見えてきた連合軍の士気は最高潮である。
「これだけ喜ぶなんて……」
「まあ、腐ってもシエルは唯一の治癒士だから、当然でしょ」
「腐ってもは余計です!」
「余計じゃないでしょ! あんた、どれだけ神様からの教えを破ってんのよ!」
「…………破ってませんよ? 私が信仰している主は右頬を
「アンタ、今考えたでしょ!!!」
「咄嗟に考えたには結構それらしいけどね」
「ですよね! ライさんも入信しませんか!?」
「やめなさいよ! そんな物騒な宗教なんて私が潰すからね!」
「ですが、私の中ではアリサは聖女候補ですが……」
「え? 私が聖女……?」
少し想像してしまうアリサは悪い気はしなかった。聖女様と持て囃されるのも悪くないかと考え込んでしまうアリサ。だが、忘れてはいけない。シエルが考えている宗教は間違いなく野蛮そのもの。
そこの聖女となれば、まあ暴力聖女と呼ばれることは間違いなし。恐らくだが、歯向かう者には一切容赦しないステゴロ聖女待ったなしだ。
「なあ、アリサ。そこの聖女になっちゃうと暴力聖女とか言われるようになるんじゃないか?」
「はっ!?」
ライに言われて気が付いたアリサは危うく騙されるところだったとシエルに詰め寄る。
「アンタ、私を騙そうとしたのね!」
「で、でも、似合ってると思いませんか? アリサが暴力聖女って」
「主は仰ったわ。目の前の邪悪を打ち倒せと」
「そんなこと言ってませんよ! 出まかせを言うのはやめてくださいッ!」
「どの口がほざく! 喰らえ、怒りの鉄拳制裁!!!」
「うきゃあッ!!!」
ゴンっとアリサの鉄拳がシエルの頭部に落とされた。戦いの前に何をやっているのだろうかと呆れてしまうが、ここは三人の為に用意された天幕なので誰も見てはいないので問題はない。
大きなたんこぶを作ったシエルはこれ見よがしにライへすり寄り、アリサに殴られた頭を慰めて貰おうとした。
「ライさ~ん。アリサが殴ってきました~。痛いです~」
「よしよし……」
今回は明らかにシエルの方に非があるのだが、可愛い彼女が慰めてほしそうにしているのでライは優しく頭を撫でた。
「えへへ~」
転んでもただでは起きない聖女シエル。このような姿を兵士達が見たら発狂ものだろう。慈愛に満ちて、老若男女問わず、癒してくれた聖女が見せてはいけないような顔をしている。
「もう一発必要なようね!」
「ひえッ!」
「ちょっと! 何、ライの後ろに隠れてんのよ!」
「だって、アリサが怖そうな顔をするから!」
「誰のせいでこうなったと思ってるのよ!」
「わ、私の所為だって言うんですか? 元々じゃないんですか?」
「そう、シエル……アンタ、喧嘩売ってるのね。そういう事よね?」
「ち、ちがいますよ! 手をボキボキと鳴らしてこっちへ来ないでください!」
「問答無用! アンタの性根を叩き直してやるわ!」
「くぅ! こうなったら、返り討ちにしてやりますよ!」
やられる前にやれとシエルがアリサに襲い掛かった。ドッタンバッタンと繰り広げられる二人の戦いにライは苦笑いである。
「喰らえ! 必殺の聖女チョップ!」
「馬鹿ね! その程度の技を受けるアリサ様じゃないわ!」
「そんなバカな!?」
華麗なステップでシエルの手刀を避けたアリサは一度距離を取って走り出した。
「お返しよ! 受けてみなさい! アリサボンバー!」
「ぐええッ!」
勢いよく突撃してきたアリサの腕に抱きこまれるようにシエルは倒れた。
『聖女が出していい声ではないだろう……』
『ふふ、まあいいではありませんか。二人とも楽しそうですし』
「(楽しいのかな、アレ……)」
シエルが倒れたことによりアリサが両手を突き上げて勝利を確信していたら、倒れたはずのシエルが起き上がり、アリサの腰へタックルをする。
背後からの奇襲にアリサは成す術もなく倒されてしまう。そこへすかさずシエルはアリサの足を両脇に抱えて技を決める。
「新必殺! リバースセイント固めッ!」
「あががががッ!」
『おお~、見世物と考えれば中々面白いものよな』
『いいですね~。シエルも逞しくなりました』
「(エグイって!)」
とはいえ、シエルも本気ではない。ある程度したらアリサの足から手を離した。
すると、アリサが立ち上がり、シエルへ掴みかかる。負けじとシエルもアリサと組み合う。
「ぐぎぎぎ!」
「こんのぉ!」
恐らく二人は
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