第114話 昔話に花が咲く
シエルの爆弾発言のせいで話が逸れてしまったが、本題へと移る。
ダリオスが場の空気を整える為に、一度咳払いをしてから話し始めた。
「ゴホン。さて、ライの自己紹介が終わった事で本題へと入ろう。まず、ライから聞いた話によると四天王はヴィクター、カーミラ、サイフォス、スカーネルという名前だそうだ。それぞれの種族はヴィクターが魔人族、カーミラが吸血鬼、サイフォスがゴリラの獣人だそうだ」
「スカーネルの種族は?」
「クロイスの質問だが、ライも知らないそうだ。しかし、話を聞いた限りではスカーネルはどうやら死霊軍の長らしい。魔法陣からゾンビトロールをライ達の前に召喚したそうだ」
「へえ~。あの臭くて鬱陶しい死霊軍の長ね。本人の実力は未知数なんですか?」
「そうだ。一応補足しておくと、ライは四天王と渡り合える実力を持っているぞ」
「嘘!? マジかよ! どれくらい強かった?」
驚くクロイスはライに顔を向ける。四天王は一体どれだけ強かったのだろうかとクロイスの眼差しが物語っていた。
「その……俺は勇者全員の実力を知らないのでどれくらい強かったかは分かりません」
「その質問は私が答えるわ」
「え? なんで、アリサが? もしかして、お前も!?」
「ええ、そうよ。四天王のサイフォスと戦ったわ。はっきり言わせて貰うけど、この中だったらダリオスさんくらいしか四天王と戦えないわ。それだけ実力差があるってこと」
「おいおい、マジか……」
「私達が想像していた以上に魔王軍は強大な組織だったってことよ」
「じゃあ、どうするんだ? 今回、全戦力を投入するって話だけど……」
「その点についてだが、俺とライ、アリサ、シエルの三人で魔王城へ向かおうと考えている」
「はい? 俺の聞き間違いですかね? なんか聖女シエル様も戦力に数えてるような気がするんですけど……」
「そうだ。クロイスはまだ知らないだろうが、今やシエルは勇者に比肩するほどの実力を有している」
「わ~お……! 今日は何回驚かされればいいんですかね。アリサは初代勇者様と同じ黄金の闘気に覚醒していて、聖女シエル様が勇者に並ぶ実力者。そんで極めつけは白黒の勇者ライ。心臓がいくらあっても足りないくらい驚きますわ」
もうお腹一杯という感じでクロイスは呆れたように笑っていた。一応、最前線で戦っている時、帝都から手紙で色々と聞かされていたが、それ以上の情報量にクロイスは驚くばかり。
「それで具体的な作戦は決まってるんです?」
「こちらとしては俺達四人をお前達三人に援護してもらって電撃作戦でいこうと考えている」
「なるほど……。確かに機動力と突破力ならヴィクトリア、アルの二人が適任ですね。それで俺が後方から支援なら万全という感じですか……」
「ああ。だが、敵もそう簡単には本陣へは進ませてくれないだろう」
「そりゃそうでしょうね。それにいつまでも向こうが大人しいとは限りませんし」
「うむ。だから、今回の作戦決行日は一週間後と想定している」
「ふむ。つまり、明日から移動ってことですか」
「すまんな。帰ってきたばかりのお前達には無理を言って」
「別に構いませんよ。そんなに疲れも溜まってませんから。なあ、アル」
「そうですね。魔王軍が大人しかったので俺もあまり出撃してないので、そんなに疲れてはいません」
実際、二人が言うように魔王軍が大人しかったおかげで、今回編成されて最前線へと向かった兵士達はそれほど疲弊はしていない。とはいえ、連続の移動は堪えるだろうが二人は勇者である。弱音など吐きはしなかった。
「そうか。それは心強いな」
「ハハハ、まあ、全部終わった後に特別ボーナスを期待してますよ」
「ああ、いいだろう。俺の方から陛下に伝えておこう」
「うひょー! 俄然やる気が出てきましたわ!」
そう言ってお茶らけているがクロイスなりの気遣いである。本当ならしばらくはゆっくりと休んでいたいだろう。本人たちは大して戦闘を行っていないから疲労はないと言っているが、最前線にいたのだ。いつ魔王軍が襲い来るかも分からない状況だったのだから、きっと心労は大きかっただろう。
その事が分かっているダリオスはクロイスの気遣いに心の中で頭を下げる。本人は適当な性格と言っているが、本当は心優しいことを誰もが知っている。彼がどれだけの人間を救って来たか。正確無比の弓使いで、多くの兵士を後方から支えてきたクロイス。
アリサやダリオスに隠れがちだが、彼もまた勇者である。
「さて、会議はこれくらいにしようか。具体的な作戦は道中にしよう。俺はこれから陛下に相談してくる。明日の朝に出発するから、各自準備を整えておくように」
最後はダリオスが締めくくり、勇者会議は終了となる。
部屋を出てライはすぐにアルとミクと合流する。アリサとシエルは久しぶりに幼馴染との再会を邪魔しないように席を外した。
ライは二人と一緒に廊下を歩いていく。とりあえず、用意されている自分の部屋を招くつもりだった。
そこなら、話しやすいだろうと思って二人を連れて部屋へ戻る。
二人を連れて戻ったライはメイドにお菓子とお茶を用意してもらうように伝える。メイドがお菓子を用意している間に二人と部屋へ入った。
「適当に座ってくれ」
「ああ」
「お邪魔します」
人数分の椅子はあるので、それぞれ席へ着く。椅子に座ったライは何から話そうかと考えていたら、先にアルが口を開いた。
「そうだ、ライ。父さんや母さんは元気にしてるか? 一応手紙は出してるけど、実際はどうなのかなって」
一番聞かれたくないことを訊かれてしまいライは動揺したが、二人には秘密だという事を聞いていたので必死に冷静な態度を取り繕い、アルの質問に答える。
「ああ。元気にしているよ。孫の顔はまだ見れないのかって嘆いてたぞ~」
「んなッ! そ、そういうのはまだ考えてねえよッ!」
「そ、そうだよ! 戦争中なのに、そんな余裕ないよ!」
「そ、そっか。そうだよな! アハハハハ~」
『主よ……』
『マスター……』
絶賛、真っ盛り中のライは二人のセリフに申し訳なくなる。戦争中だというにの、そのような行為に耽るなど不謹慎であろう。
しかし、だからこそ、燃えるものあるというものだ。明日、死んでしまうかもしれないとなったら、子孫を残そうと奮起するのは間違っていない。
ただ、やはり、少々不謹慎であるかもしれないが。それでも、何もしないで後悔するよりはいいだろう。
「ま、そっちはいいけどさ。両親が元気ならそれでいいさ」
「私、ライが聖剣や魔剣に選ばれた時の事とか聞きたい!」
「あ、それは俺も気になる! あと、白黒の勇者ってのも!」
「うんうん! それもそれも! あとはね~、やっぱりアリサ様とシエル様とどういやって仲良くなったのかも聞きたいな~」
「わかった、わかったって。全部話すよ。俺がこれまでどんな旅をしてきたかをな」
それから、三人は昔のように笑いながら、時折茶々を入れながら、面白おかしく話し合うのであった。
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