第113話 勇者会議

 ライ達が部屋に着くと、そこには円卓に腰掛けている勇者達の姿があった。すでに全員集まっているようで、ライ達は最後だったらしい。


 しかし、そのようなことはどうでもいい。ライは一目散に駆け出した。それと同じくアルとミクも駆け出してライに飛びつくのだった。


「久しぶりだな! 二人とも!」

「そっちこそ! 元気にしてたか!」

「うんうん! 会えて嬉しいよ!」


 数年振りに見た二人は逞しく、そして美しく成長している。アルはライに負けないくらい立派な体つきをしており、ミクは美貌に磨きがかかっていた。とはいえ、アリサとシエルの方が綺麗だとライはかつての思い人に対して失礼な感想を抱いていた。

 それも仕方がないだろう。二人は絶世の美女と呼ばれる部類だ。対してミクは村一番であっても国一番かと言われると厳しい。


 当然可愛いのは可愛いのだが、二人の方が数段上である。ライの贔屓目抜きでも二人に軍配が上がるだろう。


 ライは多くの人間に会って来たのだから、それだけ多くの美人を目にしている。不本意ではあるだろうがカーミラも美女という点では二人に勝らずとも劣らずであった。もっとも、彼女は魔族なので見つけ次第抹殺するが。


 それゆえにライの目も肥えてしまっているのだ。それに加えて思い出を美化しすぎてしまっているのも要因の一つだ。彼女が一番かわいいと思っていたのは狭い村の中でしか生きて来なかったライの価値観の所為である。


「(う~ん……。ミクも綺麗になってるんだけど、二人の方がもっと綺麗かな)」

『なんだ? 早速惚気か?』

「(いや、そうじゃないって!)」

『仕方ありませんよ。彼女も可愛らしいですが、客観的に見て美貌という点は二人の方が上でしょう。勿論、価値観は人それぞれなので一概に二人が至高とは言えませんが』

「(まあ、俺にとって二人が一番だから。二人のおかげでミクの事は完全に割り切れたしね。特にこれといった感情はないよ。今はただ懐かしいっていう感じしかないかな)」


 かつては思い人であったが、すでにアリサとシエルという最愛の女性を見つけているライはもうミクの事を割り切っていた。

 今はそのような事よりも久しぶりの再会に喜んでいる。二人は今まで何をしていたのだろうかと気になっているライは二人へ話しかけた。


「なあ、二人は――」

「ゴホン。ライ、アル、ミク。久方ぶりに再会して喜ぶ気持ちは理解できないでもないが、今は先に話したいことがある」


 この場を仕切っているダリオスが咳払いをして三人の感動の再会を中断させた。今日、この場に勇者全員を呼んだのは大事な話があるからだ。

 決して三人の再会の場を設けたわけではない。

 その事を思い出した三人は一言謝ってから、それぞれの用意されていた席へ着く。


「さて、全員集まったところで話し合いを始めたいと思う。クロイス、まず君に聞きたいのだが魔王軍の様子はどうだった?」

「ああ。まず俺が思ったのは報告で聞いていた通り、妙に魔王軍の動きが大人しかった事だな。こっちが攻めない限りは、基本静観といった感じだった。とはいっても、多少の攻撃はしてきたが、それでも以前に比べると緩い。まるで時間を稼いでいるように思えた」

「ふむ、なるほど。やはり、魔王軍は何かを企んでいるという事か」

「ええ。それが何のなのかは分かりませんがね」


 肩を竦めて困ったように眉を下げているクロイスと顎に手を当てて魔王軍が何を企んでいるのだろうかと思案するダリオス。

 二人の会話が終わり、沈黙がしばらく続いた。やがて、ダリオスは考えが纏まったのか、彼は顎に当てていた手を戻して、円卓に腰掛けている勇者達を見回した。


「状況は聞いてのとおりだ。敵の狙いは分からんが、これは絶好の機会だ。こちらから打って出る」

「しかし、どうするんです? 全戦力を投入すると守りが手薄になってしまいますよ?」

「クロイスの言うとおりだが、この機を逃す手はない。俺達、勇者を全員投入して一気に魔王を討ち取る」

「敵の作戦だったら? 俺達がいなくなった隙を狙って帝都を落とす罠にも思えますよ」

「ああ、その点は俺も思ったが、それはないだろう」

「どうして、そう言いきれるんですか?」


 ダリオスの発言にクロイスは引っかかりを覚えて聞き返す。根拠もないはずなのに、どうしてそのように言い切れるのだろうかとクロイスは疑問を抱いていた。

 その疑問に答えるべくダリオスはライを見て、立ち上がった。


「俺がどうしてそう言いきれるか、それはそこにいる白黒の勇者ライからの情報によって判断した結果だ」


 その言葉を聞いたアリサとシエル以外の勇者がライの方へ振り向く。驚愕している者、感心して口笛を吹いている者と、その反応は別れていた。


「ヒュー、なるほどね。つまり、そこにいる彼が何かしらの情報を持っていたわけだ。で、それはどんなものなんですか?」

「俺も聞いたときは驚いたが、ライは魔王軍四天王の四人と会っている。その内、三人とは戦闘まで行っているそうだ」

「んなッ!? マジかよ! どうりで強かったわけだ……」

「おほ、マジかよ。誰も知らなかった四天王と顔合わせしているどころか、戦ってるとはな……」

「すげ~! ライ、凄いな! 俺、ビックリしたぜ!」


 と、褒められているみたいでライは照れ臭そうに頭をかいていたが、内心では嬉しそうに喜んでいた。まあ、褒められたら嬉しくなるのは当然であろう。


「さて、自己紹介が遅れてしまったな。ライ、何人かは知っていると思うが、改めて自己紹介をしよう」

「はい。アルバ村出身のライと言います。聖剣と魔剣に選ばれて、今は白黒の勇者と呼ばれてます。よろしくお願いします」

「ハハハ、そう畏まらなくてもいいんだぜ。もっと緩い感じで行こうぜ」


 そう言ってライに手を振るクロイス。ライはそれを見て苦笑い。どのように返答すればいいのかと困っていたら、隣に座っていたアリサがライに助言する。


「クロイスのことは適当でいいのよ。あいつ自身も適当な人間だから」

「おいおい、聞き捨てならないな。そりゃ~」

「本当のことでしょう?」

「まあ、反論はできん」

「面白い人ですね~」

「てか、本当に聖女シエル様までいるんだな? なんだ? ライ、もしかして二人とも彼女ってか!? ま、流石にそれはないか~、ハッハッハッハッハ」


 などとクロイスがふざけたように笑っていたら、二人は立って自己紹介をしていたライの両腕に絡みつくと、宣言した。


「そうよ。私はライの婚約者よ」

「勿論、私もです」

「ほあッ!?」


 あまりの驚きにガターンッと仰け反ってクロイスは座っている椅子ごと後ろに倒れる。まさか、冗談で言った台詞が本当だったとは誰が予測できようか。あの天才美少女と自ら公言していたアリサと清廉潔白で穢れを知らない聖女と呼ばれていたシエルがライの婚約者になっていようとは誰も思わなかっただろう。


 目を丸くするクロイスは立ち上がり、椅子を直して座りながら渇いた笑みを浮かべる。


「ハハハ、まさか冗談で言ったつもりだったんだが……マジ?」

「マジよ」

「熱々のラブラブです!」

「だから、アンタそういう恥ずかしいことは言わないでってば!」

「え? でも、これくらいなら良くないですか? 流石にもうに――もがッ!?」

「ぎゃああああッ! アンタ、何を言おうとしてんのよッ!」


 公けの場とは言わないが、勇者が全員揃っている場でとんでもないことをカミングアウトしそうになったシエルの口を慌ててアリサが手で塞いだ。

 時すでに遅し。それだけの反応を見せられれば丸分かりだ。三人がすでに肉体関係であることを判断するには十分であった。


「アハハハ~……」


 気まずそうに真ん中で笑うライに周囲の勇者達も引き攣った笑みを浮かべるのが精一杯であった。


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